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三日目
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一行が洋館へ戻ると、アキは「気分が悪い」といってすぐに部屋にこもり、心配したキョウコも彼女を介抱するため二階へ上がった。
レンは、自分もふたりのそばにいたいと思ったが、さすがに体調が優れず部屋で休んでいる女のもとへ押しかけることもできず、自分の部屋に戻って、さてどうしたものかと考えていると、すぐに、コン、コンと部屋のドアがノックされた。
「レンくん、ちょっといい?」
ユイだった。
「……どうした?」
平静を装って答えると、ドアが開いて、黒ワンピースの女が笑顔をみせた。
「いま、辻村さんから連絡があって、よかったらこれから研究所に見学にこないか、だって」
「……っ」
それは、まったく予想もしていなかった申し出だった。
(あの研究所に、入れる?)
(願ってもないチャンスだが……わざわざ今、「仲間」ではないオレをあそこに招き入れる狙いは、何だ?)
(あの研究所に入ったら最後、オレは二度とあそこから出られなくなるんじゃないか……)
「どうする? アキとキョウコ以外はみんないくけど」
「……」
レンは、視線を泳がせつつ唇を噛んだ。
(危険なのは、間違いない……)
(だが、虎穴に入らずんば虎子を得ず、だ。この島の秘密を暴くためには――)
「いくよ、オレも」
レンが答えると、ユイはニッコリ笑って、うなずいた。
「じゃあ、準備が出来たら下りてきて。待ってるから」
女が去った後、レンは早鐘を打つ胸を押さえて、震える息を吐いた。
(今回はアキはもちろん、キョウコだって連れていくわけにはいかない。あまりにも危険すぎる)
(オレが、ひとりで乗り込むしかないんだ……)
覚悟を決めて部屋を出て、一階のエントランスへいくと、ユイが三人の「仲間」とともに並んで立っていた。
「じゃ、いこっかぁっ」
明るい笑顔でいうヒトミに冷たい眼差しを返して、レンは四人とともに洋館を出る。
ミニバンを数分走らせて、あの奇妙な外観の研究所に到着すると、飾り気のない玄関から白衣を着た辻村が手を振りながら出てきた。
「エヌバイオファーマ黒賀島研究所へようこそ。歓迎するよ」
「オレたちみたいな部外者を、ほいほい中に入れちゃっていいんですか?」
レンが無愛想に訊くと、男は品よく肩をすくめてみせた。
「構わないさ。ここは、悪の秘密基地じゃないからね。それに、なんといったって、君たちは八神さんの友人だから」
「……」
男の笑顔には一分の隙も無く、完璧すぎるほど整っていて、その裏に隠された本心を読み取ることはできなかった。
レンは、汗でねばつく手をそっとズボンにこすりつけつつ、他のメンバーの後について研究所の中へと足を踏み入れた。
レンは、自分もふたりのそばにいたいと思ったが、さすがに体調が優れず部屋で休んでいる女のもとへ押しかけることもできず、自分の部屋に戻って、さてどうしたものかと考えていると、すぐに、コン、コンと部屋のドアがノックされた。
「レンくん、ちょっといい?」
ユイだった。
「……どうした?」
平静を装って答えると、ドアが開いて、黒ワンピースの女が笑顔をみせた。
「いま、辻村さんから連絡があって、よかったらこれから研究所に見学にこないか、だって」
「……っ」
それは、まったく予想もしていなかった申し出だった。
(あの研究所に、入れる?)
(願ってもないチャンスだが……わざわざ今、「仲間」ではないオレをあそこに招き入れる狙いは、何だ?)
(あの研究所に入ったら最後、オレは二度とあそこから出られなくなるんじゃないか……)
「どうする? アキとキョウコ以外はみんないくけど」
「……」
レンは、視線を泳がせつつ唇を噛んだ。
(危険なのは、間違いない……)
(だが、虎穴に入らずんば虎子を得ず、だ。この島の秘密を暴くためには――)
「いくよ、オレも」
レンが答えると、ユイはニッコリ笑って、うなずいた。
「じゃあ、準備が出来たら下りてきて。待ってるから」
女が去った後、レンは早鐘を打つ胸を押さえて、震える息を吐いた。
(今回はアキはもちろん、キョウコだって連れていくわけにはいかない。あまりにも危険すぎる)
(オレが、ひとりで乗り込むしかないんだ……)
覚悟を決めて部屋を出て、一階のエントランスへいくと、ユイが三人の「仲間」とともに並んで立っていた。
「じゃ、いこっかぁっ」
明るい笑顔でいうヒトミに冷たい眼差しを返して、レンは四人とともに洋館を出る。
ミニバンを数分走らせて、あの奇妙な外観の研究所に到着すると、飾り気のない玄関から白衣を着た辻村が手を振りながら出てきた。
「エヌバイオファーマ黒賀島研究所へようこそ。歓迎するよ」
「オレたちみたいな部外者を、ほいほい中に入れちゃっていいんですか?」
レンが無愛想に訊くと、男は品よく肩をすくめてみせた。
「構わないさ。ここは、悪の秘密基地じゃないからね。それに、なんといったって、君たちは八神さんの友人だから」
「……」
男の笑顔には一分の隙も無く、完璧すぎるほど整っていて、その裏に隠された本心を読み取ることはできなかった。
レンは、汗でねばつく手をそっとズボンにこすりつけつつ、他のメンバーの後について研究所の中へと足を踏み入れた。
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