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三日目
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洋館の部屋でひとりベッドに横になったアキは、ぼんやりと天井を見上げる。
さっき、町で燃えている家の中に人がいたように見えたのは、やっぱりただの見間違えだったにちがいない――。
そう思ったら、少し気分もよくなって、キョウコにも「もう大丈夫」だと告げて、部屋から出ていってもらった。
キョウコはいつも親切にしてくれるけど、正直、あの子のことはあまり好きになれない。
美人で、スタイルも頭も性格も良くて、おまけに帰国子女の社長令嬢。きっと仕送りだって毎月使いきれないくらい沢山もらってる、生まれついての勝ち組。
(うちとは、何もかもがちがう……)
スマホに溜まったラインの通知をみて、アキはため息をつく。
ほとんどが、『パパ』たちからの誘いのメッセージだ。
本格的にはじめてそろそろ三ヶ月。いまでは毎月五人くらいと会って、十万以上は余裕で稼げるようになっている。
でも、それももう限界。
汚いオヤジたちにこのカラダを差し出すたびに、心が、魂が、ガリガリと少しずつ、確実に削られて、胸の中がカラッポになっていく。
だから、もうやめることにした。自分が自分でなくなるまえに。
で、新たな人生の一歩を踏み出すために、このつまらない旅行に参加した。
高宮リクを、手に入れるために。
高校の時から、ちょっといいな、とは思ってた。でも、東京の大学にいけばもっといい男がたくさんいるだろうと思って、アプローチはしなかった。
それが、間違いだった。うちが通う大学にいる男は、ほんとバカばっかりで、将来性のカケラもない。
やっぱり、高宮リクが一番だ。高身長のイケメンで、頭もよくて、将来は国際弁護士。
今ならわかる、五ツ星の最優良物件。絶対に、逃しちゃだめだ。
この旅行中に付き合うとこまではいけなくても、せめて仲良くなって、東京に戻ってからもよく遊ぶ仲になれれば、よし。
いや、思いきって今夜あたり、酔ったふりして部屋に忍び込んで、既成事実をつくっちゃうのもアリ、かも……。
「ふふ……」
枕を抱いて、ニヤニヤ笑いながら身悶えしていると、ふと、コンコンとドアが叩かれる音。
「……? だれ?」
「俺だ」
まさかまさかの、高宮リクだった。
「入っていいか?」
「えっ、あ、うん。どうぞ」
部屋に入ってきたリクは、まっすぐベッドの側まできて、アキを心配そうに見下ろした。
「具合はどうだ?」
「う、うん。もう大丈夫……。高宮クン、みんなと出掛けたんじゃなかったの?」
「桜井のことが心配になって、先に帰ってきた」
「そうなんだ……。ごめんね、心配かけて」
アキは、自分の頬が紅く染まっていくのを自覚した。
「いや……」
微笑んで言った男は、女の薄いピンクのTシャツに包まれたEカップのバストにちらちらと目をやる。
(うちの胸みてる……もしかして、これってチャンス?)
アキは、さりげなくスマホで時刻を確認する。
(みんなが帰ってくるまでには、まだ時間がありそう……)
「きょ、キョウコは?」
「食堂でひとりで酒飲んでる。たぶん、あのまま眠っちゃうだろうな」
「そうなんだ……」
(チャンスだ。これって、すごいチャンスだよ)
視線を泳がせたアキは、なんとなく男の下半身に目をやって――、
「っ!?」
相手のズボンがすでに大きなテントを張っているのに気づいて、ごくりと唾を呑んだ。
(うちのカラダみて、興奮してるんだ……)
(ていうか、高宮クンの、すっごく大きい)
(ど、どうしよう……?)
アキは、リクがずっと物欲しそうな目で自分のカラダを視姦し続けているのをみて、ついに覚悟を決める。
「ねえ……ずっと立ってたら、疲れるでしょ? ここにきていいよ……」
アキが、ベッドの端に寄って、空いたスペースをぽんぽんと手で叩くと、リクは、
「いいのか?」
恥ずかしそうに言いつつ、女の隣に横になった。
シングルベッドの上で身体を密着させたふたりが、そのまま情熱的な口づけを交わすまで、三分もかからなかった。
さっき、町で燃えている家の中に人がいたように見えたのは、やっぱりただの見間違えだったにちがいない――。
そう思ったら、少し気分もよくなって、キョウコにも「もう大丈夫」だと告げて、部屋から出ていってもらった。
キョウコはいつも親切にしてくれるけど、正直、あの子のことはあまり好きになれない。
美人で、スタイルも頭も性格も良くて、おまけに帰国子女の社長令嬢。きっと仕送りだって毎月使いきれないくらい沢山もらってる、生まれついての勝ち組。
(うちとは、何もかもがちがう……)
スマホに溜まったラインの通知をみて、アキはため息をつく。
ほとんどが、『パパ』たちからの誘いのメッセージだ。
本格的にはじめてそろそろ三ヶ月。いまでは毎月五人くらいと会って、十万以上は余裕で稼げるようになっている。
でも、それももう限界。
汚いオヤジたちにこのカラダを差し出すたびに、心が、魂が、ガリガリと少しずつ、確実に削られて、胸の中がカラッポになっていく。
だから、もうやめることにした。自分が自分でなくなるまえに。
で、新たな人生の一歩を踏み出すために、このつまらない旅行に参加した。
高宮リクを、手に入れるために。
高校の時から、ちょっといいな、とは思ってた。でも、東京の大学にいけばもっといい男がたくさんいるだろうと思って、アプローチはしなかった。
それが、間違いだった。うちが通う大学にいる男は、ほんとバカばっかりで、将来性のカケラもない。
やっぱり、高宮リクが一番だ。高身長のイケメンで、頭もよくて、将来は国際弁護士。
今ならわかる、五ツ星の最優良物件。絶対に、逃しちゃだめだ。
この旅行中に付き合うとこまではいけなくても、せめて仲良くなって、東京に戻ってからもよく遊ぶ仲になれれば、よし。
いや、思いきって今夜あたり、酔ったふりして部屋に忍び込んで、既成事実をつくっちゃうのもアリ、かも……。
「ふふ……」
枕を抱いて、ニヤニヤ笑いながら身悶えしていると、ふと、コンコンとドアが叩かれる音。
「……? だれ?」
「俺だ」
まさかまさかの、高宮リクだった。
「入っていいか?」
「えっ、あ、うん。どうぞ」
部屋に入ってきたリクは、まっすぐベッドの側まできて、アキを心配そうに見下ろした。
「具合はどうだ?」
「う、うん。もう大丈夫……。高宮クン、みんなと出掛けたんじゃなかったの?」
「桜井のことが心配になって、先に帰ってきた」
「そうなんだ……。ごめんね、心配かけて」
アキは、自分の頬が紅く染まっていくのを自覚した。
「いや……」
微笑んで言った男は、女の薄いピンクのTシャツに包まれたEカップのバストにちらちらと目をやる。
(うちの胸みてる……もしかして、これってチャンス?)
アキは、さりげなくスマホで時刻を確認する。
(みんなが帰ってくるまでには、まだ時間がありそう……)
「きょ、キョウコは?」
「食堂でひとりで酒飲んでる。たぶん、あのまま眠っちゃうだろうな」
「そうなんだ……」
(チャンスだ。これって、すごいチャンスだよ)
視線を泳がせたアキは、なんとなく男の下半身に目をやって――、
「っ!?」
相手のズボンがすでに大きなテントを張っているのに気づいて、ごくりと唾を呑んだ。
(うちのカラダみて、興奮してるんだ……)
(ていうか、高宮クンの、すっごく大きい)
(ど、どうしよう……?)
アキは、リクがずっと物欲しそうな目で自分のカラダを視姦し続けているのをみて、ついに覚悟を決める。
「ねえ……ずっと立ってたら、疲れるでしょ? ここにきていいよ……」
アキが、ベッドの端に寄って、空いたスペースをぽんぽんと手で叩くと、リクは、
「いいのか?」
恥ずかしそうに言いつつ、女の隣に横になった。
シングルベッドの上で身体を密着させたふたりが、そのまま情熱的な口づけを交わすまで、三分もかからなかった。
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