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三日目
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午後四時。
レンとキョウコがふたりきりになれるチャンスが、突然やってきた。
「あっ、もうビールがなーい」
庭に出したクーラーボックスの中を覗いてキョウコが不満げな声をあげた時、すかさずレンが、
「クルマ出すから一緒に買いに行こう。俺、まだ酒飲んでないから」
と、申し出た。バーベキューがはじまる前から、ずっとこの機会を狙って、ひとりジュースで我慢していたのだ。
「うーん……、そだね。ツマミも補充しなきゃだし」
キョウコは、笑ってうなずいた。
この場にいたリクが「俺も一緒にいく」と言い出すかと思ったが、意外にも彼は何も言わなかった。
(今さら、オレにはもう何もできない、と高をくくってるのか……)
相手の余裕たっぷりの態度にレンは苛立ったが、しかし、この展開はこちらにも好都合だった。
「じゃ、いってくる」
レンは、洋館のエントランスからミニバンのカギを取って来ると、キョウコとふたりでその場を後にした。
ふたりでミニバンに乗るとすぐ、レンはこれまで自分がこの島で目にした奇妙なモノや出来事について、キョウコに詳細に語ってきかせた。
そして、さらに、もう「洗脳」を受けていないのは自分とキョウコだけで、ふたりとも今夜にも襲われる可能性が高い、ということを熱心に忠告した。
が――、
「……もう、その話、やめよう?」
助手席に座ったキョウコは、同情と軽蔑が入り混じった、複雑な表情でレンを見つめた。
「わたしを怖がらせて楽しもうとしてるのかもしれないけど、子供っぽくて全然楽しくないし、正直、しつこいよ」
「っ……」
女の厳しい言葉にレンはショックを受けたが、しかしそこではまだ引き下がらなかった。
「これは、冗談なんかじゃないっ! オレは本気だよ。昨日と今日で、高宮と桜井の雰囲気が変わったことに気づいただろ? あいつらも、オレたちの目が届かないところで「洗脳」されちゃったんだよ!」
キョウコは、ため息をついた。
「たしかに、アキとリクがちょっとイイ感じになってるのは気づいたけど……。なんでそれが洗脳とかの話に結びついちゃうの?」
「いや、だって、おかしいだろ――」
「証拠は?」
「えっ」
「わたしたち以外のみんなが洗脳されちゃった、っていう証拠は、何かあるの?」
「いや、それは……」
レンが口ごもると、キョウコは、悲しげに目を伏せた。
「一体どうしちゃったの……? 昔のレンは、他人を傷つけるような酷い言葉は絶対に口にしなかったのに……」
「……」
「本当に、ちょっと反省してよね。このままだと、わたし、レンのこと本当に嫌いになっちゃいそうだから」
ここまで徹底的に拒絶されたら、さすがのレンも、もう何も言えなくなった。
(くそ……なんで、こうなるんだっ……)
虚しい気持ちを抱えたまま、ふたたび戻ってきた洋館を見上げて、決意する。
(でも、まだあきらめるわけには、いかない)
(どれだけ軽蔑され、罵られようとも、オレは、永瀬を守る)
(明日、この島を無事に出ていくその時まで、このオレが永瀬を守り抜いてみせる――)
レンとキョウコがふたりきりになれるチャンスが、突然やってきた。
「あっ、もうビールがなーい」
庭に出したクーラーボックスの中を覗いてキョウコが不満げな声をあげた時、すかさずレンが、
「クルマ出すから一緒に買いに行こう。俺、まだ酒飲んでないから」
と、申し出た。バーベキューがはじまる前から、ずっとこの機会を狙って、ひとりジュースで我慢していたのだ。
「うーん……、そだね。ツマミも補充しなきゃだし」
キョウコは、笑ってうなずいた。
この場にいたリクが「俺も一緒にいく」と言い出すかと思ったが、意外にも彼は何も言わなかった。
(今さら、オレにはもう何もできない、と高をくくってるのか……)
相手の余裕たっぷりの態度にレンは苛立ったが、しかし、この展開はこちらにも好都合だった。
「じゃ、いってくる」
レンは、洋館のエントランスからミニバンのカギを取って来ると、キョウコとふたりでその場を後にした。
ふたりでミニバンに乗るとすぐ、レンはこれまで自分がこの島で目にした奇妙なモノや出来事について、キョウコに詳細に語ってきかせた。
そして、さらに、もう「洗脳」を受けていないのは自分とキョウコだけで、ふたりとも今夜にも襲われる可能性が高い、ということを熱心に忠告した。
が――、
「……もう、その話、やめよう?」
助手席に座ったキョウコは、同情と軽蔑が入り混じった、複雑な表情でレンを見つめた。
「わたしを怖がらせて楽しもうとしてるのかもしれないけど、子供っぽくて全然楽しくないし、正直、しつこいよ」
「っ……」
女の厳しい言葉にレンはショックを受けたが、しかしそこではまだ引き下がらなかった。
「これは、冗談なんかじゃないっ! オレは本気だよ。昨日と今日で、高宮と桜井の雰囲気が変わったことに気づいただろ? あいつらも、オレたちの目が届かないところで「洗脳」されちゃったんだよ!」
キョウコは、ため息をついた。
「たしかに、アキとリクがちょっとイイ感じになってるのは気づいたけど……。なんでそれが洗脳とかの話に結びついちゃうの?」
「いや、だって、おかしいだろ――」
「証拠は?」
「えっ」
「わたしたち以外のみんなが洗脳されちゃった、っていう証拠は、何かあるの?」
「いや、それは……」
レンが口ごもると、キョウコは、悲しげに目を伏せた。
「一体どうしちゃったの……? 昔のレンは、他人を傷つけるような酷い言葉は絶対に口にしなかったのに……」
「……」
「本当に、ちょっと反省してよね。このままだと、わたし、レンのこと本当に嫌いになっちゃいそうだから」
ここまで徹底的に拒絶されたら、さすがのレンも、もう何も言えなくなった。
(くそ……なんで、こうなるんだっ……)
虚しい気持ちを抱えたまま、ふたたび戻ってきた洋館を見上げて、決意する。
(でも、まだあきらめるわけには、いかない)
(どれだけ軽蔑され、罵られようとも、オレは、永瀬を守る)
(明日、この島を無事に出ていくその時まで、このオレが永瀬を守り抜いてみせる――)
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