65 / 79
三日目
64
しおりを挟む
午後四時。
レンとキョウコがふたりきりになれるチャンスが、突然やってきた。
「あっ、もうビールがなーい」
庭に出したクーラーボックスの中を覗いてキョウコが不満げな声をあげた時、すかさずレンが、
「クルマ出すから一緒に買いに行こう。俺、まだ酒飲んでないから」
と、申し出た。バーベキューがはじまる前から、ずっとこの機会を狙って、ひとりジュースで我慢していたのだ。
「うーん……、そだね。ツマミも補充しなきゃだし」
キョウコは、笑ってうなずいた。
この場にいたリクが「俺も一緒にいく」と言い出すかと思ったが、意外にも彼は何も言わなかった。
(今さら、オレにはもう何もできない、と高をくくってるのか……)
相手の余裕たっぷりの態度にレンは苛立ったが、しかし、この展開はこちらにも好都合だった。
「じゃ、いってくる」
レンは、洋館のエントランスからミニバンのカギを取って来ると、キョウコとふたりでその場を後にした。
ふたりでミニバンに乗るとすぐ、レンはこれまで自分がこの島で目にした奇妙なモノや出来事について、キョウコに詳細に語ってきかせた。
そして、さらに、もう「洗脳」を受けていないのは自分とキョウコだけで、ふたりとも今夜にも襲われる可能性が高い、ということを熱心に忠告した。
が――、
「……もう、その話、やめよう?」
助手席に座ったキョウコは、同情と軽蔑が入り混じった、複雑な表情でレンを見つめた。
「わたしを怖がらせて楽しもうとしてるのかもしれないけど、子供っぽくて全然楽しくないし、正直、しつこいよ」
「っ……」
女の厳しい言葉にレンはショックを受けたが、しかしそこではまだ引き下がらなかった。
「これは、冗談なんかじゃないっ! オレは本気だよ。昨日と今日で、高宮と桜井の雰囲気が変わったことに気づいただろ? あいつらも、オレたちの目が届かないところで「洗脳」されちゃったんだよ!」
キョウコは、ため息をついた。
「たしかに、アキとリクがちょっとイイ感じになってるのは気づいたけど……。なんでそれが洗脳とかの話に結びついちゃうの?」
「いや、だって、おかしいだろ――」
「証拠は?」
「えっ」
「わたしたち以外のみんなが洗脳されちゃった、っていう証拠は、何かあるの?」
「いや、それは……」
レンが口ごもると、キョウコは、悲しげに目を伏せた。
「一体どうしちゃったの……? 昔のレンは、他人を傷つけるような酷い言葉は絶対に口にしなかったのに……」
「……」
「本当に、ちょっと反省してよね。このままだと、わたし、レンのこと本当に嫌いになっちゃいそうだから」
ここまで徹底的に拒絶されたら、さすがのレンも、もう何も言えなくなった。
(くそ……なんで、こうなるんだっ……)
虚しい気持ちを抱えたまま、ふたたび戻ってきた洋館を見上げて、決意する。
(でも、まだあきらめるわけには、いかない)
(どれだけ軽蔑され、罵られようとも、オレは、永瀬を守る)
(明日、この島を無事に出ていくその時まで、このオレが永瀬を守り抜いてみせる――)
レンとキョウコがふたりきりになれるチャンスが、突然やってきた。
「あっ、もうビールがなーい」
庭に出したクーラーボックスの中を覗いてキョウコが不満げな声をあげた時、すかさずレンが、
「クルマ出すから一緒に買いに行こう。俺、まだ酒飲んでないから」
と、申し出た。バーベキューがはじまる前から、ずっとこの機会を狙って、ひとりジュースで我慢していたのだ。
「うーん……、そだね。ツマミも補充しなきゃだし」
キョウコは、笑ってうなずいた。
この場にいたリクが「俺も一緒にいく」と言い出すかと思ったが、意外にも彼は何も言わなかった。
(今さら、オレにはもう何もできない、と高をくくってるのか……)
相手の余裕たっぷりの態度にレンは苛立ったが、しかし、この展開はこちらにも好都合だった。
「じゃ、いってくる」
レンは、洋館のエントランスからミニバンのカギを取って来ると、キョウコとふたりでその場を後にした。
ふたりでミニバンに乗るとすぐ、レンはこれまで自分がこの島で目にした奇妙なモノや出来事について、キョウコに詳細に語ってきかせた。
そして、さらに、もう「洗脳」を受けていないのは自分とキョウコだけで、ふたりとも今夜にも襲われる可能性が高い、ということを熱心に忠告した。
が――、
「……もう、その話、やめよう?」
助手席に座ったキョウコは、同情と軽蔑が入り混じった、複雑な表情でレンを見つめた。
「わたしを怖がらせて楽しもうとしてるのかもしれないけど、子供っぽくて全然楽しくないし、正直、しつこいよ」
「っ……」
女の厳しい言葉にレンはショックを受けたが、しかしそこではまだ引き下がらなかった。
「これは、冗談なんかじゃないっ! オレは本気だよ。昨日と今日で、高宮と桜井の雰囲気が変わったことに気づいただろ? あいつらも、オレたちの目が届かないところで「洗脳」されちゃったんだよ!」
キョウコは、ため息をついた。
「たしかに、アキとリクがちょっとイイ感じになってるのは気づいたけど……。なんでそれが洗脳とかの話に結びついちゃうの?」
「いや、だって、おかしいだろ――」
「証拠は?」
「えっ」
「わたしたち以外のみんなが洗脳されちゃった、っていう証拠は、何かあるの?」
「いや、それは……」
レンが口ごもると、キョウコは、悲しげに目を伏せた。
「一体どうしちゃったの……? 昔のレンは、他人を傷つけるような酷い言葉は絶対に口にしなかったのに……」
「……」
「本当に、ちょっと反省してよね。このままだと、わたし、レンのこと本当に嫌いになっちゃいそうだから」
ここまで徹底的に拒絶されたら、さすがのレンも、もう何も言えなくなった。
(くそ……なんで、こうなるんだっ……)
虚しい気持ちを抱えたまま、ふたたび戻ってきた洋館を見上げて、決意する。
(でも、まだあきらめるわけには、いかない)
(どれだけ軽蔑され、罵られようとも、オレは、永瀬を守る)
(明日、この島を無事に出ていくその時まで、このオレが永瀬を守り抜いてみせる――)
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる