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【第四章】 『北の魔王』ザラ
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「ぐあっはっはっはあっ! 待っていたぞお、ネズミどもおっ!」
場所は、ヴァンドール城一階の大ホール。
上階へと続く階段の前に立ち塞がる鎧姿の大男に気づいて、四人は一斉に身構える。
身の丈ほどもある戦斧を軽々と肩の担いだ坊主頭のその男は、特徴的な金色の眼と青い肌をしていて、ひと目で純血の魔族だとわかる。
「さすがはザラ様だあっ! 悪知恵のはたらく人間どものこと、戦の最中に何者かがここに奇襲をかけてくるやもしれんとお考えになり、我ら四天王をあえて城内に残されたが……その予想は見事的中したなあっ!」
「四天王、だと……っ」
口惜しげに顔を歪めるアンドローズを見て、大男は豪気に笑う。
「ぐあっはっはっはあっ! そうっ! 我こそはザラヴァンドール配下の四天王がひとり、砕界のゴレマルスッ! ここで貴様らをブチ殺す漢の名だあっ、よく覚えてお――」
言い終らぬうちに、突然、シュンッ! と鋭く空気を裂く音がして、男の胸にドンッ! と一本の矢が突き刺さる。
「はへっ!?」
驚愕しつつ自分の胸を見下ろすゴレマルスの全身に、さらにドドドドドドッ!! と十本ほどの矢が連続して刺さると、
「ぐっおぉっ……ば、ばかなっ! 魔族の中でも最高の硬度を誇る俺の肉体を、矢で射貫く、など……っ!」
冷たい表情で美しく弓を構える女エルフを見つめたまま、大男はドシィィン……と派手な音を立てて仰向けに倒れる。
「お話の途中にごめんなさいね。でも、わたし、昔からとにかくハゲが生理的に無理で、見ているだけでムカムカしてくるんです。だから、つい、射っちゃいました」
「っ!? そ、そうかっ、貴様があの噂に聞く『フェルランディアの弓聖』……。み、見事だ……」
「ハゲに褒められてもあまりうれしくありません」
ぐはっ、と口から大量の青い血を吐き出した男は、震える唇から必死に声を絞り出した。
「え、エルフの女よ……ひとつだけ、言わせてくれ……」
「なんですか?」
「お、俺は……ハゲじゃない……。坊主、だ……」
ゴレマルスは、それだけ言い残すと、ガクリと頭を垂れて、こと切れた。
それが、殺戮と狂乱の中にしかおのれの生を見つけることのできなかった、不器用でどこまでも真直ぐな武人の、壮絶な最期であった。
「……いくぞ」
一行は、もはや男の亡骸には一瞥もくれることなく、奥の階段を一気に駆け上がる。
*****
「クックックック……お前たちがここまでやってきたということは、ゴレマルスが破れたということかのお……」
上の階で四人を待っていたのは、紫色のローブを身に纏った白髪頭の小柄な老人だった。金色の眼と青い肌をしているので、彼もまた純血の魔族であるのは間違いない。
「しかし、思い上がってはならんぞ? ゴレマルスは、ワシら四天王の中でも最弱。ヤツの実力は、このワシ、絶禍のスネメイルの足元にも及ばんのじゃからなあ」
「なん、だと……っ!?」
「戦場に出られず、ちょうど退屈しておったところじゃ。暇潰しに、一人ずつ、じっくり時間をかけて嬲り殺しにし――」
「覇王の烈閃!!」
イリアナがだしぬけに呪文を発動。三日月形の赤い閃光を飛ばし、残忍な笑みを浮かべていた老人に直撃させる。
「ぐぎゃぁぁぁああぁぁぁあああーーーっ!!!!」
烈光に全身を灼き尽くされ、黒焦げになったスネメイルは、つまらなそうに腰に手を当てている魔女を呆然と見つめる。
「がっ、がはっ……あっ、ありえぬっ……! 魔族随一の魔力耐性をもつこのワシを、たった一発の魔法でなどっ……」
「あー、そーいうのもういいから。あたしら、急いでるから」
「み、見誤った……。このスネメイル、一生の不覚。ザラ様、申し訳ございま、せん……」
魔族の老人はそれだけ言うと、ぱさり、と軽い音を立てて床に倒れ、二度と動かなくなった。
それが――数百年の長きにわたり、この世界に恐怖と絶望を撒き散らしてきた邪悪な魔導士の、あまりにもあっけない最期であった。
「……いくぞ」
*****
四人がふたたび階段を駆け上がり、たどり着いた部屋で待っていたのは、純白の礼服に身を包んだ中性的な美貌の青年(魔族)だった。
「君達がここまでやってきたということは、ゴレマルスとスネメイルが倒されたってことか……。やるね、君達。すごいよ」
銅色の髪をかき上げながら尊大な表情でいう青年を見つめて、イリアナがうんざりしたような顔をする。
「ねえ、前から思ってたんだけどさ、あんたたちみたいな『四天王』って、どうしていつも一人ずつ待ち構えてんの? 四人で一緒に戦ったほうが勝率上がるんじゃない?」
「……」
しばらく無言で視線を泳がせていた青年は、まもなく、ニヤリと笑って口を開く。
「……でも、同じ四天王とはいっても、僕の実力は彼らとはケタがちがう。君達の快進撃も、ここまでだよ」
「いや無視かよ。イタいとこ突かれたのバレバレじゃん」
「僕は、ザラヴァンドール配下の四天王、最強のシュラウス……。君達は四人同時にかかってきていいよ。じゃないと、僕が楽しめないからね」
言った瞬間、青年の全身からずわり、と禍々しい闘気が立ち昇る。
「っ!? ……こいつは、わたしがやる」
真剣な表情で剣を構えるアンドローズの肩に、ウィレアがさっと手を置く。
「お待ちください。あの男の言葉はハッタリではありません。おそらく、彼の実力はこれまでの四天王とは次元がちがいます。ここは全員で協力して立ち向かいましょう」
エルフの言葉に女騎士がうなずいた、その時。
「ねえ、ちょっと待ってよ」
イリアナが、不思議そうな顔で言った。
「これまでの四天王には、『砕界のゴレマルス』とか『絶禍のスネメイル』とか、いかにもそれっぽい二つ名があったのに、なんであんただけ、ただのシュラウスなのよ?」
「ふっ、何を言い出すかと思えば……」
魔族の青年は、気取った仕草で肩をすくめた。
「さっきちゃんと言っただろう。僕の名は『最強のシュラウス』、だよ」
「……は? え、『最強』? それが二つ名? マジ? それちょっとダサくない?」
「なんだと……?」
青年の顔から、それまであった余裕がみるみる消えていく。
「だって、自分で『最強』とか言っちゃうの、ヤバいでしょ。めっちゃ頭わるそうじゃん」
「……っ!」
「だいたいさ、あんた、ザラヴァンドールの部下でしょ? 上司である魔王を差し置いて自分が最強とか言っちゃうの、どーなのよ?」
「ぐぅっ……」
「あの、いかにも脳筋なゴレマルスでさえ、無い頭をしぼって『砕界』とか、まあまあそれっぽい単語見つけてきたのに、一人称が僕で、見た目もちょっとミステリアスな美青年キャラのあんたが、『最強』はダメでしょ。馬鹿丸出しじゃん」
「……っ! じゃ、じゃあ、試しに聞くけどっ! 君なら『最強』よりもっとイイ感じの言葉を思いつけるのかいっ?」
青年が今にも泣き出しそうな顔でわめくと、魔女はゆっくりうなずいた。
「そうね……できないこともないわ。ただし、そのためにはあんたのこと、もっとよく教えてもらわなきゃ」
「僕のこと……?」
「特技とか趣味とか、いろいろよ。いいから、ちょっとこっち来なさい」
イリアナが手招きすると、シュラウスは素直に彼女のそばへいき、ふたりして部屋の隅で何やら熱心に相談しはじめた。
「……これは、待ったほうがいいのか?」
「そうだね……待つしかないだろうね」
困惑するアンドローズとウィレアに、旺介がうなずいてみせ、三人で腕組みしながら待つこと、数分。
やがて――、
「よおしっ! 思いついた! これでいこうっ!」
イリアナが、誇らしげに胸を張りながら声を張り上げた。
「なになに? もったいぶらずに教えてよっ!」
プレゼントの包みを開ける前の子供みたいな顔でシュラウスが急かすと、魔女はふふふ、と笑い、
「ずばり、『冥王シュラウス』よおっ!」
と、朗々たる声で叫んだ。
「……」
女騎士とエルフは、ちょっと拍子抜けしたような顔を見合わせる。
「もったいぶったわりに、案外、普通だな……」
「そうですね。なんというか、没個性ですよね……」
しかし、意外にも、当のシュラウスはいたく感動したらしく、
「おおーっ! いいよっ! それ、すごくいいっ! 冥王! 冥王かあっ! カッコイイなあっ! なんだか、自分が前よりずっと強くなったような気がするよっ!」
金色の眼をキラキラ輝かせながら、両手を胸の前でぎゅっと握り締めた。
「気に入った?」
微笑む魔女をみて、シュラウスはうんうんっ! と何度もうなずく。
「もちろんっ! ありがとう! 君って、すごくいい人だね! 僕、この恩は一生わすれないよっ!」
「そう。よかった。じゃあ、あたしらはこれから魔王を倒しにいくから、あんたはここでちょっと眠ってて」
「えっ」
驚く青年の肩にイリアナがぽんと手を置くと、たちまち彼女の掌から烈しい電撃が放たれ、シュラウスは瞬時に失神させられた。
「……これでよし、と」
魔女は振り返って、ちょっと照れたような、困ったような顔で三人の仲間を見つめる。
「こいつは殺さないでこのままにしときましょ。馬鹿だけど、根っからの悪人ってわけでもなさそうだし……あとで、あたしがちゃんと責任もって飼うからさ」
「……ふっ」
アンドローズは、苦笑しつつうなずいた。
「気を失っている者にトドメを刺すのは趣味に合わんからな。いいだろう。そいつは、お前にまかせる。ただし、ちゃんと最後まで面倒みるんだぞ?」
「わかってるって!」
ほっとしたように笑う魔女をみて、旺介は思わずぷっと吹き出した。
(なんだか、捨て猫を拾った子供と父親みたいな会話だな……)
一行は、のん気にスヤスヤ眠っているシュラウスをその場に残して、部屋の奥にある階段を駆け上がっていった。
場所は、ヴァンドール城一階の大ホール。
上階へと続く階段の前に立ち塞がる鎧姿の大男に気づいて、四人は一斉に身構える。
身の丈ほどもある戦斧を軽々と肩の担いだ坊主頭のその男は、特徴的な金色の眼と青い肌をしていて、ひと目で純血の魔族だとわかる。
「さすがはザラ様だあっ! 悪知恵のはたらく人間どものこと、戦の最中に何者かがここに奇襲をかけてくるやもしれんとお考えになり、我ら四天王をあえて城内に残されたが……その予想は見事的中したなあっ!」
「四天王、だと……っ」
口惜しげに顔を歪めるアンドローズを見て、大男は豪気に笑う。
「ぐあっはっはっはあっ! そうっ! 我こそはザラヴァンドール配下の四天王がひとり、砕界のゴレマルスッ! ここで貴様らをブチ殺す漢の名だあっ、よく覚えてお――」
言い終らぬうちに、突然、シュンッ! と鋭く空気を裂く音がして、男の胸にドンッ! と一本の矢が突き刺さる。
「はへっ!?」
驚愕しつつ自分の胸を見下ろすゴレマルスの全身に、さらにドドドドドドッ!! と十本ほどの矢が連続して刺さると、
「ぐっおぉっ……ば、ばかなっ! 魔族の中でも最高の硬度を誇る俺の肉体を、矢で射貫く、など……っ!」
冷たい表情で美しく弓を構える女エルフを見つめたまま、大男はドシィィン……と派手な音を立てて仰向けに倒れる。
「お話の途中にごめんなさいね。でも、わたし、昔からとにかくハゲが生理的に無理で、見ているだけでムカムカしてくるんです。だから、つい、射っちゃいました」
「っ!? そ、そうかっ、貴様があの噂に聞く『フェルランディアの弓聖』……。み、見事だ……」
「ハゲに褒められてもあまりうれしくありません」
ぐはっ、と口から大量の青い血を吐き出した男は、震える唇から必死に声を絞り出した。
「え、エルフの女よ……ひとつだけ、言わせてくれ……」
「なんですか?」
「お、俺は……ハゲじゃない……。坊主、だ……」
ゴレマルスは、それだけ言い残すと、ガクリと頭を垂れて、こと切れた。
それが、殺戮と狂乱の中にしかおのれの生を見つけることのできなかった、不器用でどこまでも真直ぐな武人の、壮絶な最期であった。
「……いくぞ」
一行は、もはや男の亡骸には一瞥もくれることなく、奥の階段を一気に駆け上がる。
*****
「クックックック……お前たちがここまでやってきたということは、ゴレマルスが破れたということかのお……」
上の階で四人を待っていたのは、紫色のローブを身に纏った白髪頭の小柄な老人だった。金色の眼と青い肌をしているので、彼もまた純血の魔族であるのは間違いない。
「しかし、思い上がってはならんぞ? ゴレマルスは、ワシら四天王の中でも最弱。ヤツの実力は、このワシ、絶禍のスネメイルの足元にも及ばんのじゃからなあ」
「なん、だと……っ!?」
「戦場に出られず、ちょうど退屈しておったところじゃ。暇潰しに、一人ずつ、じっくり時間をかけて嬲り殺しにし――」
「覇王の烈閃!!」
イリアナがだしぬけに呪文を発動。三日月形の赤い閃光を飛ばし、残忍な笑みを浮かべていた老人に直撃させる。
「ぐぎゃぁぁぁああぁぁぁあああーーーっ!!!!」
烈光に全身を灼き尽くされ、黒焦げになったスネメイルは、つまらなそうに腰に手を当てている魔女を呆然と見つめる。
「がっ、がはっ……あっ、ありえぬっ……! 魔族随一の魔力耐性をもつこのワシを、たった一発の魔法でなどっ……」
「あー、そーいうのもういいから。あたしら、急いでるから」
「み、見誤った……。このスネメイル、一生の不覚。ザラ様、申し訳ございま、せん……」
魔族の老人はそれだけ言うと、ぱさり、と軽い音を立てて床に倒れ、二度と動かなくなった。
それが――数百年の長きにわたり、この世界に恐怖と絶望を撒き散らしてきた邪悪な魔導士の、あまりにもあっけない最期であった。
「……いくぞ」
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四人がふたたび階段を駆け上がり、たどり着いた部屋で待っていたのは、純白の礼服に身を包んだ中性的な美貌の青年(魔族)だった。
「君達がここまでやってきたということは、ゴレマルスとスネメイルが倒されたってことか……。やるね、君達。すごいよ」
銅色の髪をかき上げながら尊大な表情でいう青年を見つめて、イリアナがうんざりしたような顔をする。
「ねえ、前から思ってたんだけどさ、あんたたちみたいな『四天王』って、どうしていつも一人ずつ待ち構えてんの? 四人で一緒に戦ったほうが勝率上がるんじゃない?」
「……」
しばらく無言で視線を泳がせていた青年は、まもなく、ニヤリと笑って口を開く。
「……でも、同じ四天王とはいっても、僕の実力は彼らとはケタがちがう。君達の快進撃も、ここまでだよ」
「いや無視かよ。イタいとこ突かれたのバレバレじゃん」
「僕は、ザラヴァンドール配下の四天王、最強のシュラウス……。君達は四人同時にかかってきていいよ。じゃないと、僕が楽しめないからね」
言った瞬間、青年の全身からずわり、と禍々しい闘気が立ち昇る。
「っ!? ……こいつは、わたしがやる」
真剣な表情で剣を構えるアンドローズの肩に、ウィレアがさっと手を置く。
「お待ちください。あの男の言葉はハッタリではありません。おそらく、彼の実力はこれまでの四天王とは次元がちがいます。ここは全員で協力して立ち向かいましょう」
エルフの言葉に女騎士がうなずいた、その時。
「ねえ、ちょっと待ってよ」
イリアナが、不思議そうな顔で言った。
「これまでの四天王には、『砕界のゴレマルス』とか『絶禍のスネメイル』とか、いかにもそれっぽい二つ名があったのに、なんであんただけ、ただのシュラウスなのよ?」
「ふっ、何を言い出すかと思えば……」
魔族の青年は、気取った仕草で肩をすくめた。
「さっきちゃんと言っただろう。僕の名は『最強のシュラウス』、だよ」
「……は? え、『最強』? それが二つ名? マジ? それちょっとダサくない?」
「なんだと……?」
青年の顔から、それまであった余裕がみるみる消えていく。
「だって、自分で『最強』とか言っちゃうの、ヤバいでしょ。めっちゃ頭わるそうじゃん」
「……っ!」
「だいたいさ、あんた、ザラヴァンドールの部下でしょ? 上司である魔王を差し置いて自分が最強とか言っちゃうの、どーなのよ?」
「ぐぅっ……」
「あの、いかにも脳筋なゴレマルスでさえ、無い頭をしぼって『砕界』とか、まあまあそれっぽい単語見つけてきたのに、一人称が僕で、見た目もちょっとミステリアスな美青年キャラのあんたが、『最強』はダメでしょ。馬鹿丸出しじゃん」
「……っ! じゃ、じゃあ、試しに聞くけどっ! 君なら『最強』よりもっとイイ感じの言葉を思いつけるのかいっ?」
青年が今にも泣き出しそうな顔でわめくと、魔女はゆっくりうなずいた。
「そうね……できないこともないわ。ただし、そのためにはあんたのこと、もっとよく教えてもらわなきゃ」
「僕のこと……?」
「特技とか趣味とか、いろいろよ。いいから、ちょっとこっち来なさい」
イリアナが手招きすると、シュラウスは素直に彼女のそばへいき、ふたりして部屋の隅で何やら熱心に相談しはじめた。
「……これは、待ったほうがいいのか?」
「そうだね……待つしかないだろうね」
困惑するアンドローズとウィレアに、旺介がうなずいてみせ、三人で腕組みしながら待つこと、数分。
やがて――、
「よおしっ! 思いついた! これでいこうっ!」
イリアナが、誇らしげに胸を張りながら声を張り上げた。
「なになに? もったいぶらずに教えてよっ!」
プレゼントの包みを開ける前の子供みたいな顔でシュラウスが急かすと、魔女はふふふ、と笑い、
「ずばり、『冥王シュラウス』よおっ!」
と、朗々たる声で叫んだ。
「……」
女騎士とエルフは、ちょっと拍子抜けしたような顔を見合わせる。
「もったいぶったわりに、案外、普通だな……」
「そうですね。なんというか、没個性ですよね……」
しかし、意外にも、当のシュラウスはいたく感動したらしく、
「おおーっ! いいよっ! それ、すごくいいっ! 冥王! 冥王かあっ! カッコイイなあっ! なんだか、自分が前よりずっと強くなったような気がするよっ!」
金色の眼をキラキラ輝かせながら、両手を胸の前でぎゅっと握り締めた。
「気に入った?」
微笑む魔女をみて、シュラウスはうんうんっ! と何度もうなずく。
「もちろんっ! ありがとう! 君って、すごくいい人だね! 僕、この恩は一生わすれないよっ!」
「そう。よかった。じゃあ、あたしらはこれから魔王を倒しにいくから、あんたはここでちょっと眠ってて」
「えっ」
驚く青年の肩にイリアナがぽんと手を置くと、たちまち彼女の掌から烈しい電撃が放たれ、シュラウスは瞬時に失神させられた。
「……これでよし、と」
魔女は振り返って、ちょっと照れたような、困ったような顔で三人の仲間を見つめる。
「こいつは殺さないでこのままにしときましょ。馬鹿だけど、根っからの悪人ってわけでもなさそうだし……あとで、あたしがちゃんと責任もって飼うからさ」
「……ふっ」
アンドローズは、苦笑しつつうなずいた。
「気を失っている者にトドメを刺すのは趣味に合わんからな。いいだろう。そいつは、お前にまかせる。ただし、ちゃんと最後まで面倒みるんだぞ?」
「わかってるって!」
ほっとしたように笑う魔女をみて、旺介は思わずぷっと吹き出した。
(なんだか、捨て猫を拾った子供と父親みたいな会話だな……)
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