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第6話 クラス委員の鋭い勘と、購買部での宣戦布告
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その日の昼休み。
俺は購買部でパンを買おうとして、激しい戦場に巻き込まれていた。
「焼きそばパン、残り一個だ!」
「どけえええ!」
野郎どもの怒号が飛び交う中、俺は押しつぶされそうになっていた。
無理だ。この戦争には勝てない。
今日は諦めて売店の菓子パンにするか……と後退りしようとした時だ。
「はい、健くん」
混雑の隙間から、スッと手が伸びてきた。
その手には、奇跡の残り一個――焼きそばパンが握られている。
「え?」
顔を上げると、そこには明るい茶髪のショートカット女子が立っていた。
クラスメイトの橘彩香(たちばな・あやか)だ。
「これ、欲しかったんでしょ? 取っておいたよ」
彼女は人懐っこい笑顔でパンを押し付けてきた。
「あ、ありがとう……。橘さんは?」
「私はメロンパン確保したから大丈夫! あ、お金はいいよ。おごり!」
彩香は明るくて、コミュ力が高くて、誰にでも優しい。
いわゆる「陽キャ」の代表格だ。
地味な俺にもこうして気さくに話しかけてくれる、数少ない女子の一人でもある。
「……じゃあ、せめてジュースくらい奢らせて」
「お、ラッキー! じゃあイチゴオレで!」
俺たちは購買部前のベンチに座った。
春の風が心地いい。
こんな風に女子と並んで座るなんて、数日前までの俺には考えられないことだった。
「ねえ、健くん」
彩香がストローをくわえながら、上目遣いで俺を見た。
「最近、すごい噂になってるね」
「……ああ、まあ」
例の「白石玲奈との熱愛」の話だ。
俺はパンをかじるふりをして、視線を逸らした。
「本当に付き合ってるの? 白石さんと」
「……うーん、まあ……」
契約上、否定はできない。でも肯定するのも気が引ける。
曖昧に頷くと、彩香は「ふーん」と面白くなさそうに頬を膨らませた。
「意外だなあ。白石さんって、もっとこう……完璧主義っていうか、自分と同じレベルの人しか相手にしないと思ってた」
「俺もそう思うよ。なんで俺なんか、未だに謎だし」
「だよねー。……ねえ、もしかしてさ」
彩香の声が、急に低くなった。
彼女は俺の方に体を寄せ、耳元で囁いた。
「何か、弱みでも握られてる?」
ドキリとした。
心臓が跳ねる。
鋭い。女の勘ってやつか?
「ま、まさか。そんなわけないだろ」
「ほんとに? じゃあ、なんで『仮』みたいな顔してるの?」
「え?」
「幸せそうっていうより、困ってる顔してるよ。健くん」
彩香は俺の目を覗き込んだ。
その瞳は笑っていなかった。
探るような、心配するような、そして少しだけ『嫉妬』が含まれているような視線。
「私ね、健くんのこと、結構見てるんだよ?」
「橘さん……」
「白石さんは確かに美人だし、頭もいいし、完璧かもしれない。でも……」
彼女は俺の手の上に、自分の手を重ねた。
温かい手だ。玲奈の冷たい指先とは違う、日向のような温もり。
「健くんの優しさがわかるのは、私の方が先だったと思うな」
それは、実質的な告白だった。
あるいは、宣戦布告。
俺が固まっていると、校舎の二階の窓から、鋭い視線を感じた。
見上げると、そこには玲奈がいた。
腕組みをして、氷のような瞳で俺たちを見下ろしている。
細い眉がピクリと動き、一瞬だけ感情を露わにしたかと思うと、すぐにいつもの能面のような美貌に戻った。
距離はこんなに離れているのに、その冷気がここまで届いてくる気がした。
「……やば」
やばい。放課後にはプリン補充の買い物デートが控えているのに、こんな修羅場増やしてどうするんだ俺は。
彩香の手をそっと離す。
でも、彩香は気づいていないのか、それともわざとなのか、笑顔のまま言った。
「まあ、白石さんが本気なら負けないけどね!」
「え?」
「また明日も、パン一緒に食べようね!」
彼女はウインクをして、ひらひらと手を振りながら立ち去った。
修羅場だ。
俺の日常はプリンのように甘くとろっとしたラブコメになるはずだったのに、気づけば熱で溶け出したプリンみたいにドロドロの地雷原と化していた。
(続く)
俺は購買部でパンを買おうとして、激しい戦場に巻き込まれていた。
「焼きそばパン、残り一個だ!」
「どけえええ!」
野郎どもの怒号が飛び交う中、俺は押しつぶされそうになっていた。
無理だ。この戦争には勝てない。
今日は諦めて売店の菓子パンにするか……と後退りしようとした時だ。
「はい、健くん」
混雑の隙間から、スッと手が伸びてきた。
その手には、奇跡の残り一個――焼きそばパンが握られている。
「え?」
顔を上げると、そこには明るい茶髪のショートカット女子が立っていた。
クラスメイトの橘彩香(たちばな・あやか)だ。
「これ、欲しかったんでしょ? 取っておいたよ」
彼女は人懐っこい笑顔でパンを押し付けてきた。
「あ、ありがとう……。橘さんは?」
「私はメロンパン確保したから大丈夫! あ、お金はいいよ。おごり!」
彩香は明るくて、コミュ力が高くて、誰にでも優しい。
いわゆる「陽キャ」の代表格だ。
地味な俺にもこうして気さくに話しかけてくれる、数少ない女子の一人でもある。
「……じゃあ、せめてジュースくらい奢らせて」
「お、ラッキー! じゃあイチゴオレで!」
俺たちは購買部前のベンチに座った。
春の風が心地いい。
こんな風に女子と並んで座るなんて、数日前までの俺には考えられないことだった。
「ねえ、健くん」
彩香がストローをくわえながら、上目遣いで俺を見た。
「最近、すごい噂になってるね」
「……ああ、まあ」
例の「白石玲奈との熱愛」の話だ。
俺はパンをかじるふりをして、視線を逸らした。
「本当に付き合ってるの? 白石さんと」
「……うーん、まあ……」
契約上、否定はできない。でも肯定するのも気が引ける。
曖昧に頷くと、彩香は「ふーん」と面白くなさそうに頬を膨らませた。
「意外だなあ。白石さんって、もっとこう……完璧主義っていうか、自分と同じレベルの人しか相手にしないと思ってた」
「俺もそう思うよ。なんで俺なんか、未だに謎だし」
「だよねー。……ねえ、もしかしてさ」
彩香の声が、急に低くなった。
彼女は俺の方に体を寄せ、耳元で囁いた。
「何か、弱みでも握られてる?」
ドキリとした。
心臓が跳ねる。
鋭い。女の勘ってやつか?
「ま、まさか。そんなわけないだろ」
「ほんとに? じゃあ、なんで『仮』みたいな顔してるの?」
「え?」
「幸せそうっていうより、困ってる顔してるよ。健くん」
彩香は俺の目を覗き込んだ。
その瞳は笑っていなかった。
探るような、心配するような、そして少しだけ『嫉妬』が含まれているような視線。
「私ね、健くんのこと、結構見てるんだよ?」
「橘さん……」
「白石さんは確かに美人だし、頭もいいし、完璧かもしれない。でも……」
彼女は俺の手の上に、自分の手を重ねた。
温かい手だ。玲奈の冷たい指先とは違う、日向のような温もり。
「健くんの優しさがわかるのは、私の方が先だったと思うな」
それは、実質的な告白だった。
あるいは、宣戦布告。
俺が固まっていると、校舎の二階の窓から、鋭い視線を感じた。
見上げると、そこには玲奈がいた。
腕組みをして、氷のような瞳で俺たちを見下ろしている。
細い眉がピクリと動き、一瞬だけ感情を露わにしたかと思うと、すぐにいつもの能面のような美貌に戻った。
距離はこんなに離れているのに、その冷気がここまで届いてくる気がした。
「……やば」
やばい。放課後にはプリン補充の買い物デートが控えているのに、こんな修羅場増やしてどうするんだ俺は。
彩香の手をそっと離す。
でも、彩香は気づいていないのか、それともわざとなのか、笑顔のまま言った。
「まあ、白石さんが本気なら負けないけどね!」
「え?」
「また明日も、パン一緒に食べようね!」
彼女はウインクをして、ひらひらと手を振りながら立ち去った。
修羅場だ。
俺の日常はプリンのように甘くとろっとしたラブコメになるはずだったのに、気づけば熱で溶け出したプリンみたいにドロドロの地雷原と化していた。
(続く)
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