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第21話 完璧なデートと計算外の贈り物
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日曜日。駅前の時計台の下で待っていた玲奈は、息を飲むほど綺麗だった。
淡いラベンダー色のワンピースに、白いカーディガン。
普段のクールなパンツルックとは違う、王道のデート服。
道ゆく男たちが、あからさまに振り返って彼女を見ている。
「お待たせ、健」
玲奈が俺に気づき、ふわりと微笑んだ。
その笑顔は、雑誌の切り抜きのように完璧だった。
「遅れてごめん。……その服、似合ってる」
「ありがとう。最後だもの、気合い入れなきゃね。……さあ、行きましょ」
玲奈は自然な動作で俺の腕に手を回した。
柔らかい感触。
でも、そこには以前のような「おどおどした熱」も、「しがみつくような強さ」もない。
ただただ、洗練された動作として、俺の腕に触れているだけだった。
映画を見て、おしゃれなカフェでランチをして、ウィンドウショッピングをする。
デートのコースは完璧だった。
玲奈の振る舞いも、会話の返しも、すべてがマニュアル通りに完璧だった。
俺が冗談を言えば笑い、エスコートすれば恥ずかしそうに目を伏せる。
そこには「藤堂健の理想の彼女」がいた。
――でも、「白石玲奈」はいなかった。
俺を拒絶している。
この完璧な演技という鎧(よろい)で、俺が心の中に踏み込むのを防いでいるんだ。
夕暮れ時。
俺たちは公園のベンチに座っていた。
デートの終わりが見えてくる時間だ。
「……楽しかった?」
玲奈が缶コーヒーを両手で持ちながら聞いてきた。
「ああ、楽しかったよ」
「よかった。これで、契約のタスクは完了ね。……私の演技、及第点はもらえた?」
彼女はあくまで「仕事の成果」を確認しようとする。
その徹底した姿勢に、俺は少し苛立った。
そして同時に、切なくなった。
そうまでして、傷つくのを怖がっているのか。
「……なぁ、玲奈」
俺はポケットの中に手を突っ込んだ。
小さな箱の硬い感触。
「これは、契約にはないことなんだけど」
俺は箱を取り出し、彼女の膝の上に置いた。
「え……?」
玲奈の瞳が大きく見開かれる。
白いリボンのついた、ネイビーの小箱。
「これ……なに?」
「開けてみろよ」
玲奈は震える手でリボンを解き、箱を開けた。
中には、シルバーのネックレスが静かに輝いている。
昨日、彩香と選んだやつだ。
「……なんで?」
玲奈の声が上ずる。
さっきまでの完璧な演技が、ガラガラと崩れ落ちる。
「昨日、彩香と選んだんだ。お前に何が似合うか、あいつに相談して」
「え……?」
「お前、誤解してるみたいだったから。……俺が昨日あいつといたのは、これのためだ」
玲奈は口元を手で覆った。
その瞳から、みるみる涙が溢れ出してくる。
「……バカ」
絞り出すような声だった。
「なんで……こんなことするのよ……」
「したかったからだ。契約とか関係なく」
「……っ!」
玲奈は箱をパタンと閉じ、強く握りしめた。
そして、俯いたまま肩を震わせた。
「……優しくしないでよ。勘違いするじゃない」
「勘違いでいい」
「よくない!」
玲奈が顔を上げた。
その顔は涙でぐちゃぐちゃだった。
さっきまでの「完璧な彼女」はもういない。
そこにいるのは、泣き虫で、不器用な、俺の知っている幼なじみだ。
「今日で終わりなのよ!? 明日からは他人なの! こんなのもらったら……忘れられなくなるじゃない……!」
玲奈は立ち上がると、俺に背を向けた。
「……もう帰る」
「おい、玲奈!」
「ついてこないで! ……今日は、もう契約終了の時間よ!」
彼女は走り出した。
夕陽の中に消えていくその背中を、俺は追いかけることができなかった。
ベンチには、空の缶コーヒーだけが残されていた。
でも、彼女の手には、俺があげた箱がしっかりと握りしめられていた。
俺は空を見上げた。
一番星が光っている。
終わりじゃない。
ここからだ。
俺たちの本当の時間は、契約書が紙くずになった瞬間から始まるんだ。
(続く)
淡いラベンダー色のワンピースに、白いカーディガン。
普段のクールなパンツルックとは違う、王道のデート服。
道ゆく男たちが、あからさまに振り返って彼女を見ている。
「お待たせ、健」
玲奈が俺に気づき、ふわりと微笑んだ。
その笑顔は、雑誌の切り抜きのように完璧だった。
「遅れてごめん。……その服、似合ってる」
「ありがとう。最後だもの、気合い入れなきゃね。……さあ、行きましょ」
玲奈は自然な動作で俺の腕に手を回した。
柔らかい感触。
でも、そこには以前のような「おどおどした熱」も、「しがみつくような強さ」もない。
ただただ、洗練された動作として、俺の腕に触れているだけだった。
映画を見て、おしゃれなカフェでランチをして、ウィンドウショッピングをする。
デートのコースは完璧だった。
玲奈の振る舞いも、会話の返しも、すべてがマニュアル通りに完璧だった。
俺が冗談を言えば笑い、エスコートすれば恥ずかしそうに目を伏せる。
そこには「藤堂健の理想の彼女」がいた。
――でも、「白石玲奈」はいなかった。
俺を拒絶している。
この完璧な演技という鎧(よろい)で、俺が心の中に踏み込むのを防いでいるんだ。
夕暮れ時。
俺たちは公園のベンチに座っていた。
デートの終わりが見えてくる時間だ。
「……楽しかった?」
玲奈が缶コーヒーを両手で持ちながら聞いてきた。
「ああ、楽しかったよ」
「よかった。これで、契約のタスクは完了ね。……私の演技、及第点はもらえた?」
彼女はあくまで「仕事の成果」を確認しようとする。
その徹底した姿勢に、俺は少し苛立った。
そして同時に、切なくなった。
そうまでして、傷つくのを怖がっているのか。
「……なぁ、玲奈」
俺はポケットの中に手を突っ込んだ。
小さな箱の硬い感触。
「これは、契約にはないことなんだけど」
俺は箱を取り出し、彼女の膝の上に置いた。
「え……?」
玲奈の瞳が大きく見開かれる。
白いリボンのついた、ネイビーの小箱。
「これ……なに?」
「開けてみろよ」
玲奈は震える手でリボンを解き、箱を開けた。
中には、シルバーのネックレスが静かに輝いている。
昨日、彩香と選んだやつだ。
「……なんで?」
玲奈の声が上ずる。
さっきまでの完璧な演技が、ガラガラと崩れ落ちる。
「昨日、彩香と選んだんだ。お前に何が似合うか、あいつに相談して」
「え……?」
「お前、誤解してるみたいだったから。……俺が昨日あいつといたのは、これのためだ」
玲奈は口元を手で覆った。
その瞳から、みるみる涙が溢れ出してくる。
「……バカ」
絞り出すような声だった。
「なんで……こんなことするのよ……」
「したかったからだ。契約とか関係なく」
「……っ!」
玲奈は箱をパタンと閉じ、強く握りしめた。
そして、俯いたまま肩を震わせた。
「……優しくしないでよ。勘違いするじゃない」
「勘違いでいい」
「よくない!」
玲奈が顔を上げた。
その顔は涙でぐちゃぐちゃだった。
さっきまでの「完璧な彼女」はもういない。
そこにいるのは、泣き虫で、不器用な、俺の知っている幼なじみだ。
「今日で終わりなのよ!? 明日からは他人なの! こんなのもらったら……忘れられなくなるじゃない……!」
玲奈は立ち上がると、俺に背を向けた。
「……もう帰る」
「おい、玲奈!」
「ついてこないで! ……今日は、もう契約終了の時間よ!」
彼女は走り出した。
夕陽の中に消えていくその背中を、俺は追いかけることができなかった。
ベンチには、空の缶コーヒーだけが残されていた。
でも、彼女の手には、俺があげた箱がしっかりと握りしめられていた。
俺は空を見上げた。
一番星が光っている。
終わりじゃない。
ここからだ。
俺たちの本当の時間は、契約書が紙くずになった瞬間から始まるんだ。
(続く)
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