『クラスで一番モテない男が、幼なじみと“仮恋人契約”したら、本物の恋に気づいてしまった件』~報酬はプリン100個。彼女が部屋でだけ甘えん坊

月下花音

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第20話 契約解除の通達と強行された約束

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 土曜日の夜。リビングの空気は、重苦しい沈黙で満たされていた。
 テレビからはバラエティ番組の笑い声が流れているが、それが余計に白々しく響く。

「……明日のことなんだけど」

 切り出したのは、玲奈だった。
 彼女はマグカップの両手で包み込み、視線をその中の液体に落としたまま言った。

「中止にしましょう」

「は?」

 俺は思考が停止した。
 明日は日曜日。契約の総仕上げである「最後のデート」の日だ。

「中止って、どういう……」

「必要ないってこと。契約項目(タスク)はもう十分に消化したし、報酬(プリン)の分は働いたわ。これ以上、貴方の時間を拘束するのは効率的じゃない」

 理路整然とした口調。
 だが、その声はどこか投げやりで、そして少し震えているように聞こえた。

「効率とか、そういう問題じゃねえだろ。最後だぞ?」

「だからよ」

 玲奈が顔を上げた。
 その瞳は、凍てつくように冷たかった。

「最後だからこそ、無意味なことはしたくないの。……それに、貴方だって忙しいでしょう? 橘さんと出かけるとか、そういう予定があるんじゃないの」

 心臓がドクリと跳ねた。
 昨日のことだ。
 やっぱり、誤解されたまま定着してしまっている。

「……あれは、違うんだ」

「違わない。見たわよ、楽しそうにしてたじゃない」

 玲奈が俺の言葉を遮る。

「別に責めてないわ。契約は契約、プライベートはプライベート。貴方が誰とどうなろうと、私には関係ない。……だから、明日はもういいの。自由にしていいわ」

 そう言って、彼女は立ち上がろうとした。
 「関係ない」。またその言葉だ。
 その壁を作ることで、彼女は自分を守ろうとしている。

 俺はテーブルをバンッと叩いて立ち上がった。

「良くねえよ!」

 大きな音に、玲奈がビクリと肩を震わせる。

「契約書をよく思い出せ。第五条。『全てのイベントを完遂すること』。例外規定なんてねえぞ」

「……なによ、それ。ただのへ理屈じゃない」

「へ理屈でいい。俺は契約を履行する。明日、十時に駅前集合だ。遅刻したら違約金としてプリン追加な」

 俺は一気にまくし立てた。
 ここで引いたら終わりだ。
 この誤解を解くには、言葉だけじゃ足りない。
 明日のデートで、用意したプレゼントを渡して、ちゃんと目を見て伝えるしかないんだ。

 玲奈は驚いたように俺を見ていたが、やがてふっと視線を逸らし、小さくため息をついた。

「……バカみたい」

 その声には、呆れと、ほんの少しの安堵が混じっている気がした。

「分かったわよ。行けばいいんでしょ、行けば。……その代わり、少しでもつまらなかったら即解散だから」

「望むところだ」

 玲奈はマグカップを持ってキッチンへと去っていった。
 その背中はいつもより小さく見えた。

 俺はソファに深々と座り込み、天井を見上げた。
 なんとか繋ぎ止めた。
 首の皮一枚だ。

 ポケットの中には、まだ渡せていないネックレスの入った小箱がある。
 明日、これを渡す時が、俺たちの関係の本当の分岐点になる。

 「仮恋人」から「他人」に戻るか。
 それとも――。

 眠れない夜が、また静かに更けていった。

(続く)
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