『クラスで一番モテない男が、幼なじみと“仮恋人契約”したら、本物の恋に気づいてしまった件』~報酬はプリン100個。彼女が部屋でだけ甘えん坊

月下花音

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第19話 放課後の密会とすれ違う視線

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 金曜日の放課後。
 俺は大学近くのショッピングモールにいた。
 日曜日のデート――契約最後の日――に向けて、何か特別な準備をしたかったからだ。
 だが、男一人でレディースの小物を物色するのは、精神的にかなりハードルが高い。

「……どれがいいんだ」

 アクセサリーショップの前で、俺は腕組みをして固まっていた。
 玲奈に似合うもの。
 高すぎず、でも安っぽくないもの。
 契約の「報酬」ではなく、俺からの「贈り物」として受け取ってもらえるギリギリのライン。

 そんな自問自答を繰り返していると、背後からトン、と肩を叩かれた。

「健くん、何してんの?」

 振り返ると、橘彩香が立っていた。
 今日は珍しく髪を下ろしている。それだけで、少し大人びて見えるから不思議だ。

「あ、いや……ちょっと」

 俺は慌ててショーケースから離れようとしたが、彩香の目はごまかせなかった。

「ふーん。プレゼント選び? 誰に? ……白石さん?」

「……まあ、そんなとこ」

「へえー。契約の『報酬』以外にもあげるんだ。律儀だねえ」

 彩香はイタズラっぽく笑うが、その目は少しだけ冷ややかだった。

「もしかして、これで最後だから『いい思い出』作ろうとしてる?」

 図星だった。
 俺は何も言えず、視線を逸らす。

「……バカだなぁ、健くんは」

 彩香は小さくため息をつくと、俺の腕を強引に引いた。

「手伝ってあげるよ。男のセンスじゃ、どうせロクなもの選ばないでしょ」

「え、いや、悪いよ」

「いいから! その代わり、後でジュース一杯ね」

 拒否権はないらしい。
 俺は彩香に引きずられるようにして、店の中へと入っていった。

 彩香のアドバイスは的確だった。
 玲奈の普段の服装や好みを分析し、シンプルで使いやすい、でも少し品のあるネックレスを選んでくれた。

「これなら重くないし、日常使いできる。……これをもらって喜ばない女はいないよ」

 彩香は少し寂しげな顔でそう言った。

「……ありがとう、助かったよ」

「いいってことよ。……健くんには、幸せになってほしいしね」

 彼女はニカリと笑ったが、その笑顔はどこか無理をしているように見えた。

 買い物を終え、店の外に出た時だった。

「――あれ?」

 視界の端に、見慣れた姿が映った。
 エスカレーターを降りてくる、長い黒髪の女性。
 白石玲奈だ。
 隣には、友人の佐久間リオがいる。

 俺と彩香が並んで歩いているところを、彼女たちも気づいたようだ。
 目が合った瞬間、玲奈の足が止まった。

「あ……」

 俺はとっさに弁解しようとした。
 これは浮気じゃない、お前のプレゼントを選んでいただけだと。
 でも、手に持っている可愛いギフトバッグを見られたら、ネタバレになってしまう。
 俺は反射的に、バッグを背中に隠してしまった。

 それが、最悪の悪手だった。

 玲奈の瞳から、スッと色が消えた。
 軽蔑でも怒りでもない。
 深い諦めと、悲しみ。

 彼女は俺から視線を外し、リオに何かを囁くと、くるりと背を向けて歩き出した。
 その背中は、「もう貴方には関係ない」と拒絶しているように見えた。

「……あーあ」

 隣で彩香が呟く。

「最悪のタイミングだね、私たち」

「……誤解だ。説明しなきゃ」

「何て? 『君へのプレゼントを他の女と選んでました』って? ……余計傷つくよ、それ」

 彩香の言葉は鋭利な刃物のように俺に突き刺さった。

 その夜、家に帰っても玲奈は部屋から出てこなかった。
 ドアの前に立ち尽くす俺の手には、渡せなかったギフトバッグが握りしめられたままだ。

 中から、微かに鼻をすするような音が聞こえた気がした。
 でも、ノックすることはできなかった。
 「契約」という壁が、今の俺にはあまりにも厚くて、高かった。

 俺たちの時間は、あと二日で終わる。
 それなのに、心はどんどん離れていくばかりだ。

(続く)
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