『クラスで一番モテない男が、幼なじみと“仮恋人契約”したら、本物の恋に気づいてしまった件』~報酬はプリン100個。彼女が部屋でだけ甘えん坊

月下花音

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第18話 迫る期限と捨てられないプリンの容器

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 冷蔵庫を開けると、そこには空白が広がっていた。
 あれだけ詰め込まれていたプリンの山が、今はもう残り三つになっている。

 それは、俺たちの「契約期間」の残りを可視化した砂時計のようだった。

「……あと、三日か」

 独り言が、冷えた庫内に吸い込まれていく。
 二週間という期間は、永遠のようでいて、瞬きするほどの刹那だった。

 リビングでは、玲奈がテーブルに広げたノートを真剣な表情で睨んでいる。
 契約内容が書かれた、あのノートだ。

「健、聞いてる?」

 玲奈がペンを回しながら言った。
 その仕草は、試験前の優等生そのものだ。

「当初の計画にあった『恋人らしいイベント』の進捗率は80%。残っているのは『休日のデート』と『……あーん』くらいね」

「……事務的だな」

「契約だもの。履行残しがあったら、報酬(プリン)の返還を求める権利が私にはあるわ」

 玲奈は淡々と言った。
 その声には、先日見せたような熱情も、弱さもない。
 完全に「仕事モード」だ。

 俺は冷蔵庫から最後のプリンの一つを取り出し、テーブルに置いた。
 プラスチックの容器が、硬質な音を立てる。

「あのさ、玲奈」

「何?」

「……これ、終わったらどうなるんだ?」

 俺の問いかけに、玲奈の手がピタリと止まった。
 シャープペンの芯が、ノートの上で一点を突き刺したまま静止する。

「どうなるって……元通りよ」

 彼女は顔を上げずに答えた。

「ただの幼なじみに戻るだけ。隣の家に住んでて、たまに親が作った煮物をお裾分けし合う、健全な関係に」

「……そうか」

「当たり前でしょ。それ以外に何があるの?」

 玲奈が顔を上げた。
 そこに張り付いているのは、完璧な笑顔だった。
 一点の曇りもない、清々しいほどの作り笑い。

 ――嘘つけ。

 俺は心の中で毒づいた。
 その笑顔が、今は何よりも痛々しくて、腹立たしい。
 お前、手元のノート、見るからに強く握りしめてるじゃねえか。指先が白くなってるぞ。

「じゃあ、この『休日のデート』で最後だな」

 俺はあえて、突き放すように言った。

「そうね。最後だから……最高の演技、期待してるわよ」

「ああ、任せろよ。お前が引くくらい甘い彼氏を演じてやる」

「……ふふ、お手並み拝見ね」

 玲奈はノートをパタンと閉じた。
 その音が、裁判官の木槌のように響いた。
 「閉廷」を告げる合図のように。

 その夜。
 俺はゴミ箱に捨てられた、空のプリン容器を見つめていた。
 玲奈がさっき食べたやつだ。

 洗って捨てればいいのに、カラメルの残りがこびりついたまま放り込まれている。
 その雑さが、今の彼女の心の乱れを表しているようで、妙にリアルだった。

 俺はゴミ箱からその容器を拾い上げた。
 ベタつくプラスチックの感触。
 甘くて、少し焦げた匂い。

「……捨てられねえよな」

 俺はそれを水で丁寧に洗い流し、自分のデスクの隅に置いた。
 これを捨ててしまったら、俺たちの二週間もゴミになってしまう気がして。

 スマホのカレンダーを見る。
 週末の日曜日に、「デート(最終日)」という文字が入っている。
 まるで処刑日のようだ。

 でも、俺は決めていた。
 このまま「はい、お疲れ様でした」で終わらせるつもりはない。
 元通り? 健全な関係?
 ふざけるな。
 一度知ってしまった熱を、なかったことになんてできるわけがない。

 俺はデスクの引き出しから、新しいメモ帳を取り出した。
 そこに書き込むのは、契約書じゃない。
 俺なりの「反撃」の作戦だ。

(続く)
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