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第8話 Spy: 疑惑の芽
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ある日の放課後。
私は教室の黒板消しクリーナーを掃除していた。
表向きは日直の仕事だが、本当の目的は機材チェックだ。
湊は部活(設定)でまだ戻らない。この隙に済ませる必要がある。
ふと、教室の隅にある空気清浄機の裏で、赤い光が弱々しく点滅しているのに気づいた。
監視用の超小型CCDカメラだ。
バッテリー切れか、エラーランプがついている。
チッ、機材班のミスか。
最近、スタッフの気が緩んでいる。私がフォローしなきゃいけないなんて、ギャラ上げて欲しいわ。
私は周囲を確認し(エキストラは帰宅済み)、清浄機の裏に手を回した。
コードを引っ張り出し、ドライバでカバーを外す。
手慣れたもんだ。女優よりADの方が向いてるかもしれない。
「……何してんの?」
ビクッ!!
心臓が肋骨を突き破るかと思った。
背後に湊が立っていた。
いつの間に!? 足音しなかったぞ!? こいつ、忍者か?
「あ、いや、これは……」
私が手に持っているのは、配線むき出しのカメラと、小型ドライバー。
どう見ても女子高生の持ち物じゃない。
言い逃れできない「ブツ」だ。
湊が目を細めて近づいてくる。
普段のポワワンとした雰囲気とは違う、鋭い視線。
「それ……カメラ? なんでそんなとこに?」
彼が私の手元と、清浄機の裏を交互に見る。
「……隠しカメラ?」
空気が凍る。
バレる。
この世界が「セット」だとバレたら、企画は終了。
私は契約不履行で違約金地獄。人生終了だ。
考えろ。
脳みそをフル回転させろ。
姫宮麗華ならどうする?
誤魔化す? 「落ちてました」? いや、ドライバー持ってる時点で無理だ。
なら、逆に利用するしかない。
嘘の上塗りで、真実を塗りつぶすんだ。
私は立ち上がり、乱れた髪を払いながら、フンと鼻を鳴らした。
震える指先を隠すように、腕を組む。
「……見つかりましたか。目ざといですわね」
「姫宮?」
「そうですわ。私が設置しましたの」
「えっ、なんで!?」
「決まっているでしょう。……あなたの、監視用ですわ」
湊が絶句する。
口を半開きにして、鳩が豆鉄砲を食らったような顔。
「監視って……ストーカーかよ!?」
「人聞きが悪いですわね。弱みを握るための情報収集ですわ」
私は一歩前に出る。彼を威圧するように。
「あなたがいつ、どんな恥ずかしいことをするか、記録してやろうと思いまして。鼻をほじったり、テストで赤点を取って泣いたりする瞬間を撮って、全校生徒に公開してやろうと……」
苦しい。
我ながら苦しすぎる言い訳だ。
小学生のイタズラかよ。
でも、これしか出てこなかった。
湊はしばらく黙って私を見つめ、やがて深く息を吐いた。
そして、なぜか頬を少し赤らめた。
「……そっか」
湊が納得したような顔をする。嘘だろ。
「お前、そこまでして俺に勝ちたいのか……。なんか、逆に熱心だな」
「……は?」
「だって、わざわざ高いカメラ買って、自分で配線して……俺のことずっと見てたってことだろ?」
湊が頭をかく。
「ま、盗撮は犯罪だけどさ。俺のことそんなに気にしてくれてるなら、悪い気はしないけど」
……バカだ。
こいつ、底抜けのバカだ。
「好意的な解釈」のスキルがカンストしてる。
ストーカー行為を「熱心なアプローチ」に脳内変換しやがった。
私はカメラを回収し、ポケットにねじ込んだ。
「……ふん、勘違いしないでくださいまし。次はもっと上手くやりますわ」
私は逃げるように教室を出た。
廊下を早足で歩きながら、冷や汗を拭う。
危なかった。
寿命が三年縮んだ。
でも、同時に思った。
あいつ、本当に気づいてないのか?
カメラを見つけた時の、あの一瞬の目の鋭さ。
あれは、ただの疑念じゃなかった。
まるで、世界の「綻び」を見つけたような、冷めた観察者の目。
……そう、演技をしている時の私と同じ目をしていた気がする。
まさか。
いや、考えすぎだ。
あんな単細胞が、そんな深いこと考えてるわけがない。
私は首を振り、不安を振り払った。
(つづく)
私は教室の黒板消しクリーナーを掃除していた。
表向きは日直の仕事だが、本当の目的は機材チェックだ。
湊は部活(設定)でまだ戻らない。この隙に済ませる必要がある。
ふと、教室の隅にある空気清浄機の裏で、赤い光が弱々しく点滅しているのに気づいた。
監視用の超小型CCDカメラだ。
バッテリー切れか、エラーランプがついている。
チッ、機材班のミスか。
最近、スタッフの気が緩んでいる。私がフォローしなきゃいけないなんて、ギャラ上げて欲しいわ。
私は周囲を確認し(エキストラは帰宅済み)、清浄機の裏に手を回した。
コードを引っ張り出し、ドライバでカバーを外す。
手慣れたもんだ。女優よりADの方が向いてるかもしれない。
「……何してんの?」
ビクッ!!
心臓が肋骨を突き破るかと思った。
背後に湊が立っていた。
いつの間に!? 足音しなかったぞ!? こいつ、忍者か?
「あ、いや、これは……」
私が手に持っているのは、配線むき出しのカメラと、小型ドライバー。
どう見ても女子高生の持ち物じゃない。
言い逃れできない「ブツ」だ。
湊が目を細めて近づいてくる。
普段のポワワンとした雰囲気とは違う、鋭い視線。
「それ……カメラ? なんでそんなとこに?」
彼が私の手元と、清浄機の裏を交互に見る。
「……隠しカメラ?」
空気が凍る。
バレる。
この世界が「セット」だとバレたら、企画は終了。
私は契約不履行で違約金地獄。人生終了だ。
考えろ。
脳みそをフル回転させろ。
姫宮麗華ならどうする?
誤魔化す? 「落ちてました」? いや、ドライバー持ってる時点で無理だ。
なら、逆に利用するしかない。
嘘の上塗りで、真実を塗りつぶすんだ。
私は立ち上がり、乱れた髪を払いながら、フンと鼻を鳴らした。
震える指先を隠すように、腕を組む。
「……見つかりましたか。目ざといですわね」
「姫宮?」
「そうですわ。私が設置しましたの」
「えっ、なんで!?」
「決まっているでしょう。……あなたの、監視用ですわ」
湊が絶句する。
口を半開きにして、鳩が豆鉄砲を食らったような顔。
「監視って……ストーカーかよ!?」
「人聞きが悪いですわね。弱みを握るための情報収集ですわ」
私は一歩前に出る。彼を威圧するように。
「あなたがいつ、どんな恥ずかしいことをするか、記録してやろうと思いまして。鼻をほじったり、テストで赤点を取って泣いたりする瞬間を撮って、全校生徒に公開してやろうと……」
苦しい。
我ながら苦しすぎる言い訳だ。
小学生のイタズラかよ。
でも、これしか出てこなかった。
湊はしばらく黙って私を見つめ、やがて深く息を吐いた。
そして、なぜか頬を少し赤らめた。
「……そっか」
湊が納得したような顔をする。嘘だろ。
「お前、そこまでして俺に勝ちたいのか……。なんか、逆に熱心だな」
「……は?」
「だって、わざわざ高いカメラ買って、自分で配線して……俺のことずっと見てたってことだろ?」
湊が頭をかく。
「ま、盗撮は犯罪だけどさ。俺のことそんなに気にしてくれてるなら、悪い気はしないけど」
……バカだ。
こいつ、底抜けのバカだ。
「好意的な解釈」のスキルがカンストしてる。
ストーカー行為を「熱心なアプローチ」に脳内変換しやがった。
私はカメラを回収し、ポケットにねじ込んだ。
「……ふん、勘違いしないでくださいまし。次はもっと上手くやりますわ」
私は逃げるように教室を出た。
廊下を早足で歩きながら、冷や汗を拭う。
危なかった。
寿命が三年縮んだ。
でも、同時に思った。
あいつ、本当に気づいてないのか?
カメラを見つけた時の、あの一瞬の目の鋭さ。
あれは、ただの疑念じゃなかった。
まるで、世界の「綻び」を見つけたような、冷めた観察者の目。
……そう、演技をしている時の私と同じ目をしていた気がする。
まさか。
いや、考えすぎだ。
あんな単細胞が、そんな深いこと考えてるわけがない。
私は首を振り、不安を振り払った。
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