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第12話 Reality: 第四の壁の破壊
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翌日。卒業式当日。
学校は異様な雰囲気に包まれていた。
昨日のジャミング事件で、運営スタッフたちはピリピリしている。
私は自宅待機の命令(事実上のクビ宣告)を受けていたが、無視して制服に着替え、学校に来ていた。
最後の始末をつけるために。
湊がどうなったか、見届ける義務がある。
体育館。
厳かな式典が始まる……はずだった。
在校生、卒業生、保護者(全員エキストラ)が整列している。
だが、一番前の席。
生徒会長である湊の席だけが、ぽっかりと空いている。
「……篠崎くん、来てないわね」
隣のエキストラ女子(ミナミ)が小声で囁く。
「先輩、昨日何したんですか? スタッフさん、めっちゃキレてましたけど」
「……終わらせてきたのよ」
湊は来ない。
あんな残酷な真実を知らされて、のこのこ卒業式に来れるわけがない。
これで、企画は失敗(バッドエンド)。
祖父の計画は頓挫した。私の勝ちだ。
……なのに、なんでこんなに胸が痛いんだろう。
校長(役の俳優)が祝辞を読み上げようとした、その時だった。
バンッ!!
体育館の扉が、壊れそうな勢いで開いた。
春の陽光が差し込み、逆光の中に一人の影が立つ。
制服のボタンを外し、ネクタイを緩め、髪も乱れている。
肩で息をしている。
篠崎湊だ。
「……来ちゃったよ」
私は頭を抱えた。
バカ。大バカ者。
逃げればいいのに。引きこもっていればいいのに。
湊は迷うことなく、真っ直ぐに演台に向かって歩き出した。
足音が響く。
先生役の俳優たちが止めようと駆け寄る。
「おい篠崎! 遅刻だぞ! 席に戻れ!」
「触んな!」
湊が一喝した。
その迫力に、大の大人たちが怯んで道を空ける。
彼は演台に上がり、校長からマイクを奪い取った。
キーン、とハウリング音が響く。
「テステス。……あー、聞こえるか? クソ演出家のジジイ」
会場が凍りつく。
数千人のエキストラが息を呑む。
カメラが彼をアップで捉える。コントロールルームの祖父も、見ているはずだ。
「全部知ってるぞ。ここがセットだってことも、お前らが金で雇われた役者だってことも、俺の人生がお前らの娯楽だったってことも!」
湊が客席を指差す。
生徒役たちが動揺してざわつく。
「演技、ご苦労さん。……下手くそだったぜ、全員」
そして、彼の視線が、客席にいる私に向けられた。
真っ直ぐで、熱くて、痛いほどの視線。
「姫宮麗華! ……いや、田中花子!」
本名で呼ばれた。
心臓が止まるかと思った。
会場中が私を見る。
「お前が一番の大嘘つきだ! 『金のため』? 『好きじゃない』? ……笑わせんな!」
湊が叫ぶ。マイクが音割れするほどの声量で。
「あのバレンタインの涙も、昨日の震えも、全部演技だったって言うのか!? もしそうなら、お前はハリウッドに行ける大女優だ! オスカー間違いなしだ!」
私は立ち上がっていた。
足が勝手に動いていた。
涙で視界が滲む。
「……でも違うだろ!」
湊の声が優しくなる。
「俺は、俺の感じたことしか信じない! 台本になんて書いてあっても関係ない! お前が俺に向けてくれた優しさは、本物だった! それだけは、絶対に譲らねえ!」
会場中が静まり返る。
エキストラたちが、役を忘れて彼を見つめている。
佐藤くんが、ミナミが、涙ぐんでいる。
ここにあるのは、もう「演出」じゃない。
一人の男の、魂の叫びだ。
「……バカっ!」
私は叫び返した。
なりふり構わず、大声で。
「あんたって、どこまでおめでたいのよ! そんなだから騙されるのよ! お人好しのバカ!」
「うるせえ! 騙されたとしても、俺が選んだんだ! ……俺は、世界中が敵でも、台本でも、お前がいいんだよ!」
湊が壇上から飛び降りた。
私に向かって走ってくる。
もう、シナリオなんて崩壊している。
第四の壁なんてない。
これは、私たちのリアルだ。
(つづく)
学校は異様な雰囲気に包まれていた。
昨日のジャミング事件で、運営スタッフたちはピリピリしている。
私は自宅待機の命令(事実上のクビ宣告)を受けていたが、無視して制服に着替え、学校に来ていた。
最後の始末をつけるために。
湊がどうなったか、見届ける義務がある。
体育館。
厳かな式典が始まる……はずだった。
在校生、卒業生、保護者(全員エキストラ)が整列している。
だが、一番前の席。
生徒会長である湊の席だけが、ぽっかりと空いている。
「……篠崎くん、来てないわね」
隣のエキストラ女子(ミナミ)が小声で囁く。
「先輩、昨日何したんですか? スタッフさん、めっちゃキレてましたけど」
「……終わらせてきたのよ」
湊は来ない。
あんな残酷な真実を知らされて、のこのこ卒業式に来れるわけがない。
これで、企画は失敗(バッドエンド)。
祖父の計画は頓挫した。私の勝ちだ。
……なのに、なんでこんなに胸が痛いんだろう。
校長(役の俳優)が祝辞を読み上げようとした、その時だった。
バンッ!!
体育館の扉が、壊れそうな勢いで開いた。
春の陽光が差し込み、逆光の中に一人の影が立つ。
制服のボタンを外し、ネクタイを緩め、髪も乱れている。
肩で息をしている。
篠崎湊だ。
「……来ちゃったよ」
私は頭を抱えた。
バカ。大バカ者。
逃げればいいのに。引きこもっていればいいのに。
湊は迷うことなく、真っ直ぐに演台に向かって歩き出した。
足音が響く。
先生役の俳優たちが止めようと駆け寄る。
「おい篠崎! 遅刻だぞ! 席に戻れ!」
「触んな!」
湊が一喝した。
その迫力に、大の大人たちが怯んで道を空ける。
彼は演台に上がり、校長からマイクを奪い取った。
キーン、とハウリング音が響く。
「テステス。……あー、聞こえるか? クソ演出家のジジイ」
会場が凍りつく。
数千人のエキストラが息を呑む。
カメラが彼をアップで捉える。コントロールルームの祖父も、見ているはずだ。
「全部知ってるぞ。ここがセットだってことも、お前らが金で雇われた役者だってことも、俺の人生がお前らの娯楽だったってことも!」
湊が客席を指差す。
生徒役たちが動揺してざわつく。
「演技、ご苦労さん。……下手くそだったぜ、全員」
そして、彼の視線が、客席にいる私に向けられた。
真っ直ぐで、熱くて、痛いほどの視線。
「姫宮麗華! ……いや、田中花子!」
本名で呼ばれた。
心臓が止まるかと思った。
会場中が私を見る。
「お前が一番の大嘘つきだ! 『金のため』? 『好きじゃない』? ……笑わせんな!」
湊が叫ぶ。マイクが音割れするほどの声量で。
「あのバレンタインの涙も、昨日の震えも、全部演技だったって言うのか!? もしそうなら、お前はハリウッドに行ける大女優だ! オスカー間違いなしだ!」
私は立ち上がっていた。
足が勝手に動いていた。
涙で視界が滲む。
「……でも違うだろ!」
湊の声が優しくなる。
「俺は、俺の感じたことしか信じない! 台本になんて書いてあっても関係ない! お前が俺に向けてくれた優しさは、本物だった! それだけは、絶対に譲らねえ!」
会場中が静まり返る。
エキストラたちが、役を忘れて彼を見つめている。
佐藤くんが、ミナミが、涙ぐんでいる。
ここにあるのは、もう「演出」じゃない。
一人の男の、魂の叫びだ。
「……バカっ!」
私は叫び返した。
なりふり構わず、大声で。
「あんたって、どこまでおめでたいのよ! そんなだから騙されるのよ! お人好しのバカ!」
「うるせえ! 騙されたとしても、俺が選んだんだ! ……俺は、世界中が敵でも、台本でも、お前がいいんだよ!」
湊が壇上から飛び降りた。
私に向かって走ってくる。
もう、シナリオなんて崩壊している。
第四の壁なんてない。
これは、私たちのリアルだ。
(つづく)
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