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第14話 Reboot: シーズン2
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学校を出て、私たちはひたすら走った。
校門を抜け、住宅街を抜け、大通りへ。
通り過ぎる人々が、制服姿で全力疾走する私たちを不思議そうに見ている。
でも、もう誰も私たちを「撮影」していない。
そこにあるのは、無関心な都会の日常だけだ。
駅前の雑踏に紛れ込み、人気のない公園のベンチに座り込む。
息が切れて、喉が焼けるように痛い。
制服は皺くちゃだし、髪もボサボサ。メイクも涙でドロドロだ。
こんな酷い顔、カメラの前じゃ絶対に見せられない。
でも、不思議と清々しい気分だった。
「……ははっ、やったな俺たち」
湊が膝に手をつきながら笑う。
「何が『やったな』よ。これからどうすんの?」
私は現実的な問題を突きつける。
「私、職失ったし、あんたも実家の支援打ち切られるわよ? クレジットカードも止められるし、マンションも追い出される」
「バイトするよ。俺、体力には自信あるし。……それに、じいさんが諦めるまで、泥水すする覚悟はある」
泥水か。
御曹司が言うと笑えない。でも、本気だ。
私も、またオーディションの日々か。
大手事務所はクビになったから、コネも使えない。マイナスからのスタートだ。
「……前途多難ね」
「ああ。でも、面白そうだろ?」
湊がニカっと笑う。
脳天気な奴。
でも、私の隣には、台本なしで私を選んでくれた男がいる。
それだけで、何でもできる気がした。
「……ねえ、湊」
私は彼を見る。
どうしても確認しておきたかった。
「私のこと、本当に好きなの? ……私、性格悪いよ? 口も悪いし、金に汚いし、喫煙者だし、朝起きれないし、料理もできないわよ?」
湊は少し考えてから、答えた。
「知ってる。……あと、寝相も悪いだろ?」
「は?」
「保健室で寝てた時、布団蹴飛ばしてたぞ」
「……見てたの!?」
「でもさ」
湊が私の手を取る。
大きく、温かい手。
「猫アレルギーなのに猫助けるし、俺が落ち込んでる時は不器用に励ましてくれるし、何より……演技してても、嘘がつけない不器用なとこが好きなんだよ」
……完敗だ。
こいつには敵わない。
私の全て見透かされていたなんて。
私はため息をついて、彼の方に寄りかかった。
肩の温もりが心地いい。
「……覚悟しなさいよ。私をプロデュースするなら、最高に幸せな結末にしないと許さないから。視聴率100%レベルのハッピーエンドじゃなきゃ嫌だから」
「おう。任せとけ。俺の人生全部使って、最高の作品にしてやるよ」
私たちは手を繋いだ。
カメラのない世界で、初めてのキスをした。
誰も見ていない。BGMもない。
ただ、車の走行音と、遠くの工事の音が聞こえるだけ。
それは、どんな映画のワンシーンよりも地味で、下手くそで、……甘かった。
「さて、まずは今日の寝床と、晩飯の確保だな」
「私、500円しか持ってない」
「俺、財布教室に置いてきた」
「……バカ!」
私たちは顔を見合わせて笑った。
シーズン1(虚構)は打ち切り。
ここから、私たちのシーズン2(リアル)が始まる。
(つづく)
校門を抜け、住宅街を抜け、大通りへ。
通り過ぎる人々が、制服姿で全力疾走する私たちを不思議そうに見ている。
でも、もう誰も私たちを「撮影」していない。
そこにあるのは、無関心な都会の日常だけだ。
駅前の雑踏に紛れ込み、人気のない公園のベンチに座り込む。
息が切れて、喉が焼けるように痛い。
制服は皺くちゃだし、髪もボサボサ。メイクも涙でドロドロだ。
こんな酷い顔、カメラの前じゃ絶対に見せられない。
でも、不思議と清々しい気分だった。
「……ははっ、やったな俺たち」
湊が膝に手をつきながら笑う。
「何が『やったな』よ。これからどうすんの?」
私は現実的な問題を突きつける。
「私、職失ったし、あんたも実家の支援打ち切られるわよ? クレジットカードも止められるし、マンションも追い出される」
「バイトするよ。俺、体力には自信あるし。……それに、じいさんが諦めるまで、泥水すする覚悟はある」
泥水か。
御曹司が言うと笑えない。でも、本気だ。
私も、またオーディションの日々か。
大手事務所はクビになったから、コネも使えない。マイナスからのスタートだ。
「……前途多難ね」
「ああ。でも、面白そうだろ?」
湊がニカっと笑う。
脳天気な奴。
でも、私の隣には、台本なしで私を選んでくれた男がいる。
それだけで、何でもできる気がした。
「……ねえ、湊」
私は彼を見る。
どうしても確認しておきたかった。
「私のこと、本当に好きなの? ……私、性格悪いよ? 口も悪いし、金に汚いし、喫煙者だし、朝起きれないし、料理もできないわよ?」
湊は少し考えてから、答えた。
「知ってる。……あと、寝相も悪いだろ?」
「は?」
「保健室で寝てた時、布団蹴飛ばしてたぞ」
「……見てたの!?」
「でもさ」
湊が私の手を取る。
大きく、温かい手。
「猫アレルギーなのに猫助けるし、俺が落ち込んでる時は不器用に励ましてくれるし、何より……演技してても、嘘がつけない不器用なとこが好きなんだよ」
……完敗だ。
こいつには敵わない。
私の全て見透かされていたなんて。
私はため息をついて、彼の方に寄りかかった。
肩の温もりが心地いい。
「……覚悟しなさいよ。私をプロデュースするなら、最高に幸せな結末にしないと許さないから。視聴率100%レベルのハッピーエンドじゃなきゃ嫌だから」
「おう。任せとけ。俺の人生全部使って、最高の作品にしてやるよ」
私たちは手を繋いだ。
カメラのない世界で、初めてのキスをした。
誰も見ていない。BGMもない。
ただ、車の走行音と、遠くの工事の音が聞こえるだけ。
それは、どんな映画のワンシーンよりも地味で、下手くそで、……甘かった。
「さて、まずは今日の寝床と、晩飯の確保だな」
「私、500円しか持ってない」
「俺、財布教室に置いてきた」
「……バカ!」
私たちは顔を見合わせて笑った。
シーズン1(虚構)は打ち切り。
ここから、私たちのシーズン2(リアル)が始まる。
(つづく)
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