卒業式で「悪役令嬢の役目は終了です」と告げたら

月下花音

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第15話 Curtain Call: 終わらない物語

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 数年後。
 とある街の、古びた小劇場の楽屋。
 化粧品の匂いと、埃の匂いが混じった狭い部屋。
 私は鏡の前でメイクをしていた。

 あの後、私たちは本当に苦労した。
 安アパートでの同棲、バイトの掛け持ち、数え切れないオーディション落選。
 祖父からの妨害もあった。
 それでも、私たちは別れず、私は演技を辞めなかった。
 今は、小さな劇団の座長として、地道に活動を続けている。
 客入りはまずまず。貧乏だけど、自由だ。

「花子ー、差し入れ届いてるぞ」
 楽屋口から顔を出したのは、作業着姿の湊だ。
 彼は大学に通いながら、舞台の大道具スタッフとして働いている。
 釘を打つ手つきも様になってきた。
 私を支える、世界で一番頼れる裏方だ。

「ありがと。……って、これコンビニのおにぎりじゃない」
 ツナマヨと梅干し。
「金ないんだから我慢しろよ。……あと、これ」
 彼が背中から出したのは、一輪の赤いバラの花だった。
 少ししおれているし、ラッピングも雑だ。

「……何これ」
「結婚記念日だろ、今日」
 湊がぶっきらぼうに言う。
「忘れてたか?」
「……忘れるわけないでしょ」

 そういえばそうだった。
 私たちは去年の今日、籍を入れた。
 式は挙げていない。金がないし、呼ぶ親族もいない(祖父とは絶縁状態だ)。
 でも、あの卒業式の騒動が、私たちの結婚式みたいなものだったから、それでいいと思っている。

「……キザなことするわね。いくらしたの?」
 私は笑って、バラを受け取った。
「スーパーで300円。値引きシール剥がしといた」
「安っ。愛が安っ」
「値段じゃねえよ、気持ちだよ」

 二人で笑い合う。
 こんな何気ない会話が、一番幸せだ。
 台本には書けない、アドリブだらけの毎日。

 ブーッ。
 開演ブザーが鳴る。
 私はおにぎりを置いて、立ち上がる。
 深呼吸。
 役(ペルソナ)を纏う。

「行くか」
 湊が私の背中をパンと叩く。
「おう。……愛してるぜ、主演女優」
「知ってるわよ、専属スタッフ」

 舞台袖に向かう。
 暗幕の向こうには、客席が見える。
 そこには、私の演技を待っている人たちがいる。
 そして、私の背後には彼がいる。

 私の人生は終わらない。
 ハッピーエンドなんてまだ早い。
 トラブルだらけで、スリル満点で、泥臭くて、最高に面白い「本番」は、まだ始まったばかりなのだから。

 私はスポットライトの中へ踏み出す。
 客席に向かって、最高の笑顔で、高らかに宣言する。

「さあ、ショーの始まりですわ!」

(おわり)
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