【告白短編集】～どこにでもある日常の中に、最高の愛が隠れている～

第27話：君を忘れたい日に、君を見つけた

彼女と別れて、三ヶ月が経っていた。

別れた理由は、「将来が見えない」という彼女の一言だった。

僕は、その言葉を受け入れた。

だが、心は受け入れられなかった。

毎晩、彼女のことを考える。

彼女は、今、何をしてるのか。

誰かと一緒にいるのか。

それとも、僕と同じように、一人で苦しんでいるのか。



ある日。

友人から、飲み会に誘われた。

「お前、このままじゃダメだ」

友人は言った。

「別れた女のことなんか忘れちまえ。新しい女を探せ」

「そんな簡単に……」

「簡単じゃない。でも、やらなきゃ、ずっとこのままだ」

その言葉に、僕は従うことにした。



その飲み会は、高級クラブのような場所だった。

ネオンの光。プールの周り。セレブたちの空間。

それは、僕が普段いる世界ではない。

だが、友人は「気分転換だ」と言って、僕を連れてきた。



そこで、僕は彼女を見つけた。

蒼衣。

別れた彼女。

彼女は、シルバーのドレスを着て、ハイヒールを履いていた。

その姿は、僕が知っている蒼衣ではなかった。

彼女は、一人で、カウンターに座っていた。

その表情は。

悲しそうだった。



つい、僕は近づいてしまった。

「蒼衣」

彼女は、ぎくりと体を硬くした。

「え？」

僕の顔を見て、彼女の目が大きくなった。

「どうして、ここに？」

「友人に誘われて。君は？」

蒼衣は、その質問に答えず、僕を別の場所へ連れた。

クラブの外。夜の街。



「蒼衣。何してる。ここ」

「それは……」

彼女は、迷っていた。

「別れたから、会わないことにしてた。だから、姿を隠してた」

「姿を隠す？」

「でも、今日、ここに来たのは。君を見つけるためだった」

その言葉に、僕は混乱した。

「何を言ってるんだ」

蒼衣は、涙を流していた。

「あの別れ。本当のことじゃないんです」

「何？」

「あの時、『将来が見えない』って言ったけど。実は、違うんです」

蒼衣は、僕の目を見つめた。

「私は、あなたを試してたんです」

「試す？」

「はい。あなたが、本当に私を愛してるのか。『将来が見えない』という理由で、私を選ばないのか。それとも、別れても、また探し出して、もう一度選んでくれるのか」

「蒼衣」

「三ヶ月間、私は毎日、あなたのことを見てました」

蒼衣の声が、震えていた。

「SNSで、あなたの動きを監視して。友人の連絡で、あなたが苦しんでることを知って。そして、今日、この場所に来てくれるように、友人を動かしました」

僕は、呆然としていた。

「なぜそんなことを」

「だから」

蒼衣は言った。

「別れた後も、あなたが私を探し出してくれるなら。本当に私のことが好きなんだって」

「蒼衣」

「そしたら、もう一度、付き合ってほしいんです」

その言葉に。

僕は、怒りと喜びと、悲しみが混ざった感情に襲われた。



「蒼衣。お前、何言ってるんだ」

「え？」

「お前の『試す』という行為は。俺を傷つけるための試験じゃないか」

蒼衣の顔が、青くなった。

「違う。私は……」

「三ヶ月間、毎日、俺は苦しんだ。その苦しみは。お前のための試験だったのか？」

「そんなつもりじゃ」

「つもりじゃなくても、結果としてそうだ」

僕は、その場を立ち去ろうとした。

「待ってください」

蒼衣が、後ろから僕の腕を掴んだ。

「話を聞いてください。全部」



蒼衣は言った。

「私は、本当に怖かったんです。あなたが、いつか別の女を選ぶんじゃないかって」

「だから、試したのか」

「はい。もし、あなたが別の女を探すなら。それは、あなたが私を本当には愛してなかったということ。だから、別れるべきだって思ったんです」

蒼衣の声が、小さかった。

「でも、あなたは。三ヶ月間、別の女を探さなかった」

「蒼衣」

「だから、わかったんです。あなたは、本当に私を愛してくれてるんだって」

蒼衣は、泣きじゃくった。

「そして、その恐怖は、私の問題だったんです。あなたではなく」



その後。

僕と蒼衣は、話し合った。

長い時間。

結局、彼女は言った。

「別れたのは、本当に大事な告白をするための舞台だったんです」

「告白？」

「はい」

蒼衣は、僕の前に膝を落とした。

「あなたを失って、初めて、気づきました。あなたなしに生きていくことなんか、できないんだって」

蒼衣は、涙を流しながら言った。

「だから。もう一度、付き合ってください。そして、今度は絶対に別れません」

僕は、彼女を引き上げた。

「蒼衣。それは」

「何ですか？」

「試す恋愛は、もうやめようぜ。お互いに」

蒼衣は、頷いた。

「はい。もう。本当に」



その夜。

夜景が見える場所で。

僕は彼女に聞いた。

「蒼衣。本当に、後悔してないのか。あの三ヶ月間」

蒼衣は、首を振った。

「後悔してます。遺憾で満ちてます。でも」

「でも？」

「その三ヶ月間があったから。あなたが、どれだけ大事な存在なのか。わかったんです」

彼女は、僕の手を握った。

「だから、もう同じことはしません。あなたと。ずっと。本気で歩みます」



その時、初めて。

僕たちは、本当に「付き合った」のだと感じた。

試す恋愛ではなく。

本当に、相手を信じた恋愛として。

別れと再会を経て。

二人の愛は、もう一度、生まれ変わった。