【告白短編集】~どこにでもある日常の中に、最高の愛が隠れている~

月下花音

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第45話:老後の散歩で、君の手を再び握った

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二人は、白髪になっていた。

額の皺。手の老人斑。膝の痛み。全てが、歳月の証だった。

毎朝、公園を散歩する。それが、今、二人の習慣だった。

彼女・由美との、ゆっくりとした散歩。

足も、腰も、完全ではない。だが、毎日、毎日、二人で歩いた。



ある朝。

いつものベンチに座った。

朝日が、樹間から差し込む。その光が、由美の白髪を照らしていた。

「由美」

「ん?」

「もう、六十年だな」

「何が?」

「俺たちが付き合ってからだ」

由美は、笑った。その笑顔は、六十年前と、ほぼ同じだった。

「本当ですね。あっという間でした」

僕は、彼女の手を握った。若い時と同じように。だが、今、その手は、シワに満ちていた。爪も、薄くなっていた。

だが、それでも、その手は温かかった。



「由美」

「何ですか?」

「ずっと、俺と一緒にいてくれて、ありがとう」

由美は、目を瞑った。その瞼から、ゆっくりと涙がこぼれた。

「こちらこそ。本当に、ありがとうございました」



その後も、毎朝、二人は散歩を続けた。

時々、足が痛いと言う日もあった。疲れた日もあった。

だが、公園に向かわない日は、ついぞなかった。



十年後。

由美は、亡くなった。

葬式の日、僕は、彼女が握ってくれていた手のことを、ずっと思い出していた。

その温かさ。その確かさ。



その後、僕も、あと数年だろう。

だが、毎朝、公園に向かう。

あの、由美と握った手を感じるために。

あの、六十年の時間を、胸の奥に留めておくために。



人生は、相手の手を握ることで、全てが決まるのだ。

白髪になっても、皺が増えても、その手の温かさは、変わらない。

それが、本当の愛なんだ。

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