【告白短編集】～どこにでもある日常の中に、最高の愛が隠れている～

第46話：君との思い出を、もう一度歩んだ

彼女を失ってから、一年が経った。

全てが、灰色に見えていた。毎日の仕事。毎日の帰宅。そのどれもが、彼女がいない世界での、意味のない行為に思えた。



ある日、僕は決めた。

彼女との思い出の場所を、一つ、一つ、歩むことにしたのだ。



最初に行ったのは、あの駅。

初めて彼女に会った、その駅。

階段を上がった。改札口は、あの時と同じだった。人群は同じ。駅のにおいも、同じ。

だが、彼女はいない。



その日、彼女との出会いを思い出した。

ホームでの、その一瞬。彼女の横顔。その瞬間の、冷たい手。

全てを、もう一度、感じようとした。

だが、感じることができるのは、喪失だけだった。



次に行ったのは、デートでよく行ったカフェ。

二人は、毎週、あのカフェで、読書をしていた。

マスターは、僕を見て、沈黙のまま、いつもの珈琲を淹れてくれた。

「奥さんは?」

その一言で、涙が出た。



その後も、何度も何度も、思い出の場所を歩んだ。

公園。映画館。図書館。観覧車。全ての場所で、彼女の面影を探した。



三ヶ月後。

僕は、最後の場所に向かった。

あの公園。プロポーズをした、その公園。

ベンチに座った。彼女の手を握った位置に、そっと手を置いた。

その時、初めて気づいた。

彼女はいない。だが、彼女が与えてくれた全ての時間が、僕の中に生きている。

その時間が、僕を支えている。



「ありがとう、俺たちの時間」

その言葉を、独り呟いた。



人生は、失うことで、初めて、全てが分かるのだ。

彼女との時間が、いかに尊いものであったか、その喪失を通して、初めて理解できた。



その後も、僕は、毎週、思い出の場所を訪れるようになった。

それは、彼女と生きていた時間を、もう一度、抱きしめるためだ。