偽装ライバル 〜絶望と再生のデバッグモード〜

月下花音

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第7話:文化祭当日:誰のためのダンス?

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 文化祭当日。
 学園は熱気に包まれていた。
 私たちのお化け屋敷は大盛況。相良(包帯姿が逆に痛々しくて女子受けした)と美優のコンビネーションも抜群で、客足が絶えない。

 私はと言えば、裏方の受付係に徹していた。
 表に出る資格なんてない。
 相良の顔をまともに見られなかった。

 そして、夜。
 後夜祭の時間がやってきた。
 グラウンドにキャンプファイヤーが灯される。
 恒例のフォークダンス。
 男子が意中の女子を誘う、告白タイムでもある。

 私は体育館の影に隠れて、その様子を見ていた。
 私の完璧なシナリオでは、こうなっているはずだった。
 『相良樹は、九条玲奈にダンスを申し込む。玲奈はそれを「仕方なく」了承する。二人は公認のカップル(仮)となり、相良のステータスはさらに向上する』と。

 しかし、現実は違った。

 炎の明かりの中、相良が歩み寄ったのは。
 当然、朝比奈美優だった。

「……美優」
 相良が少し照れくさそうに手を差し出す。
「踊ってくれるか?」

「……うん! 喜んで!」
 美優が満面の笑みでその手を取る。

 周囲から歓声が上がる。
 「やったなお似合い!」「ヒューヒュー!」
 祝福の嵐。
 幸せな絵画のような光景。

 美しい。まぶしい。
 そして、どうしようもなく――痛い。

 胸の奥を、熱したナイフで抉られるような痛み。
 私は自分の胸を掴んだ。
 制服の生地がくしゃくしゃになるほど強く。

(なに、これ……)
 息ができない。
 計画通りに進まない苛立ち?
 私の「作品」を横取りされた所有欲?
 
 違う。
 わかっている。本当はわかっている。
 私は、あの輪の中に入りたかった。
 相良の手を取りたかったのは、私だった。
 美優に向けられた、あの優しい笑顔を、私に向けて欲しかった。

「……ただの嫉妬じゃない」
 自分自身に言い聞かせるように呟く。
「こんな非合理的な感情、私には必要ないわ」

 でも、涙が止まらなかった。
 頬を伝う熱い雫が、私の「仮面」を溶かしていく。

 ポケットの中のスマホが震えた。
 おじい様からのメッセージか、情報屋からの報告か。
 どうでもいい。
 
 私は仕事用のノートパソコンを取り出した。
 常に持ち歩いている、私の武器であり、鎧。
 画面には、相良樹の育成計画書(Excelファイル)が表示されている。
 
 『Phase 4:文化祭での成功とロマンス』
 『達成率:0%』

「……ふざけないでよ」
 私は画面を睨みつける。
 数字の羅列。冷たいデータ。
 これが私の全て。これしか私にはない。

 相良たちが音楽に合わせて踊り出す。
 楽しそうな笑い声。
 二人の影が重なり、一つになる。

「あぁぁぁぁぁっ!!」

 私は叫んだ。
 理性が焼き切れた。
 ノートパソコンを、コンクリートの壁に叩きつけた。

 ガシャンッ!
 プラスチックが割れる音。液晶が砕け散る音。
 私の分身(仕事道具)が、無惨なゴミへと変わる。

 ハァ、ハァ、と荒い息を吐く。
 拳から血が滲んでいる。
 痛みで、少しだけ正気に戻った。

 壊してしまった。
 もう後戻りはできない。
 
 私は砕けたPCを放置して、その場を逃げ出した。
 キャンプファイヤーの明るさが届かない闇の中へ。
 
 負けたのだ。
 九条玲奈は、朝比奈美優に負けたのではない。
 「相良樹への恋心」という、自分自身のバグに負けたのだ。

(つづく)
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