俺の「好感度が見える」能力が、転校生の彼女(±0)にだけ効かない件について

月下花音

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第1話:バグ・キャラクター

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 世界は、数値(パラメータ)でできている。
 少なくとも、俺の目にはそう映る。

 朝の教室。
 クラスメイトの頭上には、今日も色とりどりの数字が浮かんでいる。
 『西園寺リカ:好感度+100(Love)』
 『田中:好感度+45(Friend)』
 『佐藤:好感度-20(Dislike)』

 俺、相葉湊人(あいば みなと)には、他人の好感度が見える。
 これは「ギフト」ではない。ただの「攻略ツール」だ。
 この数値さえ見ていれば、人間関係で失敗することはない。
 好感度の高い奴には笑顔を、低い奴には距離を。
 最適解を選び続けるだけの、簡単なクソゲー。

 退屈だった。
 予定調和の会話。計算通りの反応。
 俺の人生には「サプライズ」というイベントが実装されていない。

 ――その転校生が現れるまでは。

「水瀬凪(みなせ なぎ)です。よろしくお願いします」

 教壇に立った少女。
 黒髪ロング。整った顔立ちだが、表情が乏しい。
 クラス中が「美少女だ」とざわめく中、俺だけが息を呑んでいた。

 彼女の頭上に浮かぶ数値。
 それが、異常だったからだ。

 『好感度:±0(Null)』

 ゼロ?
 いや、ただのゼロじゃない。
 プラスでもマイナスでもない、完全なる無。
 俺の能力がバグっているのか?
 初対面の人間でも、多少の第一印象(顔が良いとか、雰囲気が暗いとか)で数値は振れるはずだ。
 なのに、彼女だけは真空のように何もない。

 放課後。
 俺は「調査(デバッグ)」のために彼女に接触した。

「水瀬さん、だよね。俺、隣の席の相葉。よろしく」
 俺は営業スマイル(効果:好感度+5相当)で話しかける。

 水瀬凪は、ゆっくりと俺を見た。
 その瞳は、深海のように暗く、静かだった。

「……よろしく」
 短く答える。

 数値を見る。
 『±0』。
 ピクリとも動かない。
 俺のスマイルが無効化された?

「学校、案内しようか? 迷うだろ?」
 追撃(親切イベント)。通常ならこれで+10はいける。

「……いい。一人で大丈夫」
 拒絶。
 でも、嫌悪感はない。声のトーンはフラットだ。
 数値も不動。
 『-5』に下がるわけでもなく、『+5』に上がるわけでもない。

 俺は背筋に冷たいものが走るのを感じた。
 怖い。
 数値が動かない人間なんて、今まで会ったことがない。
 彼女は何を考えている?
 俺のことをどう思っている?
 情報(ソース)がない。解析できない。

「……そう。じゃあ、何かあったら聞いて」
 俺は引き下がった。
 これ以上踏み込むのはリスクが高い。
 未知のバグには触らないのが鉄則だ。

 席に戻ろうとした時。
 背中越しに、彼女の小さな呟きが聞こえた気がした。

「……相葉、くん」

 振り返る。
 彼女は窓の外を見ていた。
 横顔。
 一瞬だが、その口元が微かに、本当に微かに緩んでいたように見えた。

 数値を見る。
 『±0』。

 幻覚か?
 今の表情は、数値には反映されない「ノイズ」なのか?

 俺の心臓が、不規則なリズムを刻んだ。
 BPM上昇。
 これは恐怖か? それとも――。

 俺は知ってしまった。
 この退屈な世界に、たった一つだけ「攻略本」が通用しないダンジョンが出現したことを。

(つづく)
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