俺の「好感度が見える」能力が、転校生の彼女(±0)にだけ効かない件について

月下花音

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第4話:イレギュラーな接触

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 体育の授業。バスケットボール。
 俺はサボり気味に参加していた。
 運動神経は悪くないが、本気を出すと汗をかくし、目立ちすぎる。
 『好感度+60』くらいを維持する適度なプレイが一番コスパがいい。

 女子のコートでは、凪がプレイしていた。
 彼女は上手くも下手くそもない。
 淡々とパスを回し、無表情で走っている。
 影が薄い。
 クラスメイトたちも、彼女に積極的にパスを出そうとはしない。

 その時。
 男子コートから、暴投されたボールが飛んだ。
 その軌道は、コート端で靴紐を結んでいた凪の頭を直撃コースだった。

「危ない!」
 誰かが叫ぶ。

 俺の思考(CPU)が高速回転する。
 距離10メートル。
 俺が走れば間に合う確率は80%。
 しかし、飛び込めば俺が怪我をするリスクがある。
 怪我の治療費、痛み、目立つことによるパラメータ変動……。
 損得勘定(コスト計算)。
 結論:警告の声だけ出して回避推奨。

 ――のはずだった。

 ドンッ!
 鈍い衝撃。
 背中に激痛が走った。

「ぐっ……!」
 俺は地面に転がった。
 ボールは俺の背中に当たって弾け飛んでいた。
 俺は凪を覆うように抱きかかえていた。

「……相葉、くん?」
 腕の中の凪が、目を丸くして俺を見上げている。

「……ったぁ……。大丈夫か?」
 俺は顔をしかめて聞いた。
 思考より先に体が動いていた。
 計算(ロジック)を無視した、ただの反射(バグ)。

「……うん。でも、相葉くんが……」
 凪が俺の背中に手を伸ばす。
 心配そうな顔。
 眉が下がっている。

 周囲が集まってくる。
「大丈夫か!?」「すげえ、身を挺して守ったぞ!」「相葉かっけー!」
 女子たちの好感度が上昇する音が聞こえる。
 『西園寺リカ:+101(Limit Break)』
 うわ、リカの数値がバグってる。面倒なことになりそうだ。

 でも、俺が気になったのは、目の前の凪だけだった。
 彼女の頭上の数値。
 『±0』。

 やはり動かない。
 俺が身代わりになっても、彼女の好感度はゼロのまま。
 感謝されていない?
 いや、彼女の手が俺のシャツを強く握りしめている。
 震えている。

「……ありがと」
 凪が小声で言った。
 その声には、数値では測れない熱がこもっていた。

 俺は気づいた。
 俺が助けたかったのは、好感度のためじゃない。
 ただ、彼女が傷つくのが嫌だったからだ。
 
 これは「投資」じゃない。
 「浪費」だ。
 何の利益も生まない、非合理的な行動。
 でも、背中の痛みと引き換えに得た彼女の安堵の表情は、どんな報酬よりも価値があるように思えた。

 俺は保健室へ運ばれた。
 背中は打撲で全治一週間。
 痛い。でも、妙に清々しい痛みだった。
 俺のゲーマー人生で初めて、攻略本を捨ててプレイした瞬間の、生々しい手応えだった。

(つづく)
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