俺の「好感度が見える」能力が、転校生の彼女(±0)にだけ効かない件について

月下花音

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第5話:数値の嘘

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 背中の痛みにも慣れてきた頃。
 俺はトイレの個室で、聞いてはいけない会話を聞いてしまった。

「ねえ、相葉くんってさ、ちょっとウザくない?」
「わかるー。八方美人っていうか、計算高いっていうか」
「西園寺さんに気に入られてるから調子乗ってるよね」

 男子トイレの洗面所での会話。
 声の主は、クラスのカースト上位の男子たちだ。
 俺が普段、笑顔で接している「友達(フレンド)」たち。

 俺はスマホで彼らのデータを確認した。
 『好感度+60』『+55』。
 数値上は「友人」だ。
 
 どういうことだ?
 陰口を叩いているのに、好感度は高い?
 
 俺は気づいた。
 この数値は「純粋な好意」だけではない。
 「利用価値」や「無難な付き合い」も含まれているのだ。
 彼らにとって俺は「便利な奴」だからプラス評価。
 でも、心の中では見下している。

 吐き気がした。
 俺が見ていた世界は、なんてお粗末なハリボテだったんだ。
 数字を信じて、数字に合わせて媚びを売って。
 その結果がこれか。

 俺はトイレを出ることができず、チャイムが鳴るまで個室にこもっていた。
 授業をサボり、屋上へ向かった。
 誰の顔も見たくなかった。
 全員の頭上の数値が、嘲笑うように点滅して見えそうだったから。

 屋上のフェンスに寄りかかり、空を見る。
 青空が目に痛い。

「……ここにいた」
 声がした。
 凪だった。
 
「……授業は?」
「サボり。……相葉くんがいないから」

 彼女は俺の隣に立った。
 何も聞かない。俺が落ち込んでいる理由なんてどうでもいいというように。

 俺は彼女の頭上を見た。
 『±0』。
 
 以前は不気味だと思っていたその数字が、今は救いに見えた。
 プラスでもマイナスでもない。
 お世辞もなければ、悪意もない。
 ただ、フラットな事実だけがある。

「……お前さ」
 俺は口を開いた。
「俺のこと、どう思ってる?」
「……どう、って?」
「ウザいとか、計算高いとか」

 凪は少し考えた。
「……計算高いのは、事実」
 グサリと刺さる。

「でも、ウザくはない」
「……なんで?」

「相葉くんの計算は、誰かを傷つけるためのものじゃないから」
 彼女は淡々と言った。
「自分を守るための鎧でしょう? ……重そうだけど」

 鎧。
 そうだ。俺は好感度という鎧で武装して、傷つかないように立ち回っていただけだ。
 それを見抜いていたのか。

「……重いよ、マジで」
 俺は本音を漏らした。
「脱ぎたいけど、脱ぎ方がわかんねーんだよ」

 凪が俺の手ニ触れた。
 冷たい俺の手を、温かい指先が包む。

「……ここでは、脱いでいいよ」
 彼女は言った。
「私には、相葉くんの数値(ヨロイ)は見えないから」

 その言葉の意味を、俺はまだ理解していなかった。
 でも、彼女の手の温もりだけが、嘘偽りのない真実(リアル)だと感じた。

 俺の方も、彼女の手を握り返した。
 『±0』の世界。
 そこだけが、俺が息のできる唯一のセーフティゾーンだった。

(つづく)
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