俺の「好感度が見える」能力が、転校生の彼女(±0)にだけ効かない件について

月下花音

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第7話:歪んだデート

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 日曜日。
 リカとのデート。場所は駅前のショッピングモール。
 彼女は俺の腕に抱きつき、離れない。

「ねえ、これ似合う?」
「うん、可愛いよ(定型文A)」
「こっちのカフェ行こ!」
「いいよ、リカの好きなとこで(定型文B)」

 俺はオートモードで対応していた。
 心ここにあらず。
 思考のリソースは、昨日の凪との会話に向けられていた。

 映画館の前を通った時。
 俺は見た。
 凪が一人でチケット売り場に列んでいるのを。
 彼女が見ているポスターは、マイナーな単館系映画(猫のドキュメンタリー)だ。

「……あ」
 声が出た。

「湊人くん?」
 リカが俺の視線を追う。
「……へえ。水瀬さんじゃん」
 彼女の声が冷える。
「奇遇ね。……挨拶してこよっか」

「いや、いいよ! 邪魔したら悪いし!」
「なんで? クラスメイトでしょ?」

 リカは俺の腕を引っ張り、強引に凪の方へ向かう。
 逃げ道はない。

「水瀬さーん!」
 リカが声をかける。
 凪が振り返る。俺たちを見て、一瞬だけ目が揺れた。

「……西園寺さん。相葉くん」
「一人? 寂しいねー。私たちデート中なんだー」
 リカが俺の腕にさらに密着し、胸を押し付ける。
 マウンティング。所有権の主張。

「……そう。楽しんで」
 凪は興味なさそうに背を向ける。
 その態度が、リカの神経を逆撫でしたらしい。

「あ、そうだ水瀬さん」
 リカが呼び止める。
「来週の遠足、班決まった?」
「……まだ」
「じゃあ余り物同士で組めば? ……湊人くんは私と組むから、安心してね」

 悪意。
 純粋な悪意の塊。
 『好感度+100』の裏側にあるのは、他者への排他性だ。

「リカ、やめろよ」
 俺は初めて反論した。

「え?」
「そういう言い方、良くないと思うぞ」

 リカが信じられないものを見る目で俺を見る。
 数値が歪む。
 『+100』→『+80』→『+60』……急速低下。
 俺への好意が、敵意に反転していく。

「……湊人くん、私の味方じゃないの?」
「味方とか、そういうのじゃなくて……」

 空気が凍りついた。
 その時。

「……もう、いいから」
 凪が割って入った。
「私、映画始まるから。……相葉くんも、彼女大事にしなよ」

 彼女は早足で去っていった。
 俺を一瞥もしないで。
 
 「彼女大事にしなよ」。その言葉が胸に突き刺さった。
 彼女は俺を守るために、自分から引いたんだ。
 俺がリカと揉めないように。

 俺は自分がひどく惨めに思えた。
 二人の少女の間で、俺は何一つ決められないまま、ただ立ち尽くしている。

 リカが俺の腕を強く掴んだ。
 「……行こ、湊人くん」
 その爪が、皮膚に食い込んで痛かった。
 『好感度+95(Locked)』。
 数値は戻っていたが、その横には『LOCK』の文字。
 逃がさない。そういう呪いの刻印に見えた。

(つづく)
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