俺の「好感度が見える」能力が、転校生の彼女(±0)にだけ効かない件について

月下花音

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第8話:遠足の夜:雨と停電

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 遠足。行き先は山間の宿泊施設。
 班分けは、リカの圧力により俺と同じ班になった。
 凪は、人数調整で他の女子グループに入れられた(というか押し付けられた)。

 一日目の夜。
 突然の雷雨に見舞われた。
 山頂付近のロッジは豪雨に打たれ、そして――プツン。
 停電した。

 真っ暗闇。
 悲鳴が上がる。

 俺は部屋にいたが、喉が乾いて廊下に出ようとした瞬間だった。
 暗闇の中で、誰かとぶつかった。

「……っ」
 小さな声。
 触れた手の感触でわかった。
 凪だ。

「……水瀬?」
「……相葉くん」

 スマホのライトをつける。
 白い顔が浮かび上がる。
 彼女は震えていた。

「雷、苦手?」
「……ちょっとだけ」
 彼女は耳を塞いでしゃがみ込む。
 いつもクールな彼女が、こんなに弱っているなんて。

「大丈夫だよ。すぐ復旧するって」
 俺は隣にしゃがみ、彼女の背中をさすった。
 数値が見えない暗闇。
 俺の能力(視覚情報)は封じられている。
 頼れるのは、触覚と聴覚だけ。

 彼女の体温は低かった。
 呼吸が浅い。
 俺は自分の上着を脱いで、彼女に掛けた。

「……あったかい」
 凪が俺の腕にしがみついてくる。
 無意識だろうか。
 彼女の頭が俺の肩に乗る。

 ドクン。
 心音が聞こえそうな距離。
 俺の心臓じゃない。彼女の心臓だ。
 速い。
 『±0』の彼女の鼓動が、こんなに激しく脈打っている。

「……相葉くん」
「ん?」
「……私、ここにいていいのかな」
 彼女が弱音を吐く。
「班の子たちと、うまく話せない。……私がいると、空気が悪くなる」

「そんなことない」
「あるよ。……私、欠陥品だから」
 彼女は自嘲気味に笑う。
「感情がよくわからないの。自分が何をしたいのかも」

 俺は彼女の手を強く握った。
「感情がない奴が、雷で震えるかよ」
「え?」
「感情がない奴が、猫に優しくするかよ。……お前は欠陥品じゃない。不器用なだけだ」

 俺は必死に伝えた。
 それは、自分自身への言葉でもあった。
 数値に頼らないと人と接せられない俺こそ、欠陥品だ。
 
「……相葉くんの手、好き」
 不意に、凪が言った。
「え?」
「計算高いけど、優しい手。……これだけは、信じられる」

 彼女が俺の手を頬に押し当てる。
 熱い。
 彼女の頬が熱い。

 俺の思考回路がショートしそうになった。
 これは、どういう意味だ?
 好意? 依存? それともただの錯乱?
 数値が見たい。いや、見たくない。
 今のこの感触だけが全てでいい。

 その時。
 パッ、と電気がついた。
 世界が明るくなる。

 廊下の向こうに、人影があった。
 西園寺リカだ。
 彼女は仁王立ちで、俺と凪が寄り添っている姿を見ていた。

 頭上の数値。
 『+100』。
 真っ赤な数字。
 そして、その横に新たなステータス異常が表示されていた。
 『Mental: BREAK(精神崩壊)』

「……見つけた」
 リカが笑った。
 今までで一番美しい、そして一番恐ろしい笑顔で。

 俺は凪を庇うように立ち上がった。
 雷よりも怖い嵐が、ここから始まる。

(つづく)
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