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第9話:崩壊の序曲
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遠足から戻って以来、クラスの空気が変わった。
凪へのいじめが始まったのだ。
教科書が隠される。机に落書きされる。
陰湿で、幼稚な嫌がらせ。
犯人は明白だ。
西園寺リカの先導だ。
彼女自身は手を下さない。取り巻き(信者)を使って、ジワジワと凪を追い詰める。
リカの好感度は俺に対して『+100』のままだが、俺が凪に近づこうとすると、無言の圧力をかけてくる。
「湊人くん。……どこ行くの?」
休み時間。俺が席を立とうとすると、リカが腕を掴む。
「トイレだよ」
「本当? 水瀬さんのところじゃないよね?」
目が据わっている。
俺は動けなかった。
俺が凪を助ければ、いじめはもっと酷くなる。
俺がリカに従うフリをして、事態を鎮静化させるしかない。
それが「合理的」な判断だ。
だが、凪は孤立していった。
誰とも話さず、休み時間は一人で本を読んでいる。
落書きされた机を、黙って雑巾で拭いている。
見ていられなかった。
俺の心の中の数値(ストレス値)が限界を超えようとしていた。
ある放課後。
俺は誰もいない教室で、凪が一人で泣いているのを見た。
声を押し殺して。肩を震わせて。
俺は足を踏み入れようとした。
しかし、足がすくんだ。
俺に何ができる?
中途半端な優しさは、彼女を傷つけるだけだと言ったのは誰だ?
その時、凪が顔を上げた。
俺と目が合った。
「……来ちゃダメ」
彼女は首を振った。
「相葉くんまで標的にされる。……私が我慢すれば、それで終わるから」
彼女は俺を守ろうとしていた。
自分が一番辛いはずなのに。
『±0』の彼女が、俺のために自己犠牲を選んでいる。
俺は何て情けない男だ。
数値が見える能力なんて持っていて、結局、一番大切なものが見えていなかった。
自分を守ることしか考えていなかった。
「……ふざけんなよ」
俺は自分自身に吐き捨てた。
鎧を脱ぐ時だ。
傷つくことを恐れて、彼女を犠牲にするくらいなら、一緒に傷だらけになった方がマシだ。
俺は教室に入った。
凪の手を掴んだ。
「帰ろう」
「え……?」
「リカとか、クラスの連中とか、どうでもいい。……俺はお前が大事だ」
言ってしまった。
もう計算も何もない。
本能のままの行動。
凪が大きく目を見開いた。
そして。
『ERROR』。
彼女の頭上の数値が、一瞬だけ表示された。
『+……』。
数字までは読めなかった。すぐにかき消された。
でも、確かに変動した。
ゼロからの脱却。
俺たちは手を繋いで学校を出た。
背中で、誰かの視線(リカの殺気)を感じながら。
泥沼の戦争が始まったことを、俺は理解していた。
(つづく)
凪へのいじめが始まったのだ。
教科書が隠される。机に落書きされる。
陰湿で、幼稚な嫌がらせ。
犯人は明白だ。
西園寺リカの先導だ。
彼女自身は手を下さない。取り巻き(信者)を使って、ジワジワと凪を追い詰める。
リカの好感度は俺に対して『+100』のままだが、俺が凪に近づこうとすると、無言の圧力をかけてくる。
「湊人くん。……どこ行くの?」
休み時間。俺が席を立とうとすると、リカが腕を掴む。
「トイレだよ」
「本当? 水瀬さんのところじゃないよね?」
目が据わっている。
俺は動けなかった。
俺が凪を助ければ、いじめはもっと酷くなる。
俺がリカに従うフリをして、事態を鎮静化させるしかない。
それが「合理的」な判断だ。
だが、凪は孤立していった。
誰とも話さず、休み時間は一人で本を読んでいる。
落書きされた机を、黙って雑巾で拭いている。
見ていられなかった。
俺の心の中の数値(ストレス値)が限界を超えようとしていた。
ある放課後。
俺は誰もいない教室で、凪が一人で泣いているのを見た。
声を押し殺して。肩を震わせて。
俺は足を踏み入れようとした。
しかし、足がすくんだ。
俺に何ができる?
中途半端な優しさは、彼女を傷つけるだけだと言ったのは誰だ?
その時、凪が顔を上げた。
俺と目が合った。
「……来ちゃダメ」
彼女は首を振った。
「相葉くんまで標的にされる。……私が我慢すれば、それで終わるから」
彼女は俺を守ろうとしていた。
自分が一番辛いはずなのに。
『±0』の彼女が、俺のために自己犠牲を選んでいる。
俺は何て情けない男だ。
数値が見える能力なんて持っていて、結局、一番大切なものが見えていなかった。
自分を守ることしか考えていなかった。
「……ふざけんなよ」
俺は自分自身に吐き捨てた。
鎧を脱ぐ時だ。
傷つくことを恐れて、彼女を犠牲にするくらいなら、一緒に傷だらけになった方がマシだ。
俺は教室に入った。
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「帰ろう」
「え……?」
「リカとか、クラスの連中とか、どうでもいい。……俺はお前が大事だ」
言ってしまった。
もう計算も何もない。
本能のままの行動。
凪が大きく目を見開いた。
そして。
『ERROR』。
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『+……』。
数字までは読めなかった。すぐにかき消された。
でも、確かに変動した。
ゼロからの脱却。
俺たちは手を繋いで学校を出た。
背中で、誰かの視線(リカの殺気)を感じながら。
泥沼の戦争が始まったことを、俺は理解していた。
(つづく)
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