いきなり最終回から始まるラブコメ

月下花音

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第5話 違和感の芽生え、友人の証言

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 栞との「答え合わせ」の日々は、甘く、そしてどこか居心地が悪かった。
 彼女の語る俺は、いつも少しカッコよすぎる。
 そして現実の俺は、いつも少し期待外れだ。

 俺は客観的な意見を求めて、友人の井上(いのうえ)に接触した。
 井上は文芸部にも所属していない普通のクラスメイトで、俺と栞の関係を一番近くで見ていたはずの人間だ。
 昼休み、購買のパンをかじりながら、俺は切り出した。

「なあ、井上。……俺と雪野さんってさ、どんな感じだった?」
「は? 今更何言ってんだお前。ノロケか?」
 井上は呆れたように紙パックのジュースをすする。

「いや、マジで。記憶喪失……みたいなもんでさ。俺たち、周りから見て『理想のカップル』に見えてたのかな?」

「理想のカップル……?」
 井上が微妙な顔をする。
 眉間に皺を寄せ、何かを言い淀むような表情。
「まあ、お前が頑張ってたのは認めるけどよ」

「頑張ってた?」
「お前、なりふり構わずって感じだったじゃん。雪野さんに釣り合う男になるんだって言って、筋トレ始めたり、ファッション誌読み漁ったり。……正直、見てて痛々しいくらい必死だったぞ」

 ……痛々しい。
 その言葉がグサリと刺さる。
 栞の話に出てくる「余裕があってスマートな王子様」とは程遠い。
 やはり、現実はそうだったのか。

「雪野さんは? 雪野さんはどうだった?」
「雪野さんか……。彼女もまあ、お前のこと大事にしてたとは思うけど」
 井上が言葉を選ぶ。
「なんか、お前ら二人とも、無理して『理想の彼氏彼女』演じてるみたいに見えたな。文化祭の前とか、お前、顔死んでたし」

 文化祭。
 その単語が出た瞬間、俺の脳裏に白いノイズが走った。
 キーン、という耳鳴り。
 一瞬、暗闇の中でスポットライトを浴びるステージの映像がフラッシュバックする。
 そして、誰かの泣く声。

「っ……!」
 俺はこめかみを押さえた。
「おい、大丈夫か夏月?」
「あ、ああ……平気。……文化祭で、何かあったっけ?」

「何かって……お前、あんな大事件忘れんたのかよ」
 井上が目を丸くする。
「伝説だぞ、あれは。……まあ、今は言わないでおくわ。お前が自分で思い出さないと意味がない気がするし」

 井上は気を使って口を閉ざした。
 大事件。伝説。
 嫌な予感がする。
 栞の語る「Replay」には、文化祭の話はまだ出てきていない。
 きっと、クライマックスとして取ってあるのだろう。
 でも、それは本当に「美しい思い出」なのだろうか?

 放課後。
 俺は栞に会うのが少し怖かった。
 彼女の笑顔の裏に、どれだけの「修正」が加えられているのか。
 そして、俺たちが演じている「理想のカップル」の仮面の下には、どんな素顔が隠されているのか。

「夏月くん! 今日は遊園地デートの話だよ!」

 教室で待っていた栞は、今日も眩しいくらいの笑顔だった。
 その笑顔が、俺には少しだけ、「作られた完璧さ」に見えてしまった。

「……うん、楽しみだ」
 俺は嘘をついた。
 この物語のページをめくるのが、怖い。
 でも、読み進めなければ「終わり」には辿り着けない。

 俺たちは「再生」ボタンを押す。
 ノイズ混じりの、美しい過去へ。

(つづく)
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