5 / 15
第5話 違和感の芽生え、友人の証言
しおりを挟む
栞との「答え合わせ」の日々は、甘く、そしてどこか居心地が悪かった。
彼女の語る俺は、いつも少しカッコよすぎる。
そして現実の俺は、いつも少し期待外れだ。
俺は客観的な意見を求めて、友人の井上(いのうえ)に接触した。
井上は文芸部にも所属していない普通のクラスメイトで、俺と栞の関係を一番近くで見ていたはずの人間だ。
昼休み、購買のパンをかじりながら、俺は切り出した。
「なあ、井上。……俺と雪野さんってさ、どんな感じだった?」
「は? 今更何言ってんだお前。ノロケか?」
井上は呆れたように紙パックのジュースをすする。
「いや、マジで。記憶喪失……みたいなもんでさ。俺たち、周りから見て『理想のカップル』に見えてたのかな?」
「理想のカップル……?」
井上が微妙な顔をする。
眉間に皺を寄せ、何かを言い淀むような表情。
「まあ、お前が頑張ってたのは認めるけどよ」
「頑張ってた?」
「お前、なりふり構わずって感じだったじゃん。雪野さんに釣り合う男になるんだって言って、筋トレ始めたり、ファッション誌読み漁ったり。……正直、見てて痛々しいくらい必死だったぞ」
……痛々しい。
その言葉がグサリと刺さる。
栞の話に出てくる「余裕があってスマートな王子様」とは程遠い。
やはり、現実はそうだったのか。
「雪野さんは? 雪野さんはどうだった?」
「雪野さんか……。彼女もまあ、お前のこと大事にしてたとは思うけど」
井上が言葉を選ぶ。
「なんか、お前ら二人とも、無理して『理想の彼氏彼女』演じてるみたいに見えたな。文化祭の前とか、お前、顔死んでたし」
文化祭。
その単語が出た瞬間、俺の脳裏に白いノイズが走った。
キーン、という耳鳴り。
一瞬、暗闇の中でスポットライトを浴びるステージの映像がフラッシュバックする。
そして、誰かの泣く声。
「っ……!」
俺はこめかみを押さえた。
「おい、大丈夫か夏月?」
「あ、ああ……平気。……文化祭で、何かあったっけ?」
「何かって……お前、あんな大事件忘れんたのかよ」
井上が目を丸くする。
「伝説だぞ、あれは。……まあ、今は言わないでおくわ。お前が自分で思い出さないと意味がない気がするし」
井上は気を使って口を閉ざした。
大事件。伝説。
嫌な予感がする。
栞の語る「Replay」には、文化祭の話はまだ出てきていない。
きっと、クライマックスとして取ってあるのだろう。
でも、それは本当に「美しい思い出」なのだろうか?
放課後。
俺は栞に会うのが少し怖かった。
彼女の笑顔の裏に、どれだけの「修正」が加えられているのか。
そして、俺たちが演じている「理想のカップル」の仮面の下には、どんな素顔が隠されているのか。
「夏月くん! 今日は遊園地デートの話だよ!」
教室で待っていた栞は、今日も眩しいくらいの笑顔だった。
その笑顔が、俺には少しだけ、「作られた完璧さ」に見えてしまった。
「……うん、楽しみだ」
俺は嘘をついた。
この物語のページをめくるのが、怖い。
でも、読み進めなければ「終わり」には辿り着けない。
俺たちは「再生」ボタンを押す。
ノイズ混じりの、美しい過去へ。
(つづく)
彼女の語る俺は、いつも少しカッコよすぎる。
そして現実の俺は、いつも少し期待外れだ。
俺は客観的な意見を求めて、友人の井上(いのうえ)に接触した。
井上は文芸部にも所属していない普通のクラスメイトで、俺と栞の関係を一番近くで見ていたはずの人間だ。
昼休み、購買のパンをかじりながら、俺は切り出した。
「なあ、井上。……俺と雪野さんってさ、どんな感じだった?」
「は? 今更何言ってんだお前。ノロケか?」
井上は呆れたように紙パックのジュースをすする。
「いや、マジで。記憶喪失……みたいなもんでさ。俺たち、周りから見て『理想のカップル』に見えてたのかな?」
「理想のカップル……?」
井上が微妙な顔をする。
眉間に皺を寄せ、何かを言い淀むような表情。
「まあ、お前が頑張ってたのは認めるけどよ」
「頑張ってた?」
「お前、なりふり構わずって感じだったじゃん。雪野さんに釣り合う男になるんだって言って、筋トレ始めたり、ファッション誌読み漁ったり。……正直、見てて痛々しいくらい必死だったぞ」
……痛々しい。
その言葉がグサリと刺さる。
栞の話に出てくる「余裕があってスマートな王子様」とは程遠い。
やはり、現実はそうだったのか。
「雪野さんは? 雪野さんはどうだった?」
「雪野さんか……。彼女もまあ、お前のこと大事にしてたとは思うけど」
井上が言葉を選ぶ。
「なんか、お前ら二人とも、無理して『理想の彼氏彼女』演じてるみたいに見えたな。文化祭の前とか、お前、顔死んでたし」
文化祭。
その単語が出た瞬間、俺の脳裏に白いノイズが走った。
キーン、という耳鳴り。
一瞬、暗闇の中でスポットライトを浴びるステージの映像がフラッシュバックする。
そして、誰かの泣く声。
「っ……!」
俺はこめかみを押さえた。
「おい、大丈夫か夏月?」
「あ、ああ……平気。……文化祭で、何かあったっけ?」
「何かって……お前、あんな大事件忘れんたのかよ」
井上が目を丸くする。
「伝説だぞ、あれは。……まあ、今は言わないでおくわ。お前が自分で思い出さないと意味がない気がするし」
井上は気を使って口を閉ざした。
大事件。伝説。
嫌な予感がする。
栞の語る「Replay」には、文化祭の話はまだ出てきていない。
きっと、クライマックスとして取ってあるのだろう。
でも、それは本当に「美しい思い出」なのだろうか?
放課後。
俺は栞に会うのが少し怖かった。
彼女の笑顔の裏に、どれだけの「修正」が加えられているのか。
そして、俺たちが演じている「理想のカップル」の仮面の下には、どんな素顔が隠されているのか。
「夏月くん! 今日は遊園地デートの話だよ!」
教室で待っていた栞は、今日も眩しいくらいの笑顔だった。
その笑顔が、俺には少しだけ、「作られた完璧さ」に見えてしまった。
「……うん、楽しみだ」
俺は嘘をついた。
この物語のページをめくるのが、怖い。
でも、読み進めなければ「終わり」には辿り着けない。
俺たちは「再生」ボタンを押す。
ノイズ混じりの、美しい過去へ。
(つづく)
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日7時•19時に更新予定です。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
灰かぶりの姉
吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。
「今日からあなたのお父さんと妹だよ」
そう言われたあの日から…。
* * *
『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。
国枝 那月×野口 航平の過去編です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる