いきなり最終回から始まるラブコメ

月下花音

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第9話 栞の独白

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 栞の語る『物語』のトーンが変わった。
 今までの、キラキラしたBGMが流れるような口調ではない。
 静かで、少し震えていて、懺悔のような響き。

 ✎ܚ

 【True Story Mode:Start】

 私ね、ずっと夏月くんのことを見てたの。
 図書室で会う前から。
 夏月くんは覚えてないかもしれないけど、一年の時の球技大会。
 サッカーで、誰も見てないところで、ずっと走ってたでしょ?
 ボールには全然絡めてなかったけど、最後まで諦めずに走り回ってた。
 バカみたいに一生懸命で、汗だくで。
 その姿が、なんか……すごくカッコよく見えたの。

 私、周りからは「完璧」とか「高嶺の花」とか言われるけど、本当は臆病で、失敗するのが怖くて、何もしないタイプだったから。
 だから、不格好でもガムシャラな夏月くんが、私のヒーローだった。

 図書室の日も、本当は私が夏月くんを見つけて、わざと届かないフリをしたの。
 話すきっかけが欲しくて。
 背伸びしてくれたの、気づいてたよ。
 踵、プルプル震えてたもんね。
 可愛かった。
 そんなに無理してまで、私を助けようとしてくれたんだって。

 お弁当の時もそう。
 本当は、夏月くんが塩辛いのが好きなのリサーチ済みだった。
 でも、お母さんが「恋人なら甘い卵焼きでしょ!」って張り切っちゃって……言い出せなくて。
 夏月くん、「美味しい」って言ってくれたけど、顔が引きつってた。
 それでも完食してくれた優しさが、嬉しくて、申し訳なくて。

 遊園地も、不良の件も。
 夏月くんは全部「失敗した」って思ってるかもしれないけど、私にとっては全部「成功」だったんだよ?
 だって、私のために必死になってくれた事実は変わらないじゃない。
 結果なんてどうでもいい。
 その「過程」こそが、私が恋した理由なんだから。

 でもね。
 付き合い始めてから、夏月くんがどんどん苦しそうになっていくのがわかった。
 「雪野栞の彼氏」というプレッシャー。
 周りの目。
 「釣り合わない」っていう陰口。
 夏月くんは私に心配かけまいと、どんどん「完璧な彼氏」を演出しようとして、空回りして、自分を追い詰めていった。

 私、怖かったの。
 「本当はダメな俺」を知られたら、私が失望するんじゃないかって、夏月くんが怯えているのがわかったから。
 だから、私も演技をしたの。
 「夏月くんは完璧だよ」「カッコいいよ」って。
 あえて失敗を見ないフリをして、成功だけを褒め称えた。
 そうすれば、夏月くんが自信を持ってくれると思ったから。

 でも、それが逆効果だったんだね。
 私のついた「優しい嘘」が、夏月くんの逃げ場を塞いで、孤独にさせてしまった。
 
 文化祭の前。
 夏月くん、文芸部の出し物で、自作の小説を朗読することになったでしょ?
 『愛の告白』っていう、ベタな恋愛小説。
 私、すごく楽しみにしてた。
 でも、夏月くんは「こんな恥ずかしいもの聞かせられない」って、ずっと悩んでたよね。

 そして、あの日――八月三十一日。
 文化祭の前夜祭。
 あの事件が起きたの。

 【True Story Mode:Pause】

 ✎ܚ

「……ここから先は、俺の記憶にもうっすら残ってる」
 俺は栞の言葉を遮った。
 
 文化祭の前夜祭。
 体育館のステージ。
 スポットライト。
 そして、大勢の観客の視線。

 俺はそこで、人生最大の失態を演じたはずだ。
 それがトドメとなって、俺の心は砕け、記憶を閉ざした。

「……俺が話すよ」
 俺は拳を握りしめた。
 自分の口で語らなければならない。
 俺の、一番情けなくて、一番消したかった過去を。
 栞の美しいナレーションではなく、俺自身の泥臭い声で。

「第11話。タイトルは『公開処刑』だ」

(つづく)
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