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第1章:大人の苦味(働く女性のリアル)
#3:チョコレートは溶けても、想いは残る Ep.03
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そこからの時間は、地獄の消化試合だった。
先輩は気まずさを誤魔化すように、いつもより饒舌になった。
「そういやさ、俺もそろそろ婚活しようかなーって思ってて」
「いいっすねー、先輩ならすぐ見つかりますよ」
「だろ? こないだ紹介された子がさ、結構可愛くて」
聞きたくない。
私の告白を「冗談」として処理したその口で、他の女の話をしないで。
口の中のハイボールが、鉄の味がする。
喉が焼けるように熱い。
「お前も早く彼氏作れよ? いい奴紹介してやろうか?」
「いや、今は仕事楽しいんでー」
楽しいわけあるか。
毎日死んだ目でエクセル叩いてるだけだわ。
チョコは、先輩のカバンの端っこに押し込まれた。
潰れてないかな。
いや、どうでもいい。
どうせ家に帰ったら、適当に食べられるか、最悪、そのまま忘れ去られる運命だ。
私の想いと同じように。
22時。解散。
「じゃあな、気をつけて帰れよ」
駅の改札で、先輩が手を振る。
「先輩も」
笑顔で手を振り返す。
先輩の背中が見えなくなるまで見送る。
姿が消えた瞬間、糸が切れたみたいに足の力が抜けた。
ふらついて、柱に寄りかかる。
「……しんど」
口から出たのは、そんな一言だった。
涙は出ない。
ただ、とにかく疲れた。
フルマラソンを走ったあとのような、全身の倦怠感。
胃が重い。
焼き鳥、食べすぎたかな。
帰りの電車は空いていた。
座席の端に座り、ガラスに頭をつける。
振動が頭蓋骨に響いて、少し気持ちいい。
カバンを開ける。
財布の中に、3800円のレシートが入ったままだ。
『ボンボンショコラ 4個入』。
この文字を見るたびに、私は今日の惨めさを思い出すんだろうか。
いっそ捨ててしまえばいいのに、私は丁寧に財布の奥にしまった。
自虐的な記念品として。
最寄り駅に着く。
コンビニの光が目に痛い。
お酒を買おうかと思ったけど、やめた。
これ以上酔ったら、先輩に電話して泣きついてしまいそうだ。
「嘘です、本当は好きなんです」って。
そんなことしたら、今度こそ着信拒否される。
「妹」の座すら剥奪される。
それは怖い。
……なんでまだ怖がってるんだろう。
振られたのに。
可能性ゼロって言われたのに。
まだ、繋がっていたいと思ってる。
惨めだ。
本当に惨めだ。
家に帰って、メイクも落とさずにベッドに倒れ込んだ。
天井のシミを見つめる。
あのシミ、前からあったっけ?
どうでもいい思考が頭をよぎる。
スマホを見る。
先輩からLINEは来てない。
いつもなら「家着いたか?」って来るのに。
やっぱり、気まずいんだ。
私の「冗談」が、完全には冗談として機能してなかったんだ。
先輩もバカじゃない。
私の引きつった笑顔の下に、何かを感じ取ったのかもしれない。
「……あーあ」
大きな声を出してみる。
部屋の空気が少しだけ震えて、すぐに静寂に戻る。
32歳。独身。彼氏なし。
片想い相手には妹扱いされて終了。
私の人生、詰んでない?
いや、まだ詰んでない。
明日も仕事はあるし、税金は払わなきゃいけないし、生きていかなきゃいけない。
それが一番しんどい。
ドラマみたいに、失恋した瞬間に世界が終わればいいのに。
現実は無情にも続いていく。
明日の朝も、7時のアラームは鳴るんだ。
(つづく)
先輩は気まずさを誤魔化すように、いつもより饒舌になった。
「そういやさ、俺もそろそろ婚活しようかなーって思ってて」
「いいっすねー、先輩ならすぐ見つかりますよ」
「だろ? こないだ紹介された子がさ、結構可愛くて」
聞きたくない。
私の告白を「冗談」として処理したその口で、他の女の話をしないで。
口の中のハイボールが、鉄の味がする。
喉が焼けるように熱い。
「お前も早く彼氏作れよ? いい奴紹介してやろうか?」
「いや、今は仕事楽しいんでー」
楽しいわけあるか。
毎日死んだ目でエクセル叩いてるだけだわ。
チョコは、先輩のカバンの端っこに押し込まれた。
潰れてないかな。
いや、どうでもいい。
どうせ家に帰ったら、適当に食べられるか、最悪、そのまま忘れ去られる運命だ。
私の想いと同じように。
22時。解散。
「じゃあな、気をつけて帰れよ」
駅の改札で、先輩が手を振る。
「先輩も」
笑顔で手を振り返す。
先輩の背中が見えなくなるまで見送る。
姿が消えた瞬間、糸が切れたみたいに足の力が抜けた。
ふらついて、柱に寄りかかる。
「……しんど」
口から出たのは、そんな一言だった。
涙は出ない。
ただ、とにかく疲れた。
フルマラソンを走ったあとのような、全身の倦怠感。
胃が重い。
焼き鳥、食べすぎたかな。
帰りの電車は空いていた。
座席の端に座り、ガラスに頭をつける。
振動が頭蓋骨に響いて、少し気持ちいい。
カバンを開ける。
財布の中に、3800円のレシートが入ったままだ。
『ボンボンショコラ 4個入』。
この文字を見るたびに、私は今日の惨めさを思い出すんだろうか。
いっそ捨ててしまえばいいのに、私は丁寧に財布の奥にしまった。
自虐的な記念品として。
最寄り駅に着く。
コンビニの光が目に痛い。
お酒を買おうかと思ったけど、やめた。
これ以上酔ったら、先輩に電話して泣きついてしまいそうだ。
「嘘です、本当は好きなんです」って。
そんなことしたら、今度こそ着信拒否される。
「妹」の座すら剥奪される。
それは怖い。
……なんでまだ怖がってるんだろう。
振られたのに。
可能性ゼロって言われたのに。
まだ、繋がっていたいと思ってる。
惨めだ。
本当に惨めだ。
家に帰って、メイクも落とさずにベッドに倒れ込んだ。
天井のシミを見つめる。
あのシミ、前からあったっけ?
どうでもいい思考が頭をよぎる。
スマホを見る。
先輩からLINEは来てない。
いつもなら「家着いたか?」って来るのに。
やっぱり、気まずいんだ。
私の「冗談」が、完全には冗談として機能してなかったんだ。
先輩もバカじゃない。
私の引きつった笑顔の下に、何かを感じ取ったのかもしれない。
「……あーあ」
大きな声を出してみる。
部屋の空気が少しだけ震えて、すぐに静寂に戻る。
32歳。独身。彼氏なし。
片想い相手には妹扱いされて終了。
私の人生、詰んでない?
いや、まだ詰んでない。
明日も仕事はあるし、税金は払わなきゃいけないし、生きていかなきゃいけない。
それが一番しんどい。
ドラマみたいに、失恋した瞬間に世界が終わればいいのに。
現実は無情にも続いていく。
明日の朝も、7時のアラームは鳴るんだ。
(つづく)
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