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第2章:技術とプライド(職人の敗北)
#5:彼が選んだのは、私じゃないチョコレート Ep.02
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待ち合わせのカフェ。
高塔は少し遅れてやってきた。
「悪ぃ、待った?」
「ううん、今来たとこ」
定型文の挨拶。
別れても、このリズムは変わらないのが腹立たしい。
私はテーブルの上に、紙袋に入れた時計と、例のチョコを置いた。
「これ、時計。あと、これバレンタイン。余ったからあげる」
「余った」という嘘。
本当は彼のためだけに作った一点物なのに。
「おー、サンキュ。さすが、相変わらず綺麗な包装だな」
彼は箱を手に取り、まじまじと見る。
そして、苦笑いした。
「開けるの緊張するわ。指紋つけちゃいけない気がして」
嫌味か。
でも構わない。食べてさえくれれば。
「でさ、俺も貰ったんだよね。今の彼女から」
高塔がカバンから取り出したのは、安っぽいタッパーだった。
100均によくある、青い蓋のやつ。
中には、不揃いなクッキーが詰め込まれている。
焼き色はムラがあるし、形も歪だ。
正直、売り物には程遠い。
「見てくれよこれ。焦げてるやつとかあんだぜ?」
高塔は嬉そうに笑う。
「昨日さ、LINEで『オーブンから目が離せなくて焦げちゃった』って泣きついてきてさ。可愛いだろ?」
は?
失敗を「可愛い」で片付けるの?
プロの現場なら始末書もんだよ。
「で、味見してみたんだけど、なんかホッとする味なんだよな」
彼はタッパーを開けて、一つ摘んだ。
ボロボロと粉が落ちる。
「ほら、お前も食う?」
差し出されたクッキー。
私は拒否したかったけど、敵情視察のために受け取った。
一口齧る。
……硬い。
混ぜすぎだ。グルテンが出てる。
バターの乳化も甘い。
砂糖が溶けきってないジャリッとした食感。
点数をつけるなら、100点満点中、15点。
衛生面も心配になるレベルだ。
「……独特の食感だね」
「だろ? なんか一生懸命さが伝わってくるっつーか」
高塔は愛おしそうにクッキーを眺めている。
私の完璧なショコラの箱は、テーブルの端に追いやられている。
彼はまだ、それを開けようともしない。
目の前の「失敗作」に夢中で。
私の心の中に、どす黒いモヤが広がり始めた。
技術の敗北?
いや、これは味覚の敗北だ。
彼の舌は腐っているに違いない。そう思うことでしか、プライドを保てなかった。
(つづく)
高塔は少し遅れてやってきた。
「悪ぃ、待った?」
「ううん、今来たとこ」
定型文の挨拶。
別れても、このリズムは変わらないのが腹立たしい。
私はテーブルの上に、紙袋に入れた時計と、例のチョコを置いた。
「これ、時計。あと、これバレンタイン。余ったからあげる」
「余った」という嘘。
本当は彼のためだけに作った一点物なのに。
「おー、サンキュ。さすが、相変わらず綺麗な包装だな」
彼は箱を手に取り、まじまじと見る。
そして、苦笑いした。
「開けるの緊張するわ。指紋つけちゃいけない気がして」
嫌味か。
でも構わない。食べてさえくれれば。
「でさ、俺も貰ったんだよね。今の彼女から」
高塔がカバンから取り出したのは、安っぽいタッパーだった。
100均によくある、青い蓋のやつ。
中には、不揃いなクッキーが詰め込まれている。
焼き色はムラがあるし、形も歪だ。
正直、売り物には程遠い。
「見てくれよこれ。焦げてるやつとかあんだぜ?」
高塔は嬉そうに笑う。
「昨日さ、LINEで『オーブンから目が離せなくて焦げちゃった』って泣きついてきてさ。可愛いだろ?」
は?
失敗を「可愛い」で片付けるの?
プロの現場なら始末書もんだよ。
「で、味見してみたんだけど、なんかホッとする味なんだよな」
彼はタッパーを開けて、一つ摘んだ。
ボロボロと粉が落ちる。
「ほら、お前も食う?」
差し出されたクッキー。
私は拒否したかったけど、敵情視察のために受け取った。
一口齧る。
……硬い。
混ぜすぎだ。グルテンが出てる。
バターの乳化も甘い。
砂糖が溶けきってないジャリッとした食感。
点数をつけるなら、100点満点中、15点。
衛生面も心配になるレベルだ。
「……独特の食感だね」
「だろ? なんか一生懸命さが伝わってくるっつーか」
高塔は愛おしそうにクッキーを眺めている。
私の完璧なショコラの箱は、テーブルの端に追いやられている。
彼はまだ、それを開けようともしない。
目の前の「失敗作」に夢中で。
私の心の中に、どす黒いモヤが広がり始めた。
技術の敗北?
いや、これは味覚の敗北だ。
彼の舌は腐っているに違いない。そう思うことでしか、プライドを保てなかった。
(つづく)
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