【短編集】バレンタイン・ノワール ~ハッピーエンドは売り切れました~

月下花音

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第3章:青春の残酷さ(スクールカーストと幼馴染)

#7:彼の本命チョコ、私が預かってます Ep.03

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 教室のドアを開ける。
 健太がいた。
 カバンを持って、しょんぼりした顔で帰ろうとしているところだった。
 やっぱり、収穫ゼロで落ち込んでる。
 分かりやすい奴。

「おい、健太!」
 わざと明るい声を出す。
 声が裏返らないように気をつける。
「ん? なんだよ」
「これ、廊下に落ちてたぞ! お前宛てじゃん!」

 ピンク色の袋を投げるように渡す。
 健太がそれを受け取る。
 タグを見る。
 目が、今まで見たことないくらい見開かれた。
 漫画みたいだ。

「え、マジ!? エリカちゃんから!?」
「踊り場に落ちてた。大事にしなよ。踏まれるとこだったんだから」
「うっわ、マジか! 俺、死ぬほど嬉しいんだけど!!」

 健太の顔。
 パァァァッと効果音がつきそうな、満面の笑み。
 私には一度も見せたことのない、男の顔。
「幼馴染」に向ける顔じゃなくて、「オス」の顔だ。

「お前マジでサンキュ! 天才! 恩人! 一生ついてく!」
 健太が私に抱きつこうとして、やめる。
 チョコを壊さないように、大事そうに胸に抱えた。
 その仕草が、私を傷つける。
 そのチョコになりたいと思った。
 あの箱の中に閉じ込められて、彼にその手で開けられたいと思った。

「俺、今からお礼言ってくる! 部活休むわ!」
 健太が走り出す。
 サッカーバカが部活をサボるなんて、よっぽどだ。
 その背中を見ながら、私は引きつった笑顔で手を振った。
「行ってらー。頑張れよー」

 彼がいなくなった教室。
 静かだ。
 夕日が目にしみる。
 私は自分のカバンのポケットに手を入れる。
 私のチョコ。
 いま渡せばよかった?
「これも落ちてたよ」って?
 無理だ。
 あんな一級品を見たあとで、こんな駄菓子出せるわけない。
 比較されて「あ、サンキュ(苦笑)」って言われるのがオチだ。

「……バカみたい」
 私は小さく呟いた。
 いいことをしたはずなのに、胸の中は泥で埋まったみたいに重くて暗い。
 私は今日、失恋するためにわざわざ残業したようなもんだ。

(つづく)
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