【短編集】バレンタイン・ノワール ~ハッピーエンドは売り切れました~

月下花音

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第3章:青春の残酷さ(スクールカーストと幼馴染)

#8:クラスで一番不器用なチョコレート Ep.05

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 放課後。
 私は美波を呼び止めた。
 いや、呼び止めようとした。
「美波、ちょっといい?」

 言いかけたその時、陸が来た。
「美波、帰ろうぜ」
 当たり前のように。
 付き合っているカップルの距離感で。

 美波が私を見る。
「あ……ごめん、私、陸と帰るね」
 申し訳なさそうな表情。
 でも、その奥に隠しきれない優越感が見えるのは、私の被害妄想だろうか。

「え、二人は……」
 聞かなくても分かった。
 昨日、私がチョコを渡したあと、あるいはその前から。
 二人は繋がっていたんだ。
 私が美波に相談していた時も、レシピを送ってくれていた時も、彼女はずっと陸と……。

「俺ら、付き合うことになったから」
 陸があっけらかんと言う。
「美波のアップルパイに胃袋掴まれちまったわ。やっぱ料理上手い女って最強だよな」
 幸せそうな笑顔。
 残酷な笑顔。

 私の不格好なチョコの味なんて、もう記憶の片隅にもないだろう。
「不器用ながらに頑張った」という加点は、「最初から完璧で美味い」という実力の前ではチリ同然だったのだ。

「……そっか! おめでとう!」
 私は笑った。
 顔が引きつっていたと思うけど、精一杯笑った。
「お似合いだよ! 美波、料理上手だしね! 私なんて足元にも及ばないよ!」

「ありがとう」
 美波が微笑む。
「またお菓子教えてあげるね」
 余計なお世話だ。
 二度と作るか、バカヤロウ。

 二人が並んで帰っていく。
 夕日が二人を照らして、長い影を落とす。
 私は一人、教室に取り残された。

 カバンの中には、昨日陸がくれた「倍返しな」という言葉を信じて持ってきた、お返しのキットカットが入っている。
 渡せるわけがない。
 私はそれを開けて、口に放り込んだ。
 甘い。
 私の作った隕石より、ずっと洗練された、工場生産の安定した甘さだ。
 でも、涙の味が混じって、今まで食べたどんな激辛料理よりも苦かった。

 私の恋は、レシピ通りにはいかなかった。
 不器用な私は、恋の材料も、火加減も、そして相手の好みも、全部間違えていたのだ。
 教室のゴミ箱に、キットカットの包装紙を投げ捨てた。
 入らなかった。
 最後までコントロールが悪い私を、誰も笑ってはくれなかった。

(おわり)
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