【短編集】バレンタイン・ノワール ~ハッピーエンドは売り切れました~

月下花音

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第3章:青春の残酷さ(スクールカーストと幼馴染)

#9:友達のままでいたかった Ep.01

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「今年のバレンタイン、どうする?」
 放課後のファミレス。
 ドリンクバーのメロンソーダを混ぜながら、私は目の前の幼馴染・翔に聞いた。
「んー? チョコ? お前がくれんじゃねーの?」
 翔はスマホゲーをしながら適当に答える。
「は? なんで私が。義理チョコ廃止論者なんですけど」
「冷てーな。俺たち腐れ縁だろ」

 腐れ縁。
 便利な言葉だ。
 家が隣で、幼稚園から高校までずっと一緒。
 親同士も仲が良い。
 周りからは「付き合ってんの?」と聞かれること数百回。
 そのたびに「ないない」「姉弟みたいなもん」と否定し続けてきた。

 でも、本当は違う。
 私は翔が好きだ。
 いつからか分からないけど、気づいた時にはもう、彼を目で追っていた。
 でも、この「居心地のいい関係」を壊すのが怖くて、ずっと「仲の良い女友達」の座に居座っている。

「てかさ、最近A組の美咲ちゃんがお前のこと聞いてきたぞ」
 私が爆弾を投下する。
「は? マジ? あの可愛い子?」
 翔がスマホから顔を上げる。
 分かりやすく食いついた。

「うん。『翔くんって彼女いるの?』って」
「で、お前なんて答えた?」
「『いないよ、募集してるみたいだよ』って言っといた」

 嘘だ。
 本当は「今はフリーだけど、結構理想高いよ」って牽制した。
 でも、翔には言えない。
 私は彼の恋を応援する「理解ある親友」の仮面を被っているから。

「マジか~、美咲ちゃんか~。ありだな~」
 翔がニヤニヤする。
 その顔を見て、胸がズキっと痛む。
 自傷行為だ。
 自分で爆弾を投げて、自分で傷ついている。

「よかったじゃん。チョコもらえるかもよ」
「お前もくれよ。保険として」
「高いよ、私の保険料は」

 笑い合う。
 この距離感が好きだ。
 でも、この距離感は、彼に彼女ができたら一瞬で崩壊する脆いものだと知っている。
 ぬるま湯に浸かりすぎて、出られなくなった私は、茹でガエルになるのを待つしかないのだろうか。
 メロンソーダの炭酸が抜けて、ただの甘い緑色の水になっていた。
 今の私たちの関係みたいだ。

(つづく)
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