【短編集】バレンタイン・ノワール ~ハッピーエンドは売り切れました~

月下花音

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第4章:特殊設定と変化球(スパイスを投入)

#11:バレンタインまでの恋人契約 Ep.05

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 2月14日。
 私は普通に登校し、普通に図書室に行った。
 瞬とはもう、登校も一緒じゃない。
 廊下ですれ違ったとき、彼は友達と話していて、私に気づかなかった。
 ……いや、気づいていたけど、スルーしたのかもしれない。
「元カノ」ですらない、「元・偽装彼女」なんて、話しかける理由がないから。

 放課後。
 私は図書室のカウンターで貸出作業をしていた。
 誰も来ないバレンタインの図書室。
 静寂。
 本の匂い。
 これが私の日常。
 ここ2週間のキラキラした日々が、全部夢だったみたいだ。

「……よぉ」
 不意に声がした。
 顔を上げると、瞬が立っていた。
 手には、返却用の図鑑を抱えている。

「あ、約束守ったんだ」
「当たり前だろ。俺は義理堅いんだよ」
 彼は図鑑をドサッとカウンターに置いた。
 そして、ポケットから何かを出した。
 コンビニの袋。

「これ。契約満了のボーナス」
 中には、ブラックサンダーが入っていた。
 30円のやつ。
「……安っ」
「うるせー。金欠なんだよ」

 彼はそっぽを向いて、ボソッと言った。
「あと、あのチョコ……まだあるなら、もらうけど」

 え?
「……必要ないんじゃなかったの?」
「ストーカー除けには必要ないけど、俺が食いたいから」
 彼は耳を赤くしている。
 演技?
 いや、これは演技じゃない気がする。

 私はカバンの奥から、潰れないように持ってきた箱を取り出した。
 まだ捨てられなくて、持ってきた私の未練。
「……ビターだよ。甘くないよ」
「望むところだ」

 彼は箱を受け取ると、その場で開けて一粒食べた。
「ん、うめぇ」
 いつものニカッとした笑顔。
 でも、どこか照れくさそうな、初々しい笑顔。

「サンキュ。……ま、これからもよろしく」
「よろしくって、何を?」
「図書委員の仕事、手伝ってやるよ。たまには」

 彼は詳しく説明せずに、図書室を出て行った。
 残された私と、ブラックサンダー。
 これは、「続編決定」と捉えていいんだろうか。
 それとも、単なる「友情出演」の延長?

 分からない。
 でも、ブラックサンダーのパッケージを開けると、安っぽいけど確かなチョコの香りがした。
 一口かじる。
 ザクザクした食感が、私の日常に響いた。
 甘い。
 私の作ったビターチョコより、ずっと甘くて、希望の味がした。

(おわり)
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