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第4章:特殊設定と変化球(スパイスを投入)
#12:二月十五日の私たちは Ep.01
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2月14日の夜。
奇跡が起きた、と思った。
私のスマホが、信じられない文字列を表示していたからだ。
『いいよ、付き合ってみる?』
送信者は、会社の同期・涼介。
画面が滲んで見えた。
3回瞬きして、もう一度見る。
やっぱり書いてある。
「嘘……マジで?」
一人部屋で叫んだ。
ベッドの上でジタバタした。
フローリングに落ちたクッションを拾うのも忘れて、私は天井に向かってガッツポーズをした。
私、26歳。
事務職。
中の中、あるいは中の下くらいの容姿。
最近、周りの結婚ラッシュがすごくて、SNSを開くたびに「ご報告」テロに遭っている。
焦りしかない。
このまま一生独身かも、孤独死かも、という不安が、深夜2時くらいになると襲ってくるお年頃。
そんな私に、春が来た。
涼介は、営業部のホープだ。
顔がいい。塩顔イケメンってやつだ。
性格はちょっと軽いし、女癖の噂も聞くけど、それを補って余りあるスペック。
いわゆる「優良物件」だ。
そんな彼に、ダメ元でLINEで告白したのだ。
どうせ「ごめん、好きな人いる」とか「今は仕事が恋人」とか言われると思ってた。
でも、彼は私を受け入れてくれた。
私が、選ばれたんだ。
これで私も「彼氏持ち」のタグをつけられる。
婚活地獄から抜け出せる。
『ありがとう! 大事にするね』
『こちらこそ』
短いやりとり。
でも、ふと冷静になると、違和感が首をもたげた。
「付き合ってみる?」
この言葉のニュアンス。
「付き合おう」じゃない。
「お願いします」でもない。
「試してみるか」という、試供品を手に取るような軽さ。
上から目線。
そして、その直後。
彼がTwitter(X)で呟いているのを通知で見た。
『暇ー。誰か飲めない?』
え?
さっき私と付き合うことになったんだよね?
彼女できた直後に「暇」って何?
私とLINEしてる時間は「暇」なの?
それとも、この呟きは私へのフェイク?
いや、考えすぎだ。
彼は照れ隠しでやってるのかもしれない。
あるいは、男友達を誘ってるのかもしれない。
付き合い始めた瞬間の高揚感が、少しずつ冷めていく。
沸騰したお湯に氷を放り込んだみたいに、急速に温度が下がっていく。
彼は本当に私のことが好きなんだろうか?
それとも、バレンタインに告白されて、とっさに断るのが面倒でOKしただけ?
あるいは、ただの「在庫処分」として、彼女いない歴を埋めるための数合わせとして採用されただけ?
鏡を見る。
そこには、さっきまでの歓喜の表情じゃなく、不安に眉を寄せた地味な女が映っていた。
自信がない。
涼介が私を選ぶ理由が、「好きだから」以外に見つからない。
でも「好きだから」という確信も持てない。
「……まあ、いいか」
私は強引にポジティブな蓋をした。
付き合ってしまえばこっちのものだ。
既成事実だ。
これから好きにさせればいい。
胃袋を掴むなり、外堀を埋めるなり、やり方はいくらでもある。
私は「彼氏持ち」になったんだ。
その事実だけで、明日の会社に行く足取りは軽くなるはずだ。
マキやサナに自慢してやるんだ。
でも、この時の私は知らなかった。
彼の中での「彼女」の定義が、私の思っているものとは大きくズレていることを。
それが、セール品の「訳あり」タグみたいに、剥がそうとしても剥がれない粘着力で私を苦しめることになるなんて。
(つづく)
奇跡が起きた、と思った。
私のスマホが、信じられない文字列を表示していたからだ。
『いいよ、付き合ってみる?』
送信者は、会社の同期・涼介。
画面が滲んで見えた。
3回瞬きして、もう一度見る。
やっぱり書いてある。
「嘘……マジで?」
一人部屋で叫んだ。
ベッドの上でジタバタした。
フローリングに落ちたクッションを拾うのも忘れて、私は天井に向かってガッツポーズをした。
私、26歳。
事務職。
中の中、あるいは中の下くらいの容姿。
最近、周りの結婚ラッシュがすごくて、SNSを開くたびに「ご報告」テロに遭っている。
焦りしかない。
このまま一生独身かも、孤独死かも、という不安が、深夜2時くらいになると襲ってくるお年頃。
そんな私に、春が来た。
涼介は、営業部のホープだ。
顔がいい。塩顔イケメンってやつだ。
性格はちょっと軽いし、女癖の噂も聞くけど、それを補って余りあるスペック。
いわゆる「優良物件」だ。
そんな彼に、ダメ元でLINEで告白したのだ。
どうせ「ごめん、好きな人いる」とか「今は仕事が恋人」とか言われると思ってた。
でも、彼は私を受け入れてくれた。
私が、選ばれたんだ。
これで私も「彼氏持ち」のタグをつけられる。
婚活地獄から抜け出せる。
『ありがとう! 大事にするね』
『こちらこそ』
短いやりとり。
でも、ふと冷静になると、違和感が首をもたげた。
「付き合ってみる?」
この言葉のニュアンス。
「付き合おう」じゃない。
「お願いします」でもない。
「試してみるか」という、試供品を手に取るような軽さ。
上から目線。
そして、その直後。
彼がTwitter(X)で呟いているのを通知で見た。
『暇ー。誰か飲めない?』
え?
さっき私と付き合うことになったんだよね?
彼女できた直後に「暇」って何?
私とLINEしてる時間は「暇」なの?
それとも、この呟きは私へのフェイク?
いや、考えすぎだ。
彼は照れ隠しでやってるのかもしれない。
あるいは、男友達を誘ってるのかもしれない。
付き合い始めた瞬間の高揚感が、少しずつ冷めていく。
沸騰したお湯に氷を放り込んだみたいに、急速に温度が下がっていく。
彼は本当に私のことが好きなんだろうか?
それとも、バレンタインに告白されて、とっさに断るのが面倒でOKしただけ?
あるいは、ただの「在庫処分」として、彼女いない歴を埋めるための数合わせとして採用されただけ?
鏡を見る。
そこには、さっきまでの歓喜の表情じゃなく、不安に眉を寄せた地味な女が映っていた。
自信がない。
涼介が私を選ぶ理由が、「好きだから」以外に見つからない。
でも「好きだから」という確信も持てない。
「……まあ、いいか」
私は強引にポジティブな蓋をした。
付き合ってしまえばこっちのものだ。
既成事実だ。
これから好きにさせればいい。
胃袋を掴むなり、外堀を埋めるなり、やり方はいくらでもある。
私は「彼氏持ち」になったんだ。
その事実だけで、明日の会社に行く足取りは軽くなるはずだ。
マキやサナに自慢してやるんだ。
でも、この時の私は知らなかった。
彼の中での「彼女」の定義が、私の思っているものとは大きくズレていることを。
それが、セール品の「訳あり」タグみたいに、剥がそうとしても剥がれない粘着力で私を苦しめることになるなんて。
(つづく)
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