舞台の上で僕らは恋をした。演技と真実が交錯する甘々青春ラブストーリー♡

月下花音

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第4話 "好きだよ"が演技に聞こえない。

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昨夜のLINEが、朝の夢にまで染み込んでいた。こころの『夢で手繋いでね♡』というメッセージで目覚めると、枕が湿っていた。でも、これって演技の延長なのか、それとも——。

電車の中でスマホを見返しながら、俺は自分の感情に戸惑う。中学の時、好きだった子に告白して「気持ち悪い」って言われた記憶が、胸を締めつける。あの時から、本音を言うのが怖くなった。傷つくのが、怖い。でも演技なら違う。傷つかない。拒絶されても、「役だから」って言い訳できる。演技は、安全地帯だ。

部室に着くと、こころが後輩と台本を確認していた。髪を下ろした横顔、えくぼの深さ。視線が絡むと、心臓が爆音を立てる。

「おはよう、優也くん♡ 昨夜の視線固定、夢で続きやったよ。絡めた視線、ドキドキ止まらなくて……」

部員の前で♡付きで囁く彼女。俺の耳が熱くなる中、後輩が「部長、優也くん狙いすぎ!」ってツッコむ。

「お、おはよう、こころ部長。夢? 俺もです……視線固定で、目が覚めました」

俺は慌てて返事をしながら、心の中で自問する。これは演技の練習なのか? それとも、彼女も俺と同じように——。

「演技の練習、ですよね? 部員に聞こえちゃいますよ」

安全装置としてのツッコミ。でも、こころのくすくす笑いが、その安全装置を揺らがせる。彼女の瞳が、俺だけを捉えて、柔らかく輝く。

 

放課後、空き教室。夕陽が壁に赤く染まり、二人きりの空間が生まれる。こころがドアを閉める音が、なぜか心臓に響く。カチッ、という小さな音が、静寂を切り裂く。

彼女が俺の前に座る。距離二十センチ。制服の袖が触れそうで、香りが濃く漂う。かすかな花の匂いが、夕陽の温もりと混じり、胸を甘く締めつける。

「優也くん、今日はシーン6。"好きだよ"の告白よ。感情を溢れさせて。昨夜のLINEみたいに、本気で」

本気で? 俺は喉を鳴らして立ち上がる。こころの瞳が黒く熱い。夕陽が唇を照らし、ピンク色に湿り気を帯びている。柔らかく、誘うように光る。

「こころ……好きだよ。お前のすべてが、俺の恋だ」

セリフが出た。声が震え、目が離せない。演技のはずなのに、本音が聞こえる。こころの頰が赤くなり、息が乱れる。唇が、わずかに開く。そこから漏れる息が、温かく俺の肌を撫でる。

「いい……溢れてるわ。もっと近づいて。告白なら、こんな距離で囁くの」

近づく。一歩で距離十センチ。息が混じり、温かく甘い。こころの指が俺の袖を掴む。震えが伝わってくる。細い指の感触が、布越しに熱を運ぶ。

 

「優也くん……"好きだよ"が、演技に聞こえない。心、揺れてる……」

聞こえない? 俺の胸が締め付けられる。視線を固定し、瞳の深海を覗く。睫毛が震え、唇が近づく。三センチ。理性が溶ける。彼女の息が、俺の唇に触れそうで、甘い痺れが走る。

「こ、これ……セリフなのに、俺の本気みたいで怖いです。こころの目、嘘をつかないんですか?」

ツッコミに本気が混じる。でも、これは重要な質問だった。演技の中で、何が本物なのか? 境界線が、曖昧に揺らぐ。

こころの指が袖から手へ移る。絡め、強く握る。掌の汗が混ざり、熱い雫のように滑る。互いの脈が、重なり合う。

「嘘、つかないわ。優也くん、あなたの"好きだよ"、リアルすぎて……私の心、溢れそう。続き、囁いて」

続き。俺は息を吐き、耳元に近づく。彼女の髪が頰をくすぐり、香りが肺に満ちる。

「……好きだよ、こころ。君のえくぼ、毎朝の夢。演技じゃなく、俺の恋だ」

本音全開。こころの体がびくっと震える。息が唇に触れそう。一センチ。唇が震え、瞳が潤む。感情が爆発寸前。夕陽が、彼女の頰を溶かすように赤く染める。

 

突然、こころが後ろに下がる。頰が火照り、台本で顔を隠す。息が荒い。肩が、細かく上下する。

「ストップ! 完璧……すぎるわ。優也くん、"好きだよ"が演技に聞こえないの、私もよ」

彼女の声に微かな震えがある。完璧な生徒会長、完璧な演劇部長。でも今、その完璧な仮面に亀裂が入っている。指先が台本を握りしめ、白くなる。

「文化祭まで、この熱、持つ?」

持つ? 俺は座り、息を整える。胸が疼き、感情が溢れる。こころは窓辺に立ち、夕陽に溶けている。シルエットが儚い。背中が、わずかに震える。

「でも、優也くん。学校のこの告白と、LINEの夜の溢れ。どっちが本気の恋? 内緒だけど、私……両方、怖いかも♡」

怖い? 俺は立ち上がり、近づく。四十センチ。熱が残っている。彼女の香りが、残り香のように漂う。

「わかりません、こころ。どっちも、溢れすぎて止まらないです。昨夜の視線、夢で続き告白しちゃいましたよ……練習のフリで」

ツッコミに本気を込める。こころが振り返り、えくぼが深くなる。瞳に涙が光る。夕陽が、それを宝石のように輝かせる。

「ふふ、夢告白? 今夜、LINEで聞かせて。帰ったら、"好きだよ"のバリエ練習よ♡」

 

帰宅後、ベッドに転がってLINEを開く。こころから、即座にメッセージが来ていた。

『優也くん、お疲れ様! 今日の告白、ドキドキ溢れすぎ♡ "好きだよ"が演技じゃなく聞こえて、心揺れたよ。昨夜続きから、セリフ練習! 『君のえくぼに、落ちたよ。毎朝の夢、好きだよ』 次、優也くん!』

♡爆発。俺は枕を抱き、タイプする。指が震える。

『お疲れ様、こころ。俺も揺れました。『落ちたよ、こころのえくぼに。好きだよ、君のすべてが俺の恋』』

送信。本音。既読がつき、返事が速い。タイプ中の点が、俺の胸を焦らす。

『わ、溢れすぎ♡ 優也くん、大胆! リアルで胸熱いよ。ねえ、もっと。『視線で告白、息止まる瞬間。好きだよ、永遠に』 どう? 文化祭予行♡』

視線告白? 体が熱くなる。俺はセリフを即興で、詩的に打つ。画面に映る文字が、俺の想いを映す。

『止まるよ、こころの視線で。好きだよ、君の瞳が俺の永遠。溢れる想い、受け止めて』

本音全開。こころの返事、タイプ中……。時間が、甘く伸びる。

『……きゃ、詩的すぎ♡ リアルで涙出そう。優也くん、こんな"好きだよ"、誰想って? 内緒で、教えて♡ 私、想像止まらない』

想像? 喉が乾く。画面越しに、こころの潤んだ瞳を想像する。優しい、熱い視線。

『……秘密です。こころの演技、想像して。文化祭で、溢れさせてください。告白、視線で』

誤魔化し。返事が遅く、既読がつく。心臓が、鳴り止まない。

『ふふ、内緒♡ じゃあ、おやすみ前に特別。『優也くん、ありがとう。この"好きだよ"、私の心溢れそう。毎晩、君の告白聞きたい』 おやすみ、夢で好きだよ♡』

おやすみ。スマホを胸に沈める。こころの言葉が響く。学校の告白、LINEの溢れ。セリフが演技じゃなく聞こえる。

でも、考えてみれば、俺たちは毎日演技をしている。学校では「普通の高校生」を演じ、家では「良い息子」を演じ、友達の前では「面白い奴」を演じる。だとしたら、演技の中で見せる本音も、また一つの真実なのかもしれない。

この甘い夜、恋のクライマックスが近づいている。

 

翌朝、学校。部室でこころと視線が絡む。えくぼが深く、秘密を共有している。俺の感情が溢れ始めている。

文化祭まで、この二重の溢れが続く。演技の殻は完全に割れた。でも、それでいいのかもしれない。

本当の自分を見つけるために、まず演じることから始めるのも、一つの道なのだから。

 

昨夜のLINEが、夢にまで入り込んだ。優也くんの『好きだよ』が、耳元で響く。演技のはずなのに、心が揺れる。完璧でいなければならないのに、この脆さは何?

私はいつも、計算通りでいる。生徒会長として、部長として。でも今、優也くんの視線が、私の仮面を剥がす。怖い。溢れるこの熱が、コントロールを失うのが。

でも……この怖さ、嫌じゃない。むしろ、甘い。文化祭で、何が起こるのか。演技の向こう側で、本物の告白を、想像してしまう。

明日の練習が、待ち遠しい。優也くん、私の心も、溢れそうよ。
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