No.1レンタル彼女の「中の人」は、廃課金で金欠の喪女でした

月下花音

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第11話:引退勧告と強制終了のカウントダウン

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 その通告は、唐突で、事務的で、絶対的なものだった。
 事務所からの呼び出し。
 無機質な会議室で、マネージャー(鉄仮面のような女)が冷たく言い放った。

「セナさん。あなた、お客様と個人的に連絡を取っていますね?」

 心臓が止まるかと思った。
 『Eternal Lovers』の鉄の掟。キャストと客の個人的な接触(直営業)は厳禁。発覚すれば即解雇。かつ高額な違約金。

「……まさか。私がそんなリスク冒すわけないじゃないですか」
 私はポーカーフェイスで否定する。
 時給一万円の演技力を見よ。

「そうですか。……では、この写真は?」
 マネージャーが一枚の写真をテーブルに滑らせた。
 そこには、大学のキャンパスで、ジャージ姿の私と、チェックシャツの智也が並んで歩いている姿が写っていた。
 昨日のことだ。学食でたまたま会って話していた時の。

 ……終わった。
 言い逃れできない。
 誰だよ、盗撮したやつ。いや、事務所のリサーチ力か。甘く見てた。

「あの人は……大学の同級生です。偶然会っただけです」
 苦しい言い訳。
 でも、認めるわけにはいかない。

「そうですか。まあ、真偽はどうあれ」
 マネージャーは冷ややかに言った。
「疑わしい行動は控えてください。あなたはこの事務所のNo.1商品なんですから。……次はありませんよ?」

 脅しだ。
 次はクビだぞ、という最後通告。
 
 アパートに帰って、私は膝から崩れ落ちた。
 クビになったら、生きていけない。
 借金は残ってる。来年の学費も払えない。
 この仕事より割のいいバイトなんて、そうそうない。
 私は「セナ」をやり続けなきゃいけないんだ。

 そのためには……智也との関係を清算するしかない。
 「共犯関係」なんて、甘い夢を見ていた報いだ。
 リスク管理が甘かった。私がバカだった。

 スマホを取り出す。
 智也のLINEを開く。
 
 『今度、バイト代入ったら美味いラーメン屋行こうよ!』
 無邪気なメッセージ。
 胸がえぐられるように痛い。

 私は震える指で、文字を打った。

 『智也くん。大事な話があるの』

 ✎ܚ

 翌日の放課後。
 いつもの公園。
 私は「セナ」として、彼に会った。
 完璧なメイク。完璧な笑顔。
 でも、心は氷のように冷え切っている。

「セナちゃん! どうしたの? 急に」
 智也が嬉しそうに駆け寄ってくる。
 その笑顔を見るのが、こんなに辛いなんて。

「……智也くん」
 私は一歩下がって、距離を置いた。
「もう、会えない」

「え?」
 智也の顔が凍りつく。
「事務所にバレかけたの。……これ以上会ってると、私、クビになっちゃう」

「そ、そうなんだ……じゃあ、気をつけるよ! 外で会う時は変装するとか、時間をずらすとか……」
 智也が必死に食い下がる。
 違う。そうじゃない。

「違うの」
 私は首を振った。
「もう、終わりにしたいの。……こういう関係」

「え……?」
「私、この仕事で生きていくって決めたの。No.1維持しなきゃいけないし、もっと太客捕まえて稼がなきゃいけない。……智也くんじゃ、私の生活は支えきれないよ」

 嘘だ。
 いや、半分は本当だ。
 彼は頑張ってくれているけど、私の借金地獄を救えるほどの経済力はない。
 現実は残酷だ。愛じゃ腹は膨れない。

「だから……もう私に関わらないで。大学でも話しかけないで」
 私は彼を見ずに言った。
 見たら、泣いてしまうから。
 突き放せ。
 嫌われろ。
 それが、彼のためでもあり、私のためでもある。

「……そっか」
 長い沈黙の後、智也が呟いた。
 怒らなかった。
 ただ、悲しそうに笑った。

「ごめんね。僕が力不足で。……月島さんの足かせになりたくないから」

 ……やめてよ。
 そんな顔しないでよ。
 私が悪いのに。私が金に汚い女だから、こうなったのに。

「……さよなら」
 私は背を向けた。
 走り出した。
 涙が溢れて、視界が歪む。
 セナの仮面が剥がれ落ちていく。
 でも、振り返らない。
 これは「損切り」だ。必要なコストカットだ。
 そう言い聞かせないと、心が砕け散りそうだった。

(つづく)
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