11 / 15
第11話:引退勧告と強制終了のカウントダウン
しおりを挟む
その通告は、唐突で、事務的で、絶対的なものだった。
事務所からの呼び出し。
無機質な会議室で、マネージャー(鉄仮面のような女)が冷たく言い放った。
「セナさん。あなた、お客様と個人的に連絡を取っていますね?」
心臓が止まるかと思った。
『Eternal Lovers』の鉄の掟。キャストと客の個人的な接触(直営業)は厳禁。発覚すれば即解雇。かつ高額な違約金。
「……まさか。私がそんなリスク冒すわけないじゃないですか」
私はポーカーフェイスで否定する。
時給一万円の演技力を見よ。
「そうですか。……では、この写真は?」
マネージャーが一枚の写真をテーブルに滑らせた。
そこには、大学のキャンパスで、ジャージ姿の私と、チェックシャツの智也が並んで歩いている姿が写っていた。
昨日のことだ。学食でたまたま会って話していた時の。
……終わった。
言い逃れできない。
誰だよ、盗撮したやつ。いや、事務所のリサーチ力か。甘く見てた。
「あの人は……大学の同級生です。偶然会っただけです」
苦しい言い訳。
でも、認めるわけにはいかない。
「そうですか。まあ、真偽はどうあれ」
マネージャーは冷ややかに言った。
「疑わしい行動は控えてください。あなたはこの事務所のNo.1商品なんですから。……次はありませんよ?」
脅しだ。
次はクビだぞ、という最後通告。
アパートに帰って、私は膝から崩れ落ちた。
クビになったら、生きていけない。
借金は残ってる。来年の学費も払えない。
この仕事より割のいいバイトなんて、そうそうない。
私は「セナ」をやり続けなきゃいけないんだ。
そのためには……智也との関係を清算するしかない。
「共犯関係」なんて、甘い夢を見ていた報いだ。
リスク管理が甘かった。私がバカだった。
スマホを取り出す。
智也のLINEを開く。
『今度、バイト代入ったら美味いラーメン屋行こうよ!』
無邪気なメッセージ。
胸がえぐられるように痛い。
私は震える指で、文字を打った。
『智也くん。大事な話があるの』
✎ܚ
翌日の放課後。
いつもの公園。
私は「セナ」として、彼に会った。
完璧なメイク。完璧な笑顔。
でも、心は氷のように冷え切っている。
「セナちゃん! どうしたの? 急に」
智也が嬉しそうに駆け寄ってくる。
その笑顔を見るのが、こんなに辛いなんて。
「……智也くん」
私は一歩下がって、距離を置いた。
「もう、会えない」
「え?」
智也の顔が凍りつく。
「事務所にバレかけたの。……これ以上会ってると、私、クビになっちゃう」
「そ、そうなんだ……じゃあ、気をつけるよ! 外で会う時は変装するとか、時間をずらすとか……」
智也が必死に食い下がる。
違う。そうじゃない。
「違うの」
私は首を振った。
「もう、終わりにしたいの。……こういう関係」
「え……?」
「私、この仕事で生きていくって決めたの。No.1維持しなきゃいけないし、もっと太客捕まえて稼がなきゃいけない。……智也くんじゃ、私の生活は支えきれないよ」
嘘だ。
いや、半分は本当だ。
彼は頑張ってくれているけど、私の借金地獄を救えるほどの経済力はない。
現実は残酷だ。愛じゃ腹は膨れない。
「だから……もう私に関わらないで。大学でも話しかけないで」
私は彼を見ずに言った。
見たら、泣いてしまうから。
突き放せ。
嫌われろ。
それが、彼のためでもあり、私のためでもある。
「……そっか」
長い沈黙の後、智也が呟いた。
怒らなかった。
ただ、悲しそうに笑った。
「ごめんね。僕が力不足で。……月島さんの足かせになりたくないから」
……やめてよ。
そんな顔しないでよ。
私が悪いのに。私が金に汚い女だから、こうなったのに。
「……さよなら」
私は背を向けた。
走り出した。
涙が溢れて、視界が歪む。
セナの仮面が剥がれ落ちていく。
でも、振り返らない。
これは「損切り」だ。必要なコストカットだ。
そう言い聞かせないと、心が砕け散りそうだった。
(つづく)
事務所からの呼び出し。
無機質な会議室で、マネージャー(鉄仮面のような女)が冷たく言い放った。
「セナさん。あなた、お客様と個人的に連絡を取っていますね?」
心臓が止まるかと思った。
『Eternal Lovers』の鉄の掟。キャストと客の個人的な接触(直営業)は厳禁。発覚すれば即解雇。かつ高額な違約金。
「……まさか。私がそんなリスク冒すわけないじゃないですか」
私はポーカーフェイスで否定する。
時給一万円の演技力を見よ。
「そうですか。……では、この写真は?」
マネージャーが一枚の写真をテーブルに滑らせた。
そこには、大学のキャンパスで、ジャージ姿の私と、チェックシャツの智也が並んで歩いている姿が写っていた。
昨日のことだ。学食でたまたま会って話していた時の。
……終わった。
言い逃れできない。
誰だよ、盗撮したやつ。いや、事務所のリサーチ力か。甘く見てた。
「あの人は……大学の同級生です。偶然会っただけです」
苦しい言い訳。
でも、認めるわけにはいかない。
「そうですか。まあ、真偽はどうあれ」
マネージャーは冷ややかに言った。
「疑わしい行動は控えてください。あなたはこの事務所のNo.1商品なんですから。……次はありませんよ?」
脅しだ。
次はクビだぞ、という最後通告。
アパートに帰って、私は膝から崩れ落ちた。
クビになったら、生きていけない。
借金は残ってる。来年の学費も払えない。
この仕事より割のいいバイトなんて、そうそうない。
私は「セナ」をやり続けなきゃいけないんだ。
そのためには……智也との関係を清算するしかない。
「共犯関係」なんて、甘い夢を見ていた報いだ。
リスク管理が甘かった。私がバカだった。
スマホを取り出す。
智也のLINEを開く。
『今度、バイト代入ったら美味いラーメン屋行こうよ!』
無邪気なメッセージ。
胸がえぐられるように痛い。
私は震える指で、文字を打った。
『智也くん。大事な話があるの』
✎ܚ
翌日の放課後。
いつもの公園。
私は「セナ」として、彼に会った。
完璧なメイク。完璧な笑顔。
でも、心は氷のように冷え切っている。
「セナちゃん! どうしたの? 急に」
智也が嬉しそうに駆け寄ってくる。
その笑顔を見るのが、こんなに辛いなんて。
「……智也くん」
私は一歩下がって、距離を置いた。
「もう、会えない」
「え?」
智也の顔が凍りつく。
「事務所にバレかけたの。……これ以上会ってると、私、クビになっちゃう」
「そ、そうなんだ……じゃあ、気をつけるよ! 外で会う時は変装するとか、時間をずらすとか……」
智也が必死に食い下がる。
違う。そうじゃない。
「違うの」
私は首を振った。
「もう、終わりにしたいの。……こういう関係」
「え……?」
「私、この仕事で生きていくって決めたの。No.1維持しなきゃいけないし、もっと太客捕まえて稼がなきゃいけない。……智也くんじゃ、私の生活は支えきれないよ」
嘘だ。
いや、半分は本当だ。
彼は頑張ってくれているけど、私の借金地獄を救えるほどの経済力はない。
現実は残酷だ。愛じゃ腹は膨れない。
「だから……もう私に関わらないで。大学でも話しかけないで」
私は彼を見ずに言った。
見たら、泣いてしまうから。
突き放せ。
嫌われろ。
それが、彼のためでもあり、私のためでもある。
「……そっか」
長い沈黙の後、智也が呟いた。
怒らなかった。
ただ、悲しそうに笑った。
「ごめんね。僕が力不足で。……月島さんの足かせになりたくないから」
……やめてよ。
そんな顔しないでよ。
私が悪いのに。私が金に汚い女だから、こうなったのに。
「……さよなら」
私は背を向けた。
走り出した。
涙が溢れて、視界が歪む。
セナの仮面が剥がれ落ちていく。
でも、振り返らない。
これは「損切り」だ。必要なコストカットだ。
そう言い聞かせないと、心が砕け散りそうだった。
(つづく)
0
あなたにおすすめの小説
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
【短編】27歳OLの義理チョコ配布業務。3000円の投資で職場の平和を買い、能面のような笑顔で「感情の死」を遂行する一日
月下花音
恋愛
27歳、中堅社員。
バレンタインは「愛の告白」の日じゃない。
「円滑な人間関係」を維持するための、ただの集金と配布の業務日だ。
男性社員への義理チョコ選び、お局様への配慮、ホワイトデーのお返しへの過度な期待禁止。
完璧な「気が利く後輩」の仮面を被り、能面のような笑顔でチョコを配る私。
その仮面が剥がれ落ちそうになるのは、元カレ(社内)のデスクに近づいた時だけ。
これは、都会のオフィスで毎年繰り返される、甘くないチョコレート戦争の記録。
俺をフッた女子に拉致されて、逃げ場のない同棲生活が始まりました
ちくわ食べます
恋愛
大学のサークル飲み会。
意を決して想いを告げた相手は、学内でも有名な人気女子・一ノ瀬さくら。
しかし返ってきたのは――
「今はちょっと……」という、曖昧な言葉だった。
完全にフラれたと思い込んで落ち込む俺。
その3日後――なぜか自分のアパートに入れなくなっていた。
年下男子に追いかけられて極甘求婚されています
あさの紅茶
恋愛
◆結婚破棄され憂さ晴らしのために京都一人旅へ出かけた大野なぎさ(25)
「どいつもこいつもイチャイチャしやがって!ムカつくわー!お前ら全員幸せになりやがれ!」
◆年下幼なじみで今は京都の大学にいる富田潤(20)
「京都案内しようか?今どこ?」
再会した幼なじみである潤は実は子どもの頃からなぎさのことが好きで、このチャンスを逃すまいと猛アプローチをかける。
「俺はもう子供じゃない。俺についてきて、なぎ」
「そんなこと言って、後悔しても知らないよ?」
距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる
歩く魚
恋愛
かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。
だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。
それは気にしてない。俺は深入りする気はない。
人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。
だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。
――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。
貞操逆転世界で出会い系アプリをしたら
普通
恋愛
男性は弱く、女性は強い。この世界ではそれが当たり前。性被害を受けるのは男。そんな世界に生を受けた葉山優は普通に生きてきたが、ある日前世の記憶取り戻す。そこで前世ではこんな風に男女比の偏りもなく、普通に男女が一緒に生活できたことを思い出し、もう一度女性と関わってみようと決意する。
そこで会うのにまだ抵抗がある、優は出会い系アプリを見つける。まずはここでメッセージのやり取りだけでも女性としてから会うことしようと試みるのだった。
迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる
九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。
※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる