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第15話:プライスレスな幸福
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数ヶ月後。
季節は冬になっていた。
私の四畳半のアパート。
こたつ(リサイクルショップで千円)を出して、二人で入っている。
目の前には、湯気を立てるカップ麺。
私はシーフード、智也はカレー味。
これが私たちのクリスマスイブのディナーだ。
「……美味っ」
「うん、寒い日に食うと格別だね」
ズルズルと麺をすする音だけが響く。
色気もへったくれもない。
でも、不思議と満たされている。
「ねえ、雫ちゃん」
智也が箸を止める。
「今月の生活費、大丈夫?」
「ギリギリ。てかアウト。ガス代払ったら残金三十二円」
「うわぁ……僕もバイト増やすよ。年末年始の手当出るし」
「頼むわ。私も年賀状の仕分けバイト入れたから」
極貧生活。
オシャレなデートなんて夢のまた夢。
でも、今の私は、あの頃より顔色がいいらしい。(鏡見てないけど、智也がそう言うから多分そうなんだろう)。
ふと、テレビのニュースが流れる。
『元俳優・神崎レン、復帰会見』
……あ。
画面には、坊主頭で謝罪する推しの姿。
かつてのキラキラしたオーラは消え失せ、ただの疲れたおっさんに見えた。
「……ふーん」
私は一口スープを飲んだ。
心が凪いでいる。
怒りも悲しみもない。
「ああ、こんな人いたな」くらいの他人事感。
「見なくていいの?」
智也が気遣うように聞く。
「いいよ。……今の推しは、あんただし」
ボソッと言う。
「えっ!?」
智也がむせる。カレー汁がこたつ布団に飛ぶ。
「おい、汚すな! クリーニング代取るぞ!」
「ご、ごめん! ……でも、今なんて?」
「一度しか言わないから。……聞き逃したなら延長料金払って」
私はそっぽを向いて、麺をすすった。
顔が熱い。
こたつのせいだ。絶対そうだ。
智也がニヘラと笑う。
幸せそうな、バカ丸出しの顔。
この顔を見るために、私はこれから一生、貧乏と戦っていくのかもしれない。
まあ、悪くない投資だ。
リターン(彼の笑顔と、これからの未来)を考えれば、十分元は取れる。
「……ごちそうさま」
「お粗末様でした」
空っぽのカップを重ねる。
窓の外では雪が降り始めていた。
寒い夜だけど、この部屋だけは温かい。
金じゃ買えない、プライスレスな暖かさが、ここにはあった。
私の「レンタル彼女」としての人生は終わった。
でも、月島雫としての、本当のラブコメは、まだ始まったばかりだ。
さて、明日はスーパーの特売日。
二人で卵を買いに行こう。
(おわり)
季節は冬になっていた。
私の四畳半のアパート。
こたつ(リサイクルショップで千円)を出して、二人で入っている。
目の前には、湯気を立てるカップ麺。
私はシーフード、智也はカレー味。
これが私たちのクリスマスイブのディナーだ。
「……美味っ」
「うん、寒い日に食うと格別だね」
ズルズルと麺をすする音だけが響く。
色気もへったくれもない。
でも、不思議と満たされている。
「ねえ、雫ちゃん」
智也が箸を止める。
「今月の生活費、大丈夫?」
「ギリギリ。てかアウト。ガス代払ったら残金三十二円」
「うわぁ……僕もバイト増やすよ。年末年始の手当出るし」
「頼むわ。私も年賀状の仕分けバイト入れたから」
極貧生活。
オシャレなデートなんて夢のまた夢。
でも、今の私は、あの頃より顔色がいいらしい。(鏡見てないけど、智也がそう言うから多分そうなんだろう)。
ふと、テレビのニュースが流れる。
『元俳優・神崎レン、復帰会見』
……あ。
画面には、坊主頭で謝罪する推しの姿。
かつてのキラキラしたオーラは消え失せ、ただの疲れたおっさんに見えた。
「……ふーん」
私は一口スープを飲んだ。
心が凪いでいる。
怒りも悲しみもない。
「ああ、こんな人いたな」くらいの他人事感。
「見なくていいの?」
智也が気遣うように聞く。
「いいよ。……今の推しは、あんただし」
ボソッと言う。
「えっ!?」
智也がむせる。カレー汁がこたつ布団に飛ぶ。
「おい、汚すな! クリーニング代取るぞ!」
「ご、ごめん! ……でも、今なんて?」
「一度しか言わないから。……聞き逃したなら延長料金払って」
私はそっぽを向いて、麺をすすった。
顔が熱い。
こたつのせいだ。絶対そうだ。
智也がニヘラと笑う。
幸せそうな、バカ丸出しの顔。
この顔を見るために、私はこれから一生、貧乏と戦っていくのかもしれない。
まあ、悪くない投資だ。
リターン(彼の笑顔と、これからの未来)を考えれば、十分元は取れる。
「……ごちそうさま」
「お粗末様でした」
空っぽのカップを重ねる。
窓の外では雪が降り始めていた。
寒い夜だけど、この部屋だけは温かい。
金じゃ買えない、プライスレスな暖かさが、ここにはあった。
私の「レンタル彼女」としての人生は終わった。
でも、月島雫としての、本当のラブコメは、まだ始まったばかりだ。
さて、明日はスーパーの特売日。
二人で卵を買いに行こう。
(おわり)
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