渋谷カフェの人生哲学、お好き? ~一杯で変わる日常の味~

月下花音

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第43話「心と心をつなぐ、新しい挑戦ってこんな感じです」

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 一人でできることには限界がある。

 でも二人なら、三人なら、もっと大きな奇跡を起こせるかもしれない。

 今日、渋谷の交差点で生まれた新しい友情が初めての試練を迎えようとしていた。

 ☕☕☕

 翌週の午後、あかりは少し緊張しながらコーヒーを淹れていた。

 今日は美咲との初めての共同作業の日。お互いの店舗を行き来しながら困っているお客様を一緒に助けることになっていた。

「大丈夫かな...」

 あかりが独り言を呟くと僕が励ました。

「姉ちゃんなら大丈夫ですよ」

「でもアロマのことは全然分からないし...」

「姉ちゃんにはもっと大切なものがあるじゃないですか」

 僕がネタ帳を見せた。そこにはこれまでの姉の哲学がびっしりと書かれていた。

「人の心を理解する力」

 あかりの表情が明るくなった。

 ☕☕☕

 渋谷クロスカフェ発、姉弟のゆるっとログ。第43話。

「あかりさん!」

 美咲が嬉しそうに手を振りながら店に入ってきた。

「美咲さんお疲れ様です」

「今日はよろしくお願いします」

 二人は握手を交わした。

「それでどんなお客様が?」

 あかりが尋ねた。

「実は昨日から悩んでいる方がいらして...」

 美咲が説明を始めた。

「20代の女性なんですが『最近、何をしても楽しくない』って相談されたんです」

「何をしても楽しくない...」

 あかりが考え込んだ。

「アロマでアプローチしてみたんですがなかなか...」

 美咲が困った表情を見せた。

「どんな香りを試されたんですか?」

「気分を上げるベルガモット、リラックスのラベンダー、元気の出るペパーミント...」

「でも効果は?」

「一時的には良くなるんですが根本的な解決にはならなくて」

 あかりがうなずいた。

「きっと香りの問題じゃないのかもしれませんね」

「そう思うんです。だからあかりさんの力を借りたくて」

 その時、店のドアが開いて一人の女性が入ってきた。

「あその方です」

 美咲が小声で言った。

 女性は確かに元気がなさそうで重い足取りでカウンターに座った。

「いらっしゃいませ」

 あかりが優しく迎えた。

「あの...昨日の美咲さんは?」

 女性が周りを見回した。

「こちらにいますよ。今日は私の同僚のあかりさんも一緒です」

 美咲が紹介した。

「よろしくお願いします」

 あかりが挨拶すると女性は少し戸惑った様子だった。

「あの...私、別に大した悩みじゃないんです」

「そんなことありませんよ」

 あかりが優しく言った。

「どんな小さなことでもその人にとっては大切なことですから」

 女性の表情が少し和らいだ。

「まずはお飲み物はいかがですか?」

 あかりが尋ねた。

「えーっと...何がいいか分からなくて」

「普段はどんな飲み物がお好きですか?」

「コーヒーは苦手で...甘いものが好きです」

 あかりが考えた。

「それではホットチョコレートはいかがでしょう?」

「ホットチョコレート?」

「はい。心が温まりますよ」

 あかりが丁寧にホットチョコレートを作り始めた。

 美咲はその様子を興味深く見ていた。

「あの...」

 女性が話し始めた。

「最近、本当に何をしても楽しくなくて」

「どのくらい前からですか?」

 あかりが優しく尋ねた。

「2ヶ月くらい前から...」

「何か変化がありましたか?その頃に」

 女性が考え込んだ。

「そういえば...転職したんです」

「転職?」

「はい。前の会社は小さかったんですが今度は大きな会社で...」

 あかりと僕は顔を見合わせた。

「新しい環境はどうですか?」

「みんな優秀で私なんかが居ていいのかって...」

 女性の声が小さくなった。

「毎日、周りに迷惑をかけてないか心配で」

 あかりが完成したホットチョコレートを差し出した。

「まずはこれを飲んでみてください」

 女性が一口飲むと表情が少し明るくなった。

「美味しい...」

「良かった」

 あかりが微笑んだ。

「あの...質問があるんですが」

「はい」

「転職前はどんなお仕事をされていたんですか?」

「小さなデザイン会社でグラフィックデザインを」

「楽しかったですか?」

 女性の目が輝いた。

「はい!毎日新しいことを学べて先輩たちも優しくて」

「それなのになぜ転職を?」

「給料が...生活が苦しくて」

 あかりがうなずいた。

「そうだったんですね」

 美咲が口を挟んだ。

「でも今のお仕事はいかがですか?」

「安定はしてるんですが...なんだか自分らしくないというか」

 女性が正直に話した。

「毎日同じことの繰り返しで創造性を発揮する機会もなくて」

 あかりが優しく言った。

「きっと心が『本当の自分』を求めているんですね」

「本当の自分?」

「はい。安定も大切ですが自分らしさも同じくらい大切です」

 美咲が感心して聞いている。

「でも生活もあるし...」

 女性が悩んでいる。

「今すぐ辞める必要はありませんよ」

 あかりが提案した。

「まずは小さなことから始めてみませんか?」

「小さなこと?」

「休日に好きなデザインをしてみるとか」

 あかりが続けた。

「SNSに投稿してみるとか友人の結婚式の招待状を作ってあげるとか」

 女性の表情が明るくなってきた。

「それなら...できるかも」

「きっと少しずつ自分らしさを取り戻せますよ」

 美咲が付け加えた。

「そしてもし機会があればまた好きな仕事に戻ることもできるかもしれません」

「そうですね...」

 女性が希望を込めて言った。

「ありがとうございます。なんだか道筋が見えてきました」

 あかりと美咲は微笑み合った。

 女性が帰った後、美咲が感動して言った。

「すごいですあかりさん」

「そんなことないですよ」

「いえ本当に。私はアロマで気分を変えようとしていましたがあかりさんは根本的な原因を見つけて」

 あかりが照れながら答えた。

「美咲さんのアロマがあったからリラックスして話せたんだと思います」

 僕がネタ帳に書き込んだ。

『二人の力が合わさった時、本当の解決が生まれる』

「今度は私の店舗でもお手伝いしてもらえませんか?」

 美咲が提案した。

「もちろんです」

 あかりが答えた。

「一緒ならもっと多くの人を助けられそうですね」

 窓の外では渋谷の交差点を多くの人が行き交っている。

 その中にはきっと悩みを抱えた人もいるだろう。

 でも今日から二人は一緒だ。

 心と心をつなぐ新しい挑戦が始まった。

 コーヒーとアロマ。

 直感と科学。

 二つの力が合わさる時、本当の奇跡が生まれる。

(第43話完 次話へ続く)

 次回予告:
 智也との再会ってぎこちない始まりなんです。

 #渋谷クロスカフェ #協力の力 #根本的解決 #自分らしさ #チームワーク #心をつなぐ
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