渋谷カフェの人生哲学、お好き? ~一杯で変わる日常の味~

月下花音

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第44話「智也との再会って、ぎこちない始まりなんです」

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 初対面の人と話すのはいつだって緊張する。

 特に大切な人から「紹介したい人がいる」と言われた時は。

 今日、渋谷の交差点で分かれていた物語が恐る恐る近づこうとしていた。

 ☕☕☕

「緊張するなぁ...」

 あかりは少し手が震えながらコーヒーを淹れていた。

 美咲から「大切な人を紹介したい」と連絡があったのは昨日のこと。

「智也さんってどんな人なんだろう」

 僕も落ち着かない様子でネタ帳をいじっている。

「変な人だったらどうしよう」

 あかりの不安がコーヒーの香りに混じって漂っていた。

 ☕☕☕

 渋谷クロスカフェ発、姉弟のゆるっとログ。第44話。

「あかりさんこんにちは」

 美咲が少し緊張した様子で店に入ってきた。その後ろに明らかに居心地悪そうな男性が続いた。

「こちらが智也さんです」

「あ、初めまして...田中智也です」

 智也がぎこちなく頭を下げた。

「黒木あかりです。こちらは弟のハルです」

「よろしく...お願いします」

 四人がカウンターに座ると微妙な沈黙が流れた。

「えーっと...」

 あかりが何か話そうとして言葉に詰まった。

「智也さんはSEをされているんですよね?」

「はい...まあそうです」

 智也も緊張している。

「僕もパソコンよく分からないんです」

 僕が正直に言った。

「あそうなんですか...」

 また沈黙。

 美咲が慌てて口を挟んだ。

「智也さん最近アロマのことを勉強してるんです」

「そうなんですか?」

 あかりが少し興味を示した。

「まあ...美咲さんに教えてもらってるだけですけど」

 智也が照れながら答えた。

「僕、香りのことは全然分からなくて」

「私もアロマは詳しくないです」

 あかりが正直に言った。

「でもコーヒーの香りは好きです」

「あ、僕もコーヒー好きです」

 智也が少し明るくなった。

「普段はどんなコーヒーを?」

「コンビニの缶コーヒーばっかりです」

 智也が苦笑いした。

「あー分かります」

 僕が共感した。

「僕もコンビニ派です」

 あかりが少しムッとした。

「せっかくここにいるのに...」

「あすみません」

 智也が慌てた。

「今度ちゃんとしたコーヒーを飲んでみたいです」

 その時、店のドアが勢いよく開いて制服姿の女子高生が飛び込んできた。

 目が真っ赤で明らかに泣いた後だった。

「あの...」

 女子高生が震え声で言った。

「ちょっと座らせてもらえませんか?」

「もちろんです」

 あかりが慌てて迎えた。

 女子高生はカウンターの端に座るとうつむいてしまった。

 四人は顔を見合わせた。

「大丈夫?」

 あかりが優しく声をかけた。

「はい...すみませんお店なのに」

 女子高生が小さく答えた。

「全然大丈夫よ。何か飲む?」

「お金あんまり持ってなくて...」

「気にしないで。何が好き?」

 あかりが優しく尋ねた。

「甘いもの...好きです」

「じゃあホットチョコレート作るね」

 あかりがカウンターの向こうに回った。

 智也が小声で美咲に尋ねた。

「何かあったんでしょうか?」

「分からないけど...泣いてたみたいですね」

 美咲も心配そうだった。

 僕がそっと女子高生に話しかけた。

「学校帰り?」

「はい...」

 女子高生がちらっと顔を上げた。

「僕も昔、学校帰りによくカフェに寄ってました」

 僕が優しく言った。

「嫌なことがあった時とか」

 女子高生の目に涙が浮かんだ。

「今日...告白したんです」

 四人が静かに耳を傾けた。

「でもフラれちゃって」

 あかりがホットチョコレートを差し出した。

「辛かったね」

「はい...すごく恥ずかしくて」

 女子高生が涙をぬぐった。

「友達にも言えなくて一人で帰ってたら...」

 智也が口を開いた。

「僕も昔、フラれたことあります」

「え?」

 女子高生が顔を上げた。

「高校の時。すごく好きな子がいて勇気を出して告白したんですが...」

 智也が苦笑いした。

「『友達でいましょう』って言われました」

「そうなんですか...」

「その時は世界が終わったような気がしました」

 智也が正直に話した。

「でも今思うと告白できただけでも良かったなって」

「告白できただけでも?」

 女子高生が不思議そうに尋ねた。

「はい。勇気を出せたってことですから」

 美咲が付け加えた。

「私も告白されたことがあるんですが断ったことがあります」

「どうしてですか?」

「その時は恋愛より勉強に集中したかったから」

 美咲が優しく説明した。

「でもその人のこと嫌いじゃなかったんです」

「そうなんですか...」

 あかりが座り直した。

「フラれるのは辛いけどそれで終わりじゃないのよ」

「終わりじゃない?」

「うん。今日勇気を出せたあなたは昨日のあなたより強くなってる」

 あかりの言葉に女子高生の表情が少し明るくなった。

「そうかな...」

「絶対そうよ。だって好きな人に気持ちを伝えるってすごく勇気がいることでしょ?」

 僕がネタ帳を見ながら言った。

「姉ちゃんがよく言うんです。『失敗は次の成功への練習』って」

 女子高生がホットチョコレートを一口飲んだ。

「美味しい...」

「良かった」

 あかりが微笑んだ。

「ありがとうございますみなさん」

 女子高生が立ち上がった。

「なんだか少し元気が出ました」

「本当?」

「はい。今日は恥ずかしかったけど勇気を出せた日でもあったんですね」

 智也が嬉しそうに言った。

「そうです。きっといいことありますよ」

 女子高生が帰った後、四人は顔を見合わせた。

「なんかいいことしたね」

 僕が言った。

「うん。みんなで話したからいろんな視点で励ませた」

 あかりが振り返った。

「智也さんの体験談すごく良かったです」

「そんなことないです。でも役に立てて良かった」

 智也が照れながら答えた。

 美咲が嬉しそうに言った。

「四人でいると一人では思いつかないことが言えますね」

「そうですね」

 あかりが同感した。

「今度また一緒にお話ししませんか?」

「はいぜひ」

 智也が素直に答えた。

「次はちゃんとしたコーヒーを飲ませてもらいます」

「楽しみにしてます」

 あかりが笑った。

 窓の外では渋谷の交差点を多くの人が行き交っている。

 最初はぎこちなかった四人も一つの出来事を通して少しずつ距離が縮まっていく。

 完璧じゃないけれどそれがリアルでそれが人間らしい。

 小さな一歩だけれど確実な一歩だった。

 僕はネタ帳に書き留めた。

『ぎこちない始まりも悪くない』
『四人の力が一つになった瞬間』

 渋谷クロスカフェの物語は今、新しい仲間を迎えて広がっていく。

(第44話完 次話へ続く)

 次回予告:
 その完璧主義って豆を焦がしちゃうかもです。

 #渋谷クロスカフェ #初対面の緊張 #失恋の痛み #勇気への気づき #四人の絆 #新しい仲間
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