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第12話
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あれから数ヶ月。
季節は巡り、キャンパスには秋の風が吹き始めていた。
僕たちの生活は、劇的に変化した。
いや、正確には「劇的に甘く、そして騒がしくなった」。
「……ねえ、優也」
大学のカフェテリア。
昼時の喧騒の中、隣に座る一ノ瀬こころが、頬杖をついて僕を見てる。
今日の彼女は、ボルドー色のニットにチェックのスカート。秋らしい装いが、知的な美貌をさらに引き立ててる。周囲の男子学生たちがチラチラ見てるのがわかるが、彼女の視線は僕に固定されてる。
(今日のパスタ、ちょっと味薄いな。塩入れ忘れたんじゃないか?)
僕が心の中で呟くと、即座に反応があった。
「そう? 私はちょうどいいけど。……あ、塩取ってあげようか?」
彼女がテーブルの端にある塩瓶に手を伸ばす。
「あ、ありがとう」
これだ。
完全なる意思疎通。
「以心伝心」なんてレベルじゃない。「常時接続(オールウェイズ・オン)」のブロードバンド回線だ。
あの告白の日以来、僕たちの「呪い」は進化した。
お互いの心の声が、クリアに聞こえるようになったのだ。
ただし、以前のように「強制的に」じゃなく、ある程度「チャンネル」を合わせないと聞こえない仕様になったらしい。
プライバシーへの配慮が実装されたアップデート。神運営(あの老婆か?)に感謝したい。
でも、問題が一つある。
一ノ瀬さんは基本、僕へのチャンネルを開きっぱなしなのだ。
(優也、口元にミートソースついてる。……子供みたい。取ってあげたいけど、みんな見てるしな。……でも、舐めたいかも)
ブフォッ!
僕は飲んでいた水を吹き出しそうになった。
「……一ノ瀬さん、ダダ漏れです」
「ッ!?」
彼女がビクッと震え、顔を真っ赤にして口元を押さえる。
「き、聞こえてたの!?」
「はい。ドルビーサラウンドで。『舐めたい』のところが特に高音質でした」
「うう……恥ずかしい……!」
テーブルに突っ伏す彼女。
耳まで真っ赤だ。
可愛い。
可愛すぎる。
この「クールビューティ」の皮を被った「むっつり甘えん坊」を、どうしてくれようか。
(あー、この可愛い生き物を一生守りたい)
(結婚しよう。卒業したら即結婚しよう。式場は軽井沢の教会がいいかな。いや、ハワイも捨てがたい)
(新居は3LDK。僕の書斎と、こころの衣装部屋を作って……子供は二人くらいほしいな。女の子ならこころに似て美人になるだろうな。男の子なら……僕に似て妄想癖がついたらどうしよう)
僕の脳内で、壮大な「人生設計図(ライフプラン)」が展開される。
すると、突っ伏していた彼女が、ボソリと呟いた。
「……書斎はいらない」
「え?」
「……書斎にこもって出てこなくなりそうだから、却下。リビングで仕事して」
顔を上げて、上目遣いで僕を見る。
その瞳は潤んでいて、抗議の色と、隠しきれない期待の色が混ざっている。
「……気が早すぎ。まだ学生でしょ」
「あ、すみません。つい妄想が暴走して」
「……でも」
彼女が視線を逸らす。
「……悪くないかも。ハワイ」
ドキン。
心臓が跳ねる。
「……私も、同じこと考えてたから」
二人の視線が絡み合う。
言葉はいらない。
心の声もいらない。
ただ、そこに愛があることだけが、確かな真実として存在してた。
周囲の学生たちの話し声が遠のき、世界には僕たち二人しかいないような錯覚に陥る。
∞ ―――――――――― ∞
放課後。
僕たちはいつもの古書堂「夢現」に立ち寄った。
秋の日は短く、外はもう茜色に染まっている。
店主の老婆は、相変わらずカウンターの奥で船を漕いでる。
この店だけ、時間が止まってるようだ。
「おばあさん、ありがとうございました」
心の中で礼を言う。
この場所がなければ、この栞がなければ、僕たちは出会えなかった。
いや、出会ってはいても、こんなに深く繋がることはできなかっただろう。
店を出て、並木道を歩く。
枯れ葉がカサカサと音を立てて舞ってる。
少し肌寒い風が吹くけれど、繋いだ手は温かい。
(ねえ、優也)
脳内に、彼女の声が響く。
(ん? 何、こころ)
(……大好き)
不意打ち。
心臓に悪い。でも、最高に心地いい。
(知ってる。僕もだよ。……世界中の本を集めても書ききれないくらい、好きだ)
(ふふっ、またキザなこと言って)
彼女が僕の肩に頭を預ける。
シャンプーの香りと、秋の匂いが混ざり合う。
僕たちの物語は、まだ始まったばかり。
ページをめくるたびに、新しい「好き」が見つかる。
時には喧嘩もするだろう。
チャンネルが合わなくて、すれ違うこともあるかもしれない。
でも、僕たちにはこの「絆」がある。
そんな甘くて騒がしい日々を、これからも二人で綴っていこう。
君の妄想も、僕の妄想も、全部ひっくるめて。
愛してるよ。
(第12話・シーズン1 完)
第12話完 次話へ続く
次回、新章開幕! 季節は巡り、二人は進級。そこに現れたのは、「テレパシー疑惑」を持つ鋭い後輩女子!? 秘密の共有生活に最大のピンチが訪れる!
季節は巡り、キャンパスには秋の風が吹き始めていた。
僕たちの生活は、劇的に変化した。
いや、正確には「劇的に甘く、そして騒がしくなった」。
「……ねえ、優也」
大学のカフェテリア。
昼時の喧騒の中、隣に座る一ノ瀬こころが、頬杖をついて僕を見てる。
今日の彼女は、ボルドー色のニットにチェックのスカート。秋らしい装いが、知的な美貌をさらに引き立ててる。周囲の男子学生たちがチラチラ見てるのがわかるが、彼女の視線は僕に固定されてる。
(今日のパスタ、ちょっと味薄いな。塩入れ忘れたんじゃないか?)
僕が心の中で呟くと、即座に反応があった。
「そう? 私はちょうどいいけど。……あ、塩取ってあげようか?」
彼女がテーブルの端にある塩瓶に手を伸ばす。
「あ、ありがとう」
これだ。
完全なる意思疎通。
「以心伝心」なんてレベルじゃない。「常時接続(オールウェイズ・オン)」のブロードバンド回線だ。
あの告白の日以来、僕たちの「呪い」は進化した。
お互いの心の声が、クリアに聞こえるようになったのだ。
ただし、以前のように「強制的に」じゃなく、ある程度「チャンネル」を合わせないと聞こえない仕様になったらしい。
プライバシーへの配慮が実装されたアップデート。神運営(あの老婆か?)に感謝したい。
でも、問題が一つある。
一ノ瀬さんは基本、僕へのチャンネルを開きっぱなしなのだ。
(優也、口元にミートソースついてる。……子供みたい。取ってあげたいけど、みんな見てるしな。……でも、舐めたいかも)
ブフォッ!
僕は飲んでいた水を吹き出しそうになった。
「……一ノ瀬さん、ダダ漏れです」
「ッ!?」
彼女がビクッと震え、顔を真っ赤にして口元を押さえる。
「き、聞こえてたの!?」
「はい。ドルビーサラウンドで。『舐めたい』のところが特に高音質でした」
「うう……恥ずかしい……!」
テーブルに突っ伏す彼女。
耳まで真っ赤だ。
可愛い。
可愛すぎる。
この「クールビューティ」の皮を被った「むっつり甘えん坊」を、どうしてくれようか。
(あー、この可愛い生き物を一生守りたい)
(結婚しよう。卒業したら即結婚しよう。式場は軽井沢の教会がいいかな。いや、ハワイも捨てがたい)
(新居は3LDK。僕の書斎と、こころの衣装部屋を作って……子供は二人くらいほしいな。女の子ならこころに似て美人になるだろうな。男の子なら……僕に似て妄想癖がついたらどうしよう)
僕の脳内で、壮大な「人生設計図(ライフプラン)」が展開される。
すると、突っ伏していた彼女が、ボソリと呟いた。
「……書斎はいらない」
「え?」
「……書斎にこもって出てこなくなりそうだから、却下。リビングで仕事して」
顔を上げて、上目遣いで僕を見る。
その瞳は潤んでいて、抗議の色と、隠しきれない期待の色が混ざっている。
「……気が早すぎ。まだ学生でしょ」
「あ、すみません。つい妄想が暴走して」
「……でも」
彼女が視線を逸らす。
「……悪くないかも。ハワイ」
ドキン。
心臓が跳ねる。
「……私も、同じこと考えてたから」
二人の視線が絡み合う。
言葉はいらない。
心の声もいらない。
ただ、そこに愛があることだけが、確かな真実として存在してた。
周囲の学生たちの話し声が遠のき、世界には僕たち二人しかいないような錯覚に陥る。
∞ ―――――――――― ∞
放課後。
僕たちはいつもの古書堂「夢現」に立ち寄った。
秋の日は短く、外はもう茜色に染まっている。
店主の老婆は、相変わらずカウンターの奥で船を漕いでる。
この店だけ、時間が止まってるようだ。
「おばあさん、ありがとうございました」
心の中で礼を言う。
この場所がなければ、この栞がなければ、僕たちは出会えなかった。
いや、出会ってはいても、こんなに深く繋がることはできなかっただろう。
店を出て、並木道を歩く。
枯れ葉がカサカサと音を立てて舞ってる。
少し肌寒い風が吹くけれど、繋いだ手は温かい。
(ねえ、優也)
脳内に、彼女の声が響く。
(ん? 何、こころ)
(……大好き)
不意打ち。
心臓に悪い。でも、最高に心地いい。
(知ってる。僕もだよ。……世界中の本を集めても書ききれないくらい、好きだ)
(ふふっ、またキザなこと言って)
彼女が僕の肩に頭を預ける。
シャンプーの香りと、秋の匂いが混ざり合う。
僕たちの物語は、まだ始まったばかり。
ページをめくるたびに、新しい「好き」が見つかる。
時には喧嘩もするだろう。
チャンネルが合わなくて、すれ違うこともあるかもしれない。
でも、僕たちにはこの「絆」がある。
そんな甘くて騒がしい日々を、これからも二人で綴っていこう。
君の妄想も、僕の妄想も、全部ひっくるめて。
愛してるよ。
(第12話・シーズン1 完)
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