「君の妄想、全部聞こえてるよ?」~古本屋の呪いで、クールな美少女と脳内イチャラブ同期(シンクロ)してしまった件~

月下花音

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第13話

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 季節は秋。
 僕、柏木優也と一ノ瀬こころが「公認カップル」となってから、数ヶ月が経過した。
 大学のキャンパスは紅葉に彩られて、恋人たちの季節を演出してる。
 だが、僕たちの関係は、少し……いや、かなり特殊な方向に進化(あるいは退化)していた。

 講義中。
 大講義室の後ろの方で、僕たちは並んで座ってる。
 教授の声は子守唄のように単調で、周囲の学生の半数は夢の中だ。
 だが、僕は眠れない。
 なぜなら、隣からの「ノイズ」がうるさいからだ。

(あー、優也の横顔。まつ毛長いな)
(このまま首筋に噛みつきたい。吸血鬼みたいに血を吸って、私のものだってマーキングしたい)
(あ、シャツのボタンが一つ開いてる。鎖骨が見えてる。エロい。舐めたい)

 ……聞こえる。
 彼女の心の声が。
 しかも、以前よりも鮮明に、ハイレゾ音質で。

 僕は必死に表情筋を固定し、ノートを取るフリをする。
 だが、心拍数は上がりっぱなしだ。
 隣をチラリと見ると、一ノ瀬こころ――大学きっての「氷の女神」は、涼しい顔で黒板を見つめてる。
 その澄ました顔の下で、こんなド変態なことを考えてるなんて、誰が想像できるだろうか。

(優也の手、大きいな。あの手で頭撫でられたい。……いや、もっと別のところも撫でられたいかも)
(太ももとか。……あ、想像したら熱くなってきた)

 ブフォッ!
 僕は咳き込んだ。
 周囲の視線が集まる。

「……大丈夫? 優也」

 一ノ瀬さんが心配そうに背中をさすってくる。
 その手つきは優しいが、脳内は違う。

(背中さすってるフリして、肩甲骨の形を確かめる。……ん、いい骨格。食べちゃいたい)

「……一ノ瀬さん、心の声が漏れてます」

 小声で囁く。

「えっ」

 彼女の手が止まる。
 クールな美貌はそのままに、耳だけが瞬時に赤く染まる。

「……嘘。また?」

「はい。『食べちゃいたい』と仰ってました。カニバリズムですか?」

「ッ……!」

 彼女は両手で顔を覆って、机に突っ伏した。

「……最悪。穴があったら入りたい」

(でも、本当のことだし。……優也が悪いんだよ。無防備な格好してるから)
(あー、もう。襲いたい。今すぐこの講義室で押し倒して、泣かせてやりたい)

「……あの、一ノ瀬さん?」

「な、何よ」

「反省してませんよね? むしろ興奮してません?」

 そう。
 これが「シーズン2」の開幕。
 以前は僕の妄想が一方的に漏れてたけど、今は「相互通信(デュアル・コネクション)」状態。
 そして判明した衝撃の事実。
 一ノ瀬こころは、実は僕以上の「むっつりスケベ」だったのだ。

     ∞ ―――――――――― ∞

 昼休み。
 中庭のベンチで、僕たちはランチを食べてた。
 平和な時間。
 ……のはずだった。

「先輩方、仲いいですね」

 不意に声をかけられた。
 振り返ると、一人の女子学生が立っていた。
 ショートカットに、大きな瞳。手には一眼レフカメラを持ってる。
 神崎葵(かんざき あおい)。
 僕たちの後輩で、新聞部のエースだ。

「あ、ああ。神崎さん」

 僕は動揺を隠して答える。
 彼女は「学内のスクープハンター」として有名だ。鋭い観察眼と、一度食らいついたら離さない執念深さを持ってる。

「でも、不思議なんですよね」

 葵がカメラのレンズを弄りながら言う。

「先輩たち、ほとんど喋ってないのに、会話が成立してるみたいで」

 ドキリとする。
 一ノ瀬さんがサンドイッチを持つ手を止める。

「……どういう意味?」

 一ノ瀬さんの声が、氷点下まで下がる。
 だが、葵は動じない。

「さっきの講義中もそうでした。一ノ瀬先輩が何も言ってないのに、柏木先輩が突然咳き込んだり、赤くなったり」
「まるで、言葉以外の何かで繋がってるみたい」

 葵がニヤリと笑う。
 その笑顔は可愛いが、目は笑ってない。探偵の目だ。

「まさか、テレパシー……なんてことはないですよね?」

 心臓が止まるかと思った。
 図星すぎる。
 僕と一ノ瀬さんは顔を見合わせる。

(ヤバい。バレてる?)
(落ち着いて優也。ボロを出さないで)

 一ノ瀬さんの冷静な(でも焦ってる)思考が伝わってくる。

「……まさか。SFじゃあるまいし」

 僕は乾いた笑い声を上げた。

「ただの、長年連れ添った夫婦みたいな阿吽(あうん)の呼吸だよ」

「へえ。夫婦、ですか」

 葵は意味深に頷く。

「まあ、そういうことにしておきましょう。……今のところは」

 彼女はカメラを構え、パシャリと僕たちの写真を撮った。

「この件、新聞部の次号のネタにさせてもらいますね。『キャンパスの謎! 無言カップルの真実』……なんて」

 そう言い残して、葵は去っていった。
 嵐のような後輩だ。

「……どうしよう、優也」

 一ノ瀬さんが青ざめた顔で言う。

(あの子、勘が鋭すぎる。……私たちの秘密、暴かれるかも)

(大丈夫だよ。証拠なんてないし)

(でも……もしバレたら、優也が実験動物にされちゃう!)
(解剖とかされたらどうしよう! 優也の綺麗な内臓が見られるのは嬉しいけど、死んじゃうのは嫌!)

「……一ノ瀬さん、心配の方向性がおかしいです」

「うっ……」

     ∞ ―――――――――― ∞

 放課後。
 僕たちは逃げ込むように古書堂「夢現」に来てた。

「おばあさん、大変です! 後輩にバレそうです!」

 僕が訴えると、店主の老婆はニヤニヤと笑う。

「ほほう。試練じゃな」

「試練って……笑い事じゃないですよ!」

「愛が深まれば、障害も増える。それが物語の常じゃ」

 老婆はキセルをふかし、紫煙を吐き出す。

「まあ、気をつけることじゃな。その『繋がり』は、お主らだけの秘密。他人に知られれば、その特別さが失われるかもしれんぞ」

 脅し文句を残して、老婆はまた船を漕ぎ始めた。
 役に立たない。

 店を出て、帰り道を歩く。
 背後に視線を感じる気がして、何度も振り返る。
 誰もいない。
 でも、あの神崎葵の目は、獲物を狙うハンターのそれだった。

(……覚悟しなさい、優也)

 一ノ瀬さんが僕の手を強く握る。

(私たちの秘密は、私が守る。……優也を解剖していいのは、私だけだから)

(だから、その猟奇的な愛し方はやめてください)

 僕たちの平穏な(そして変態的な)日々に、暗雲が立ち込めていた。
 最強の敵(後輩)の出現。
 シーズン2は、波乱の幕開けとなった。

(第13話 完)

第13話完 次話へ続く
次回、神崎葵の追及が加速する! 「証拠を掴んでみせます」と宣言した彼女が仕掛けた罠とは? そして一ノ瀬さんの「独占欲」が暴走し、優也の貞操がピンチに!?
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