「君の妄想、全部聞こえてるよ?」~古本屋の呪いで、クールな美少女と脳内イチャラブ同期(シンクロ)してしまった件~

月下花音

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第14話

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 一ノ瀬こころは、完璧な女性。
 成績優秀、容姿端麗、そしてクールな立ち振る舞い。
 大学内では依然として「氷の女神」として崇められてる。
 だが、その実態を知ってるのは、世界で僕一人だけ。
 ……いや、もう一人、その秘密に近づこうとしてる「天敵」がいた。

「……柏木くん、視線を感じるわ」

 廊下を歩きながら、一ノ瀬さんが小声で囁く。
 その表情は涼しげで、隙がない。周囲の男子学生たちが「今日も一ノ瀬さんは美しいな」と溜息をつくのが見えるが、彼女の神経は別のところに集中している。

「……ええ。背後の柱の陰、4時の方向です」

「チッ。しつこい女ね」

 一ノ瀬さんが舌打ちをする(もちろん、顔は笑顔のままだ)。
 視線の主は、新聞部のエース・神崎葵。
 あの日以来、彼女は僕たちを徹底的にマークしていた。まるでスキャンダルを狙うパパラッチだ。

 でも、僕の脳内には、そんな緊張感とは裏腹な音声が流れてた。

(あー、優也だ。やっと会えた)
(3時間ぶり。長かった。死ぬかと思った)
(今すぐ抱きつきたいけど、あのストーカー女が見てるから我慢。……後でトイレに連れ込んで補充しよう)

 ……補充?
 何を?
 僕成分を?

「……一ノ瀬さん、顔がニヤけてますよ。あと『トイレに連れ込む』は犯罪の匂いがします」

「失礼ね。私は常にポーカーフェイスよ」

 澄ました顔で言う。
 嘘だ。
 脳内の彼女は、尻尾をブンブン振ってる大型犬のよう。
 このギャップに萌えるべきか、身の危険を感じるべきか。

     ∞ ―――――――――― ∞

 図書館にて。
 僕たちは並んで勉強してた。
 静寂な空間。
 カリカリというペンの音だけが響く。
 ……そして、斜め向かいの席には、参考書を広げつつ鋭い視線を送ってくる神崎葵の姿があった。

(うざい。あの子、瞬きしてないんじゃないの?)
(優也とイチャイチャしたいのに。机の下で足絡めたいのに)
(あー、ムラムラする。優也の匂い嗅ぎたい)

 一ノ瀬さんの思考ノイズがうるさい。
 僕は必死に英単語帳に集中しようとするが、「ムラムラする」という単語が聞こえてくるたびに内容が頭から抜けていく。

 ふと、一ノ瀬さんが消しゴムを落とす。
 コト、と乾いた音がした。
 僕が拾おうと手を伸ばす。
 彼女も同時に手を伸ばす。
 指先が触れる。

 その瞬間。

(ッ……!)
(指、触れた。熱い)
(このまま指を絡めたい。机の下で、誰にも見えないように……)
(優也の指、細くて綺麗。……あれで中を弄られたら……)

「ブフォッ!」

 思わず吹き出す。
 図書館中に響く咳払い。
 周囲から白い目で見られる。
 そして、神崎葵がガタッと椅子を鳴らして立ち上がった。

「……先輩?」

 葵が近づいてくる。
 その目は、獲物を追い詰める狩人の目だ。

「今、何も起きてませんでしたよね? ただ指が触れただけですよね?」
「なんで柏木先輩、そんなに動揺してるんですか? まるで『何か』を聞いたみたいに」

 鋭い。
 鋭すぎる。
 僕は冷や汗をダラダラ流しながら言い訳を探す。

「い、いや、静電気! 静電気がすごくて!」

「静電気、ですか」

 葵は疑わしげに僕の手を見る。

「……ふーん。まあ、いいでしょう」

 彼女は席に戻っていったが、警戒レベルはマックスのままだ。

「……静かにしてよ、柏木くん」

 一ノ瀬さんが冷ややかに注意する。
 でも、その耳は真っ赤。

「……一ノ瀬さん、思考がR-18です。公序良俗に反します」

 小声で指摘すると、机の下で僕の足を蹴る。

「う、うるさいわね。……不可抗力よ」

「どこがですか。完全に自発的な妄想じゃないですか」

「違うの。……あんたが、私のスイッチを押すからいけないのよ」

 顔を背けて、ボソリと呟く。

「……あんたの前だと、理性が溶けるの」

(優也のこと考えると、頭の中がトロトロになる)
(もっと触れたい。もっと深くまで繋がりたい)
(……私、こんなに変態だったっけ?)

 自己嫌悪と欲望が入り混じった、カオスな思考。
 でも、それが愛おしいと思ってしまう僕は、もう手遅れなんだろうか。

     ∞ ―――――――――― ∞

 数十分後。
 僕たちは「資料を探す」という名目で、図書館の奥にある閉架書庫へと逃げ込んだ。
 電動書架の隙間。
 薄暗く、誰もいない空間。
 ここなら、葵の目も届かない。

「……はあ。やっと二人きり」

 一ノ瀬さんが深い溜息をつく。
 そして、次の瞬間、僕に抱きついた。

「……補充」

 僕の胸に顔を埋め、深呼吸する。
 スーッ、ハァーッ。
 吸う音がすごい。ダイソン並みの吸引力だ。

「……一ノ瀬さん、苦しいです」

「静かにして。優也成分が枯渇してたの。……死ぬところだった」

(あー、いい匂い。落ち着く)
(このままここに住みたい。優也のシャツの中で暮らしたい)

 彼女の思考が、直接脳内に流れ込んでくる。
 温かくて、甘くて、少し重い愛情。

「……じゃあ、僕も」

 僕も彼女の背中に腕を回す。
 華奢な体。
 でも、そこには確かな体温がある。

「……ん」

 一ノ瀬さんが小さく声を漏らす。
 顔を上げると、潤んだ瞳と目が合った。

「……キス、していい?」

 言葉にする前に、心の声が聞こえていた。
 僕は無言で頷き、顔を近づける。
 唇が触れようとした、その時。

 カツ、カツ、カツ。

 足音が聞こえた。
 規則正しい、探るような足音。
 神崎葵だ。

「……先輩方? こちらのエリアにいますか?」

 声が近づいてくる。
 ヤバい。
 こんな密室で抱き合っているところを見られたら、「テレパシー疑惑」どころか「公然猥褻疑惑」で社会的に死ぬ。

「……逃げるわよ」

 一ノ瀬さんが僕の手を引く。
 僕たちは息を殺し、書架の影を縫うようにして、出口へと向かった。
 まるでスパイ映画の逃走劇。
 ドキドキとハラハラが入り混じる。

 でも、繋いだ手から伝わってくる彼女の鼓動は、恐怖のせいだけじゃなかったはずだ。
 だって、彼女の脳内からは、こんな声が聞こえていたから。

(……吊り橋効果、最高。……もっとドキドキしたい)

 このスリル中毒の彼女を、僕は一生制御できる気がしなかった。

(第14話 完)

第14話完 次話へ続く
次回、神崎葵の罠! 「別々に尋問します」と隔離された二人。心の声が届かない距離で、優也は彼女の鎌かけに耐えられるか!?
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