【完結】執愛の白虎は光を求め賜う~孤独な私を救ったのは、美しく歪んだ愛玩でした~

たるとタタン

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3・白虎との蜜月の終わり

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あの日から、悠人との逢瀬は、もはや常態化していた。

彼の指が肌をなぞり、吐息が耳をくすぐることはあっても、最後の一線は越えずにいた。

それでも、環の心は日々深くかき乱されていく。接吻のたびに感じる唇の熱、流した涙の塩気を彼の舌が舐めとった時の、背徳的な羞恥。

それは拒絶すべき罪でありながら、彼だけが与えてくれる救済でもあった。

愛のない檻の冷たさに慣れきっていた身体が、彼の狂おしいほどの熱を知ってしまった今、もう以前の自分には戻れない。

環は、逢瀬のたびに懇願した。

「私をこれ以上壊さないでください。貴方に触れられてしまうと、穢れさえも愛おしくなって、私は貴方に溺れ、依存してしまう」

しかし悠人は、その悲鳴の様な言葉さえも愛おしそうに受け止める。

「君の絶望は、僕の愛でしか埋められない。僕を拒むのは、君自身への虐待だし、依存などいくらでもすればいい。僕だって、とっくに君なしではいられないのだから」

「それが僕らの愛の形なんだ」

彼はそう断じ、環の抵抗を純粋な貞淑さとして慈しみながら、軽いキスの雨を降らし、さらに熱を込めて唾液の混じり合う口づけと共に支配的な愛を注ぎ込むのだった。

すべてが終わったあと、静寂だけが残った。雨の音も、虫の声も、今は遠い。

悠人の胸に頬を寄せながら、環は自分の呼吸が彼の鼓動と同じ速さで動いていることに気づく。

その温もりの中で、幸福と同じ重さの不安が胸を締めつける。

――もしも、この時間が誰かに知られたら。

そんな考えがかすめた瞬間、悠人が小さく笑った。

「心配しないで。君はもう、僕の一部なんだから」

耳元で囁かれた声が甘く絡みつき、その恐れすら蕩けていく。

ただ、その蜜月はあまりにも突然に断ち切られた。

いつから祖母は気づいていたのだろう。

私の隠しきれない高揚感か、それとも潤んだ瞳の色からか。

呼び出された部屋の空気は凍るように冷たかった。

「悠人様と、お会いしているそうね」

祖母は射抜くような視線で環を問いただした。

環が何も答えられずにいると、祖母は悲痛な決意を滲ませた顔で告げた。

「お前を、遠方の信頼できる一族の元へ嫁がせる。それがお前の、そしてこの家のためになる」

環は凍り付いた。

それは、悠人にもう二度と会えないことを意味するのだから。

「…しかし私のような訳ありの女を娶りたいと仰る殿方がおりますでしょうか」

絞り出した声に、祖母は苦虫を潰した様な顔をしてため息を吐いた。

「…お前よりふた回り上の方で、お前と同じ齢の息子もいるらしい。だが、私も話したが実直で良い方のようで、庶子だろうと気にしないと言ってくれた。それに我が家より家格は劣るが裕福だ。良家から嫁が欲しいとの事だったからお前の事を蔑ろにする様な者もいないだろう。」

これが祖母なりの愛なのは分かっているつもりだ。多分色んなところに声を掛けてくれたのだろう。

この家で私の結婚について真剣に考えてくれるのはこの祖母くらいだから。

「確かに、あの『伯爵の息子』と比べれば容姿も年齢も劣るかもしれん。しかし、あの男が本気でお前を娶る気があるのか? 遊ばれているだけではないのか?……こんな老婆でも、心配しているのだよ」

祖母の厳しい声が、わずかに震える。

環は思い出す。父が戦死し、後を追うように母が過労で倒れて亡くなった時。

環の父との結婚に最後まで反対していたこの祖母が、誰よりも声を殺して泣いていたことを。

『あの時、無理やりにでも二人をこの家に連れて来ていれば。そうすれば、お前の父は無理でも、母だけは奪わずに済んだのに』

そう言って、幼い環の手を固く握りしめた祖母の、後悔と愛情深さを私は知っていた。

「わかりました。その方のもとへ嫁ぎます。」

そんな祖母の悲痛な愛情を前に、私はただうなずく事しか無かった。

しかし心の中は彼を裏切った罪悪感に苛まれるのと同時に、どうしようもなく彼に会いたい。

あの熱い腕の中で、いつものように全てを忘れさせてほしいと、身も世もなく願っていた。
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