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9話 反抗 レナード
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その日の夜、私はリアンの屋敷には戻らなかった。
護衛の男たちには「レナード様のご厚意で、一晩お世話になることにしたから。リアンにはあなたたちから上手く伝えてちょうだい」と言い含め、半ば強引に追い返した。
彼らが血相を変えて主君に報告に戻る姿を想像すると、自然と口元が綻ぶ。
レナードが私のために用意した部屋は、リアンの屋敷のどの部屋よりも豪華で、そして私の好みを的確に反映していた。
深紅と黒を基調とした内装。
天蓋付きの巨大なベッド。
そして、部屋の隅には、様々なデザインのハイヒールがずらりと並んだ、巨大なガラスケースが鎮座している。
「気に入っていただけたかな、リリア」
「ええ……。まるで、私のための城のようですわ」
「ああ。その通りだ。ここはあなたのための城だ」
レナードはそう言うと、ガラスケースから一足の靴を取り出した。
それは、漆黒のエナメルでできた、恐ろしくヒールの高いピンヒールだった。凶器にすらなりそうなほど、鋭く尖っている。
「まずはこれを履いてみてほしい」
彼の熱っぽい視線に促され、私はその靴に足を入れた。
足に吸い付くような感触。
驚くほど高いヒールは、私の身体の重心を不安定にさせ、自然と腰をくねらせるような、扇情的な立ち姿を強いた。
「ああ……!素晴らしい……!」
レナードは、その場にひざまずき、私の足元からうっとりと全身を見上げた。
まるで、神に祈りを捧げる信者のように、その瞳は狂信的な輝きを放っている。
「リリア……。どうか、私の願いを……」
彼が何を望んでいるのか、私にはもう分かっていた。
人間としてのさななら、眉を顰め、その場から逃げ出していただろう。
けれど今の私はサキュバスのリリアだ。
これから始まる行為への好奇心が、すべての躊躇いを打ち消した。
私はゆっくりと歩を進め、彼の前に立つ。
そして、黒いピンヒールの尖った先端を、彼の胸元にそっと当てた。
「こう……ですか?」
私の問いかけにレナードは恍惚とした表情で頷いた。
私はおそるおそる、ヒールに体重をかける。
硬いヒールの上から、彼の胸の骨の感触が伝わってくる。
「はぁ……っ」
レナードの口から、熱い吐息が漏れた。
その瞬間、昨日の昼間と同じように、彼の身体から芳醇な精気が、脚を通してじわりと私の中に流れ込んできた。
それは、リアンとの交わりで得られる、奔流のような快感とは違う。
上質なワインを、舌の上でゆっくりと転がすように味わう、じっくりとした、支配の快感だった。
(ああ、これも……いい)
私は口の端を吊り上げると、さらに強く、ヒールに体重をかけた。
「ぐっ……!」
「痛いですか、レナード様?」
「い、いや……!もっと……。もっとだ、リリア……!」
彼の懇願に応えるように、私はゆっくりと彼の身体の上を歩き始めた。
胸、腹、そして太もも。
私のヒールが彼の身体を蹂躙するたびに、彼は苦悶と悦びの入り混じった声を上げ、その身体からは、より濃厚な精気が溢れ出してくる。
私はそれを、まるで極上のディナーを味わうかのように、ゆっくりと、しかし確実に吸い上げていった。
どれくらいの時間が経っただろうか。
白濁を吐き出し、床に倒れ、ぐったりと息をするレナードを見下ろし、私は完全な満足感を覚えていた。
直接肌を合わせなくとも、男を悦ばせ、その精気を奪うことができる。
サキュバスとしての新たな可能性に、私は打ち震えていた。
「はぁ……はぁ……ありがとう、リリア……。君は、最高の女神だ……」
「ふふ。お口に合いましたか、レナード様?」
私はベッドに腰掛けると、女王のように脚を組み、彼を見下ろした。
その視線に、レナードは悦びに身を震わせる。
その時、部屋の扉が乱暴に叩かれた。
「リリア!いるのだろう、開けろ!」
リアンの、怒りに満ちた声だった。
護衛の報告を聞いて、飛んできたのだろう。
レナードは慌てて身なりを整え、扉を開けた。
血走った目で部屋に飛び込んできたリアンは、ベッドの上で寛ぐ私と、その足元に傅くように立つレナードを見て、すべてを察したようだった。
「……貴様、リリアに何をした」
「おや、騎士殿。ご覧の通り、私はリリア様の美しさを、こうして讃えていただけですよ」
レナードは、少しも悪びれずにそう言った。
リアンの握りしめた拳が、ギリ、と音を立てる。
「リリア、帰るぞ。こんな男のそばにいてはいけない」
「嫌ですわ」
私は、きっぱりとそう言った。
「私はレナード様のお世話になります。もう、あなたの屋敷には戻りません」
「なっ……!何を言っているんだ、リリア!君は、私のものだろう!」
「いいえ?私は、誰のものでもありませんわ。私は、私よ」
そう言い放った瞬間、自分でも驚くほど、心がすっきりした。
リアンの愛情は、確かに甘美だった。
でもそれは私を縛る鎖でもあった。
けれど、このレナードという男は私を縛らない。
むしろ、私の好きなように振る舞うことを望んでいる。
どちらが、サキュバスとしての私にとって都合がいいか。
答えは、明らかだった。
「さあ、リアン。お帰りになって。私はあなただけのものにはなり得ないの」
呆然と立ち尽くすリアンに、私は圧倒的な余裕と色香を漂わせながら、唇に艶やかな微笑みを乗せた。
彼の瞳に浮かぶ、絶望と、裏切られた怒りの色。
その表情を見ていると、私の心の奥底が、ぞくぞくと快感に打ち震えるのを、私は確かに感じていた。
護衛の男たちには「レナード様のご厚意で、一晩お世話になることにしたから。リアンにはあなたたちから上手く伝えてちょうだい」と言い含め、半ば強引に追い返した。
彼らが血相を変えて主君に報告に戻る姿を想像すると、自然と口元が綻ぶ。
レナードが私のために用意した部屋は、リアンの屋敷のどの部屋よりも豪華で、そして私の好みを的確に反映していた。
深紅と黒を基調とした内装。
天蓋付きの巨大なベッド。
そして、部屋の隅には、様々なデザインのハイヒールがずらりと並んだ、巨大なガラスケースが鎮座している。
「気に入っていただけたかな、リリア」
「ええ……。まるで、私のための城のようですわ」
「ああ。その通りだ。ここはあなたのための城だ」
レナードはそう言うと、ガラスケースから一足の靴を取り出した。
それは、漆黒のエナメルでできた、恐ろしくヒールの高いピンヒールだった。凶器にすらなりそうなほど、鋭く尖っている。
「まずはこれを履いてみてほしい」
彼の熱っぽい視線に促され、私はその靴に足を入れた。
足に吸い付くような感触。
驚くほど高いヒールは、私の身体の重心を不安定にさせ、自然と腰をくねらせるような、扇情的な立ち姿を強いた。
「ああ……!素晴らしい……!」
レナードは、その場にひざまずき、私の足元からうっとりと全身を見上げた。
まるで、神に祈りを捧げる信者のように、その瞳は狂信的な輝きを放っている。
「リリア……。どうか、私の願いを……」
彼が何を望んでいるのか、私にはもう分かっていた。
人間としてのさななら、眉を顰め、その場から逃げ出していただろう。
けれど今の私はサキュバスのリリアだ。
これから始まる行為への好奇心が、すべての躊躇いを打ち消した。
私はゆっくりと歩を進め、彼の前に立つ。
そして、黒いピンヒールの尖った先端を、彼の胸元にそっと当てた。
「こう……ですか?」
私の問いかけにレナードは恍惚とした表情で頷いた。
私はおそるおそる、ヒールに体重をかける。
硬いヒールの上から、彼の胸の骨の感触が伝わってくる。
「はぁ……っ」
レナードの口から、熱い吐息が漏れた。
その瞬間、昨日の昼間と同じように、彼の身体から芳醇な精気が、脚を通してじわりと私の中に流れ込んできた。
それは、リアンとの交わりで得られる、奔流のような快感とは違う。
上質なワインを、舌の上でゆっくりと転がすように味わう、じっくりとした、支配の快感だった。
(ああ、これも……いい)
私は口の端を吊り上げると、さらに強く、ヒールに体重をかけた。
「ぐっ……!」
「痛いですか、レナード様?」
「い、いや……!もっと……。もっとだ、リリア……!」
彼の懇願に応えるように、私はゆっくりと彼の身体の上を歩き始めた。
胸、腹、そして太もも。
私のヒールが彼の身体を蹂躙するたびに、彼は苦悶と悦びの入り混じった声を上げ、その身体からは、より濃厚な精気が溢れ出してくる。
私はそれを、まるで極上のディナーを味わうかのように、ゆっくりと、しかし確実に吸い上げていった。
どれくらいの時間が経っただろうか。
白濁を吐き出し、床に倒れ、ぐったりと息をするレナードを見下ろし、私は完全な満足感を覚えていた。
直接肌を合わせなくとも、男を悦ばせ、その精気を奪うことができる。
サキュバスとしての新たな可能性に、私は打ち震えていた。
「はぁ……はぁ……ありがとう、リリア……。君は、最高の女神だ……」
「ふふ。お口に合いましたか、レナード様?」
私はベッドに腰掛けると、女王のように脚を組み、彼を見下ろした。
その視線に、レナードは悦びに身を震わせる。
その時、部屋の扉が乱暴に叩かれた。
「リリア!いるのだろう、開けろ!」
リアンの、怒りに満ちた声だった。
護衛の報告を聞いて、飛んできたのだろう。
レナードは慌てて身なりを整え、扉を開けた。
血走った目で部屋に飛び込んできたリアンは、ベッドの上で寛ぐ私と、その足元に傅くように立つレナードを見て、すべてを察したようだった。
「……貴様、リリアに何をした」
「おや、騎士殿。ご覧の通り、私はリリア様の美しさを、こうして讃えていただけですよ」
レナードは、少しも悪びれずにそう言った。
リアンの握りしめた拳が、ギリ、と音を立てる。
「リリア、帰るぞ。こんな男のそばにいてはいけない」
「嫌ですわ」
私は、きっぱりとそう言った。
「私はレナード様のお世話になります。もう、あなたの屋敷には戻りません」
「なっ……!何を言っているんだ、リリア!君は、私のものだろう!」
「いいえ?私は、誰のものでもありませんわ。私は、私よ」
そう言い放った瞬間、自分でも驚くほど、心がすっきりした。
リアンの愛情は、確かに甘美だった。
でもそれは私を縛る鎖でもあった。
けれど、このレナードという男は私を縛らない。
むしろ、私の好きなように振る舞うことを望んでいる。
どちらが、サキュバスとしての私にとって都合がいいか。
答えは、明らかだった。
「さあ、リアン。お帰りになって。私はあなただけのものにはなり得ないの」
呆然と立ち尽くすリアンに、私は圧倒的な余裕と色香を漂わせながら、唇に艶やかな微笑みを乗せた。
彼の瞳に浮かぶ、絶望と、裏切られた怒りの色。
その表情を見ていると、私の心の奥底が、ぞくぞくと快感に打ち震えるのを、私は確かに感じていた。
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