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12話 束縛 *
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嵐のようなヒートが過ぎ去り、私たちの間には奇妙なほど濃密な静寂が訪れた。
私はもう、彼の腕の中にいることに恐怖を感じなくなっていた。
むしろ、彼の体温と心音がないと眠れないほどに、この檻の中の生活に順応し、彼という存在に依存しきっていた。
彼は、番になった私を以前にも増して構いたがった。
お風呂に入るときなんかは毎回一緒についてきて髪を洗うのはもちろん体まで洗いたがった。
彼の瞳は日常的に私を追い、その指はことあるごとに私の肌に触れ、彼の所有物であることを確かめる。
その執着は息苦しいはずなのに、私はその全てを、彼からの愛情だと受け入れてしまっていた。
その日も、彼に髪を乾かされたあと、私は彼の腕に抱かれながら、ベッドの上で微睡んでいた。
彼は私の髪を弄び、首筋の番の印をなぞりながら、満足げに囁く。
「お前は本当にいい匂いがするな、柚羽。俺だけのためにあるような香りだ」
「……蒼真さんの匂いも、わたし、好きですよ」
素直な言葉が、口をついて出る。
私のその一言で、彼の機嫌が良くなるのを、私はもう知っていた。
彼は嬉しそうに喉を鳴らし、私に深いキスを落とす。この甘いやり取りが、私たちの日常になりつつあった。
ふと、窓の外に広がる、どこまでも青い空が目に入った。閉じられたガラスの向こうの、自由な世界。
「……蒼真さん」
「なんだ?」
「……もう一度、あの庭に行きたいです」
私の言葉に、彼の動きがぴたりと止まった。部屋の空気が、一瞬で冷たくなる。
「なぜだ。この部屋に不満でもあるのか?何が足りない?」
「そうじゃなくて……。あの……風を、感じたいんです。あなたの、隣で」
「あなたの隣で」――その言葉は、精一杯の私の勇気だった。
あなたから逃げたいんじゃない。
……あなたと一緒に、外の世界に触れたい。その気持ちを伝えたかった。
だが、彼の歪んだ独占欲は、私のささやかな願いさえも『裏切り』と捉えた。
「まだ、外に未練があるのか……どうなんだ」
彼の声は、地を這うように低くなった。
「俺だけでは、お前を満たしてやれないと?……そうか、足りなかったんだな。お前が二度と外のことなど考えられなくなるくらい、俺の愛で、体で、お前をめちゃくちゃにしないと、ダメなんだな」
次の瞬間、私はベッドに強く押し倒されていた。
見下ろしてくる彼の瞳には、嫉妬と怒りの黒い炎が燃え盛っている。
「いや……!そうじゃ、ない……!」
「黙れ」
彼は私の抵抗を力で封じ込めると、罰を与えるように乱暴に肌を重ねてきた。
それは、ヒートの時のような本能的な交わりではなかった。
私の心を折ろうとする、一方的な支配。痛い。苦しい。
でも、それ以上に悲しかった。私の勇気が、彼には届かなかったことが。
「ん……くっ……!」
涙が溢れる。
ああ、やっぱり、この人は檻の番人なのだ。
私が少しでも自由を求めれば、こうして鎖を引き戻し、罰を与える。
だが、その時だった。
私の心の中で、何かがぷつりと切れた音がした。
私はもう、彼の腕の中にいることに恐怖を感じなくなっていた。
むしろ、彼の体温と心音がないと眠れないほどに、この檻の中の生活に順応し、彼という存在に依存しきっていた。
彼は、番になった私を以前にも増して構いたがった。
お風呂に入るときなんかは毎回一緒についてきて髪を洗うのはもちろん体まで洗いたがった。
彼の瞳は日常的に私を追い、その指はことあるごとに私の肌に触れ、彼の所有物であることを確かめる。
その執着は息苦しいはずなのに、私はその全てを、彼からの愛情だと受け入れてしまっていた。
その日も、彼に髪を乾かされたあと、私は彼の腕に抱かれながら、ベッドの上で微睡んでいた。
彼は私の髪を弄び、首筋の番の印をなぞりながら、満足げに囁く。
「お前は本当にいい匂いがするな、柚羽。俺だけのためにあるような香りだ」
「……蒼真さんの匂いも、わたし、好きですよ」
素直な言葉が、口をついて出る。
私のその一言で、彼の機嫌が良くなるのを、私はもう知っていた。
彼は嬉しそうに喉を鳴らし、私に深いキスを落とす。この甘いやり取りが、私たちの日常になりつつあった。
ふと、窓の外に広がる、どこまでも青い空が目に入った。閉じられたガラスの向こうの、自由な世界。
「……蒼真さん」
「なんだ?」
「……もう一度、あの庭に行きたいです」
私の言葉に、彼の動きがぴたりと止まった。部屋の空気が、一瞬で冷たくなる。
「なぜだ。この部屋に不満でもあるのか?何が足りない?」
「そうじゃなくて……。あの……風を、感じたいんです。あなたの、隣で」
「あなたの隣で」――その言葉は、精一杯の私の勇気だった。
あなたから逃げたいんじゃない。
……あなたと一緒に、外の世界に触れたい。その気持ちを伝えたかった。
だが、彼の歪んだ独占欲は、私のささやかな願いさえも『裏切り』と捉えた。
「まだ、外に未練があるのか……どうなんだ」
彼の声は、地を這うように低くなった。
「俺だけでは、お前を満たしてやれないと?……そうか、足りなかったんだな。お前が二度と外のことなど考えられなくなるくらい、俺の愛で、体で、お前をめちゃくちゃにしないと、ダメなんだな」
次の瞬間、私はベッドに強く押し倒されていた。
見下ろしてくる彼の瞳には、嫉妬と怒りの黒い炎が燃え盛っている。
「いや……!そうじゃ、ない……!」
「黙れ」
彼は私の抵抗を力で封じ込めると、罰を与えるように乱暴に肌を重ねてきた。
それは、ヒートの時のような本能的な交わりではなかった。
私の心を折ろうとする、一方的な支配。痛い。苦しい。
でも、それ以上に悲しかった。私の勇気が、彼には届かなかったことが。
「ん……くっ……!」
涙が溢れる。
ああ、やっぱり、この人は檻の番人なのだ。
私が少しでも自由を求めれば、こうして鎖を引き戻し、罰を与える。
だが、その時だった。
私の心の中で、何かがぷつりと切れた音がした。
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