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最終話 朝陽の香り *
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あの朝、私たちは手を取り合って、空に浮かぶ黄金の檻を出た。
蒼真さんは、一条グループの総帥という地位さえも、彼を縛る鎖だったと言って、その全てを弟に譲り渡した。
過去を清算し、彼はただの『一条蒼真』として、私の隣に立つことを選んだのだ。
私たちが新しい生活の場として選んだのは、海の見える、小さな一軒家だった。
最新鋭のセキュリティに守られた要塞のようなマンションではない。
風の匂いがして、波の音が聞こえる、ただの家。でも、私たちが二人で選んだ、初めての『我が家』だった。
「……本当に、良かったんですか?全てを、捨ててしまって」
潮風が心地よいテラスで、彼の背中に寄りかかりながら尋ねる。
彼は、私の手を優しく握り返した。
「捨てるじゃない。選んだんだ。……空っぽの玉座より、お前のいるこの場所を」
その声は、どこまでも穏やかだった。彼の嫉妬深くこちらを閉じ込めたがる部分は、消えてなくなったわけではない。
今でも彼は、私が他の男と話すことを嫌がるし、私が一人で遠くへ行くことを許さない。
でも、それはもう、私を縛る鎖ではなかった。
不器用で、独占欲が強くて、でも、私を世界で一番愛してくれている、彼の愛情表現。
そう思えるようになっていた。
「柚羽」
彼が、私の名を呼ぶ。振り返ると、夕陽を背にした彼の瞳が、熱を帯びて私を見つめていた。
「愛している」
私は何も言わず、彼の首に腕を回して、唇で応えた。
それは、もう合図だった。互いの全てを求め合い、一つになるための。
「じゃあ行こう。僕のお姫様」
手の甲にキスをされお姫様だっこの状態で寝室に運ばれ、ベッドに優しく横たえられる。
彼は、まるで壊れ物を扱うかのように、私の服を一枚一枚丁寧に脱がせていく。
その指先は、私の肌を崇めるように滑り、行く先々で甘い熱を灯していく。
「きれいだ……」
彼の吐息が、私の肌を濡らす。もう、そこに支配者の傲慢さはない。
ただ、愛する女を前にした、一人の男の、純粋な賛辞。
「蒼真さん……」
私も、彼のシャツに手をかける。鍛えられたしなやかな体。
彼もまた、私の前でだけ、無防備な姿を晒してくれる。
やがて、肌を重ね合わせた私たちは、言葉を交わす代わりに、互いの名前を呼び合った。
彼の動きは、もう私を支配しようとはしない。
私の反応を確かめ、私が気持ちいいと感じる場所を探し、どこまでも丁寧に、深く、愛してくれる。
「あ……ん……っ、そうま、さん……」
「柚羽……好きだ……っ」
それは、ただ快感だけを求める行為ではなかった。互いの存在を確かめ、魂を溶け合わせ、二人の未来を祝福するような、神聖な儀式。
彼の温もりが、彼の匂いが、彼の愛が、私の全てを満たしていく。
何度も、何度も、私たちは愛を交わした。やがて、果てる瞬間、彼は私の耳元で、強く囁いた。
「ねえ柚羽……俺たちの、子供が欲しくないか?」
その言葉は、私の心の最後の扉を開けた。
この人の子供を、産みたい。この人との、愛の結晶を。
涙が、喜びと共に溢れ出す。私は、彼の首に強くしがみついて、何度も頷いた。
翌朝。
窓から差し込む柔らかな光で、私は目を覚ました。
隣には、私を愛おしそうに見つめる蒼真さんの顔。
「おはよう、柚羽」
「……おはようございます、蒼真さん」
私たちは、どちらからともなく微笑み合った。
「君と出会って、俺の世界は色を取り戻した。本当に、感謝している」
「私もです、蒼真さん。あなたと出会って、私は初めて、Ωに生まれたことを……ううん、この世界に生まれてきたことを、感謝できました」
彼は、私の額にキスを落とす。
もう、ここには檻も鎖もない。
あるのは、互いを想い合う、2つの心だけ。
首筋に残る番の印が、朝陽を浴びて、キラリと光った。それはもはや、所有の刻印ではない。永遠の愛を誓う、指輪の代わり。
私は、彼の腕の中で、深く息を吸い込んだ。
熟れた果実のような私の香りと、静かな森のような彼の香りが混じり合った、新しい朝陽の香り。
それは、絶望の終わりと、幸福の始まりを告げる、私たちの香りだった。
蒼真さんは、一条グループの総帥という地位さえも、彼を縛る鎖だったと言って、その全てを弟に譲り渡した。
過去を清算し、彼はただの『一条蒼真』として、私の隣に立つことを選んだのだ。
私たちが新しい生活の場として選んだのは、海の見える、小さな一軒家だった。
最新鋭のセキュリティに守られた要塞のようなマンションではない。
風の匂いがして、波の音が聞こえる、ただの家。でも、私たちが二人で選んだ、初めての『我が家』だった。
「……本当に、良かったんですか?全てを、捨ててしまって」
潮風が心地よいテラスで、彼の背中に寄りかかりながら尋ねる。
彼は、私の手を優しく握り返した。
「捨てるじゃない。選んだんだ。……空っぽの玉座より、お前のいるこの場所を」
その声は、どこまでも穏やかだった。彼の嫉妬深くこちらを閉じ込めたがる部分は、消えてなくなったわけではない。
今でも彼は、私が他の男と話すことを嫌がるし、私が一人で遠くへ行くことを許さない。
でも、それはもう、私を縛る鎖ではなかった。
不器用で、独占欲が強くて、でも、私を世界で一番愛してくれている、彼の愛情表現。
そう思えるようになっていた。
「柚羽」
彼が、私の名を呼ぶ。振り返ると、夕陽を背にした彼の瞳が、熱を帯びて私を見つめていた。
「愛している」
私は何も言わず、彼の首に腕を回して、唇で応えた。
それは、もう合図だった。互いの全てを求め合い、一つになるための。
「じゃあ行こう。僕のお姫様」
手の甲にキスをされお姫様だっこの状態で寝室に運ばれ、ベッドに優しく横たえられる。
彼は、まるで壊れ物を扱うかのように、私の服を一枚一枚丁寧に脱がせていく。
その指先は、私の肌を崇めるように滑り、行く先々で甘い熱を灯していく。
「きれいだ……」
彼の吐息が、私の肌を濡らす。もう、そこに支配者の傲慢さはない。
ただ、愛する女を前にした、一人の男の、純粋な賛辞。
「蒼真さん……」
私も、彼のシャツに手をかける。鍛えられたしなやかな体。
彼もまた、私の前でだけ、無防備な姿を晒してくれる。
やがて、肌を重ね合わせた私たちは、言葉を交わす代わりに、互いの名前を呼び合った。
彼の動きは、もう私を支配しようとはしない。
私の反応を確かめ、私が気持ちいいと感じる場所を探し、どこまでも丁寧に、深く、愛してくれる。
「あ……ん……っ、そうま、さん……」
「柚羽……好きだ……っ」
それは、ただ快感だけを求める行為ではなかった。互いの存在を確かめ、魂を溶け合わせ、二人の未来を祝福するような、神聖な儀式。
彼の温もりが、彼の匂いが、彼の愛が、私の全てを満たしていく。
何度も、何度も、私たちは愛を交わした。やがて、果てる瞬間、彼は私の耳元で、強く囁いた。
「ねえ柚羽……俺たちの、子供が欲しくないか?」
その言葉は、私の心の最後の扉を開けた。
この人の子供を、産みたい。この人との、愛の結晶を。
涙が、喜びと共に溢れ出す。私は、彼の首に強くしがみついて、何度も頷いた。
翌朝。
窓から差し込む柔らかな光で、私は目を覚ました。
隣には、私を愛おしそうに見つめる蒼真さんの顔。
「おはよう、柚羽」
「……おはようございます、蒼真さん」
私たちは、どちらからともなく微笑み合った。
「君と出会って、俺の世界は色を取り戻した。本当に、感謝している」
「私もです、蒼真さん。あなたと出会って、私は初めて、Ωに生まれたことを……ううん、この世界に生まれてきたことを、感謝できました」
彼は、私の額にキスを落とす。
もう、ここには檻も鎖もない。
あるのは、互いを想い合う、2つの心だけ。
首筋に残る番の印が、朝陽を浴びて、キラリと光った。それはもはや、所有の刻印ではない。永遠の愛を誓う、指輪の代わり。
私は、彼の腕の中で、深く息を吸い込んだ。
熟れた果実のような私の香りと、静かな森のような彼の香りが混じり合った、新しい朝陽の香り。
それは、絶望の終わりと、幸福の始まりを告げる、私たちの香りだった。
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