【完結】異世界に行ったらイケメン騎士たちの愛玩人形にされました。~四人の騎士は砦の女王に溺れる~

たるとタタン

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魔獣を退けた砦は、その夜、熱狂的な祝宴に包まれた。

焚かれた篝火が城壁を赤々と照らし、男たちの雄叫びと、勝利を祝う歌声が夜空に響き渡る。

樽からはエールが惜しげもなく振る舞われ、焼かれた肉の香ばしい匂いが立ち込めていた。

しかし、その熱狂の中心にあるのは、酒でも肉でもない。

ただ一人、高座に設けられた玉座に座る、純白の女王だった。

ゆきは、戦いの後、マルセルが用意した新たなドレスに着替えていた。

それは、血のように深い赤色のドレス。

胸元が大きく開き、肌の白さを際立たせるデザインは、戦場の女神から一転、男の欲望を煽る夜の女王へと彼女を変貌させていた。

男たちは、酒を飲み、歌いながらも、その視線は常に玉座のゆきに注がれている。誰もが、彼女が口にした「褒美」を、今か今かと待ち望んでいた。

宴もたけなわとなった頃、カイが立ち上がり、広場の喧騒を一瞬で静まらせた。

「静まれ! 俺たちの女神、ユキからお前らに言葉を授ける!」

全ての視線が、ゆきに集中する。

ゆきはゆっくりと立ち上がると、眼下の男たちを見渡した。その一人一人の顔を確かめるように。

「まずは皆の奮闘に感謝します。あなたたちの勇気と力があったからこそ、この砦は守られました」

凛とした声が、広場に響く。

「そして、約束通り、あなたたちに褒美を与えましょう」

ゴクリ、と誰かが唾を飲む音が聞こえた。男たちの目に、ぎらぎらとした欲望の炎が燃え上がる。

「勝利に最も貢献した者に、今宵、私と一夜を共にする権利を与えます」

その宣言に、広場が大きくどよめいた。

カイが、一歩前に進み出る。

「ならば、それは俺の筈だ。この戦いで敵将の首を取ったのは、この俺だ」

その言葉を遮るように、マルセルが優雅に歩み出た。

「おや、力こそが全てではないでしょう、団長。戦況を読み、最も多くの魔獣を葬り去ったのは、この僕ですが?」

すると、ゆきの玉座のすぐ後ろに控えていたセスが、静かに口を開いた。

「ゆき様の御身を、傷一つなくお守りしたこの俺こそが、その栄誉に浴すべきかと」

三人の男が、ゆきを挟んで火花を散らす。

他の団員たちは、砦のトップ達の争いを、固唾を飲んで見守るしかない。

広場の空気が、再び戦場のように張り詰める。

その時、ゆきは、くすり、と小さく笑った。

「そう、急ぐものではありませんわ。誰が一番かは……私が、今宵、決めること」

ゆきは、玉座から降りると、三人の男たちの間をすり抜け、広場の中心へと歩み出た。

そして、くるりと振り返り、悪戯っぽく微笑む。

「今宵、私がこの砦のどこかの部屋を訪れます。その部屋の主が、最初の栄誉を得る騎士。……誰の部屋を訪れるかは、私の気分次第。期待しておいてね」

その言葉は、彼らを絶望させるのではなく、むしろ極限まで期待を煽った。

運が良ければ、自分のもとに女神が訪れるかもしれない。

そのいたずら心が、男たちの独占欲をさらに掻き立てる。

「さあ、宴は終わりです。皆、部屋に戻り、吉報を待ち焦がれなさい。……それとも、私に選ばれる自信がないのかしら?」

彼女の挑発に、男たちは我先にと、それぞれの持ち場や寝床へと散っていく。

誰もが、自分が選ばれるのだと、信じて疑わずに。

カイ、マルセル、セスもまた、それぞれのやり方でゆきにアピールした後、自室へと戻っていった。

広場に一人残ったゆきは、夜空を見上げた。

男たちを、完全に手玉に取っている。その事実が、たまらない快感だった。

(さて、今夜は誰の部屋を訪れようか)

絶対的な支配者であるカイか、美しい倒錯者のマルセルか、忠実な犬であるセスか。

誰を選び、どんな悦びを与え、そして支配してやろうか。

ゆきは、自分の部屋へと戻るべく、静かな廊下を歩き始めた。

今夜の「褒美」を、誰に与えるか、ゆっくりと吟味しながら。

彼女はまだ、気づいていなかった。

自分の部屋で、最も飢えた狼が、その牙を研いで待ち構えていることに。

ゆきが自室の扉を開けた、その瞬間。

背後から伸びてきた強い腕が、彼女の口を塞ぎ、部屋の中へと引きずり込んだ。

「んんっ……!」

抵抗する間もなく、扉が閉められ、背中を壁に強く打ち付けられる。

暗闇の中、耳元で、聞き覚えのある声が囁いた。

「……おかえり、俺の女王様」

その声の主は、牢にいるはずの男――キースだった。

彼の目は、暗闇の中でも分かるほど、狂気と純粋な独占欲で爛々と輝いている。

「宴は楽しかったかい? あんたのために、男たちが犬みたいに争う様は、さぞ滑稽だったろうな」

「キース……! なぜ……」

「なぜ、だって? そんなの、決まってるだろ」

彼は、ゆきの口を塞いでいた手を離すと、その顎を掴んで乱暴にキスを落とした。

それは、嫉妬と怒りと、そしてどうしようもないほどの愛情がぐちゃぐちゃに混ざった、獣のようなキスだった。

「あんたを、誰にも渡したくなかったからだよ」

唇が離れ、キースはゆきの赤いドレスの肩紐に指をかけた。

「カイも、マルセルも、セスも……他の有象無象も、俺とあんた以外誰もいない場所で、あんたを俺だけのものにする。……あんたが本当の『女王』になるためには、俺という『王』が、隣にいなくちゃだめだろう?」

彼の言っていることは支離滅裂だった。しかし、その瞳に宿る熱だけは、本物だった。

彼は、ゆきをこの砦から連れ去り、二人だけの王国を築こうとしているのだ。

「さあ、声を出してみろよ。助けを呼んでみろ。でも、誰も来ない。今夜、あんたが誰の部屋を訪れるのか、全員が息を殺して待っているんだからな」

絶望的な状況。

しかし、ゆきの心にあったのは、恐怖だけではなかった。

この、自分だけを求めて全てを捨てた愚かな男が、どうしようもなく、愛おしい。

ゆきは、逃げることをやめた。

そして、目の前の飢えた狼に、自らの首筋を差し出すように、艶然と微笑んでみせた。

「……見つかったら、どうするつもり?」

「!」

「私を連れて、どこへ逃げるというの? この砦の外は、魔獣の巣窟なのよ」

ゆきの予想外の反応に、キースが一瞬、言葉を失う。

その隙を、ゆきは見逃さなかった。

「貴方が本当に、私を独占したいのなら……ここで、私を完全に貴方のものにしてみなさい。他の男たちが、嫉妬で狂い死にするくらい、深く、激しく、私を愛してごらんなさい」

「……ユキ……?」

「もし、それができたなら……。考えてあげても、いいわ。貴方と二人で、この退屈な城から逃げ出してあげるのも」

それは、悪魔の囁き。

キースの目に、理性の光が消え、純粋な欲望の炎が燃え盛った。

「……ああ、ああ……! やっぱり、あんたは最高だ……!」

彼は吠えるように叫ぶと、ゆきの赤いドレスを、獣のように引き裂いた。

誰にも邪魔されない、二人だけの部屋で、最も激しく、そして最も危険な、最後の交わりが始まろうとしていた。

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