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前川キズナ

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ひこーきぐも

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サクラサク。こんな言葉があるが、実際に受験の時に桜が咲いているのを目の当たりにしたことは無い。俺が高校受験の試験会場に着いた時は、確か……突き抜けるほどのコバルトの空に、真っ白な飛行機雲がのびていた。
(あっ、飛行機雲がある)
やたら落ち着いた気持ちになった俺は、なんの障害も無しに試験を終えた。ほどよく腕が震える高揚感を携えて後にした会場。
勝ったな。
そんな確信を持てる試験だった。

その日の夜、俺は家族とパソコンの前に向き直っていた。もちろん、合否を確認するためだ。学校のホームページを開いて、「合格者発表」の枠を開く。
「37282……38272……」
わざとらしく声を出して、画面をスライドする。まだ2番台。まだ大丈夫。3番台になると、突然冷や汗が出てくる。
(そういえばあそこ間違っていたような……あそこも……)
「38267、38269、38270……」
意を決して瞳を横へ移す。
「……38272……!」
あった!やった!受かった!
「やったー!」
夜にもかかわらず大きい声を出したが怒られない。母は泣いている。父は握手を求めてくる。妹は「すげー」と他人事みたいにボヤいてる。まあ他人事か……?
かくして俺のサクラは満開になった。その日は、いつもみたいにスマホを見ることもせずに、眠りについた。

翌日、まだ学校は受験休みだったので、小腹を満たすためにコンビニを訪れていた。ファミ〇キ買おうかな、久しぶりに。ここ数日ゼリー食しか食べてないし。妹の分のファ〇チキもたずさえて、コンビニを出た。昨日のように澄み切った空。oh!It’sクラリティスカイ!厨二病くさい英語は置いておいて、その視界の中央に、昨日と同じ飛行機雲が現れた。

「勝利の飛行機雲だ。」
誰もいないので小さく声を出してみる。記念に写真でも撮ってイソスタにあげよう。スマホを取り出して空にカメラを向けた時だった。どうにも上手く撮れない。試行錯誤を重ねるうちに周りが見えなくなっていた。今考えればどうしてそんなにも飛行機雲の写真に執着したのだろうか。おぞましいほどのエンジン音が耳をつんざいた。前を向いた時にはフロントガラスが鼻面に。その刹那、僅かに覗いた運転手の顔はすこし、いや狂気に満ちて笑っていた。ほんの一瞬、その輪郭すら上手く掴むことは出来なかったが、その表情は確実に脳裏に刻み込まれた。そしてガラスの割れる音と共に、俺の視界は真っ白になっていた。

「ミセスメロディが先頭に変わるか!2番手から前をおうニシノマーズ!うちに潜り込んではマーストリヒトが突っ込んでくる!ロンドンブリッジの伸びは厳しい!」
なんだこの情景は。競馬……?競馬か?でもなんで。小さい頃、キズナのダービーを見てから数ヶ月は毎週見ていたが、それからは親父が気まぐれ程度でたまに競馬を見てるのを横で流し見たことはある程度だ。
でもなんで急に。こんな景色が脳裏に浮かんだのだろうか。
「ミセスメロディ!ミセスメロディがまだ先頭で、今ゴールイン!2着はニシノマーズ!そしてなんと3着には、マーストリヒトか!」
いや、それだけじゃない。このテレビ画面の隅には木の壁や鉄柵が見える。まるで檻のような感じがする。それにどこか視界も広い。おかしい。俺の家にこんな場所はない。たが他人の家を訪れているような緊張感もない。そんな小部屋の中をなにかないかと探し回っていると、がちゃり、と音がして女の子が入ってきた。
「なにぐるぐるしてんだー?」
人がいた?でもなんか小さくないか?すると手を伸ばしてくる。なんだなんだ?
「おっかしいな。いつもは熊癖ないのにな。」
熊癖?なんのことだ。それよりここはどこだ。聞こうにも声が出ない。
「まあいいや。もう時間だ!はじめての重賞、がんばろうね!」
重賞?ますますなんの事なんだ。内心を慌てふためくうちに、耳の下でかちっ、と音がしてその部屋から連れ出される。やはり、明らかに視線が高い。なんだか気持ち悪くさえある。流れるように時が過ぎ、いつの間にかゲートが目の前にあった。
(ゲート?競馬のだよな。なんで?)
頭を埋め尽くす疑問符に足を止めると、俺の意思とは裏腹に勝手にあゆみが進んでいく。なんでだ?まるでこれが俺自身の体じゃないみたいに。
急に金属に囲まれる。狭い部屋の中、感情は昂っていたが、身体は動かなかった。がしゃん、と大きな音がして、横の視界に流動物が映る。驚いて再び見やると、今度は耳の上の方から「やべっ」と声がして、これもまた俺の意思とは裏腹にその狭い部屋から飛び出した。ぐんぐん移っていく視界。さっきまで前にいた馬が自分の横に来ると、曲がった視界に盛り上がるスタンドが写った。いつのまにか感情移入をしていて、気づくとさっきまで前に見てた勝負服を後ろに見る形になっていた。お?なんか分からないけれど勝つんじゃないか?そう思った途端に、また再び俺の視界が真っ白になった。

「……うわっ!」
飛び上がった時、俺の視界はうなぎのような模様があしらわれた天井を捉えた。
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