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4 ご、拷問部屋!?
しおりを挟む「お嬢様……申し訳ございません」
ヴィクトリアの足元に平伏すアン。
「謝る相手が違うのではない?」
「は、はい。奥様、申し訳ありませんでした」
ヴィクトリアに顎で促され、アンはエイダに頭を下げた。
「え……あ、あの」
戸惑っているエイダに構わず、ヴィクトリアがアンに沙汰を下す。
「メイドのアン。今、この時をもってバルサン伯爵家を解雇します。1時間以内に荷物を纏めて出て行きなさい!」
「そ、そんな。お嬢様。どうかごお許しください!」
ヴィクトリアの放った「解雇」と言う言葉に激しく狼狽えるアン。
だったら、最初からつまらん事すんな!
「鞭打ちの罰は免除してあげるって言ってるのよ。充分慈悲を掛けてるのが分からないの?」
腕を組み、床に座り込むアンを不機嫌そうに見下ろす10歳のヴィクトリア。
貴族邸の使用人が不始末を起こしてクビになる際、そのやらかした内容によって鞭打ち1回~10回の罰を受けた後に追い出されるのが、この国の慣習だ。ヴィクトリアの沙汰は相当に優しいのである。
「そ、そんな……せめて旦那様に……ご沙汰を。お嬢様にそんな権限はないでしょう?」
尚も粘るアン。優しくしてれば付け上がりやがって! 見苦しいアンにとどめを刺す。
「お父様に沙汰を? アン。アナタ正気なの? この件をお父様がお知りになったら、アナタ、間違いなく地下の拷問部屋に連れて行かれて、二度とお天道様を見ることが出来なくなるわよ? 分かってる?」
そう言って、アンを見つめるヴィクトリアの美しい碧眼は絶対零度だ。
「「ご、拷問部屋?」」
何故かエイダとアンの声が重なった。二人とも顔が真っ青だ。
ヴィクトリアはふふんと鼻を鳴らす。
「そうよ。地下の拷問部屋。100年前までは、罪を犯した使用人は各貴族邸で自由に私刑にかけることが王国法で認められていたから、古い貴族の屋敷には拷問部屋が残っている所も多いのよ。知らなかった? 我がバルサン伯爵家の地下にも、ちゃ~んとあるのよ。もちろん各種拷問器具も揃っているわ。拷問マニアの庭師のテオがいつも丁寧に手入れをしているから、いつでも使えるのよ」
「「ひぃっ」」
だから、どうして被害者のエイダまで怯えているのだろう?
「ねぇ、アン。お父様はね。お義母様をとっても愛していらっしゃるわ。そのお義母様がメイドに苛められていたなんて知ったら、どんな事が起きるかしらね?……きっと、誰にも止められやしないわ。ご愁傷様」
ヴィクトリアのその台詞を聞き、泡を吹いて失神してしまった。
アンではない。エイダがである。
繊細で気が弱いのは知っていたけど、どんだけ~!?
そして、当のメイドのアンは、エイダが気絶しているうちに大急ぎで荷物を纏め、逃げるようにバルサン伯爵邸を出て行った。故郷の実家に戻るようだ。せいぜい反省して、親孝行しろよ!
ちなみにバルサン伯爵邸に拷問部屋など無い。
ヴィクトリアのハッタリである。
ただ、庭師のテオが拷問マニアだと言うのは事実だ。彼は給金のほとんどを拷問器具の購入に充て、休日はひたすらそれらの手入れをしているそうだ。
そんなアブない趣味を持つ男を雇っていていいのか、甚だ疑問ではあるが、父に言わせると「本当に恐ろしい人間は優しい顔をしてやって来るんだよ。完全にアウトな趣味の話をオープンに嬉々として皆にするテオのようなヤツは逆に心配ない」らしい。ホントかよ? いつかテオがとんでもない事件を起こすんじゃないかと、秘かにヴィクトリアは危惧している……って、何の話をしてたんだっけ?
そうそう。目を覚ましたエイダに、拷問部屋の話は嘘ぴょんと明かしたら、安堵の余りまた泣いてしまった……鬱陶しい。けど、ちょっと可愛い。父が惚れたのも分かる。もしもヴィクトリアが男だったら、やはりエイダのような女性を愛人にしてしまいそうである。(貴族の)正妻には向いてないんだよね。危なっかしくてさ。でも、守ってあげたくなる。うん、分かる。分かるよ、父よ。あの手の女性は、たとえ頭頂部の毛がどんなに寂しくなっても、絶対に嗤ったりしないで励ましてくれそうだしね。未来の夫がテッペン禿げになったら、きっと指差して大笑いしてしまうに違いないヴィクトリア(ヒド過ぎないか? ヴィクトリアよ)だからこそ、余計に【癒し】を求める父の気持ちが分かってしまうのだった――って。いや、だから何の話をしてたんだっけ?
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