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しおりを挟む「後宮に入りませんか?」
身共の聞き間違いでなければ、桐生は確かにそう言った。人手不足なのか? 何故属国の捕虜なんぞをそんな重要な場所に勤務させようと考えたんだ?
「えー……っと、それは因みに護衛として? それとも下女としてですか?」
「どちらでもありません」
「じゃあ奴婢?」
「我が王の正妃としてです」
「ああー……ん?」
夢でも見ているのか。それとも実はもう身共は殺されたのか?
密かに太腿の肉を思い切り抓ってみたが、ちゃんと痛みを感じる。まだ生きてるし、夢でもなく現実だ。
「ご無礼を承知で確認しますが、もしかして桐生殿は、皇帝との結婚を私に提案されましたか?」
「相違ありません」
「…………」
どうしよう……全ッ然、状況が飲み込めない。
あまりに予想外の展開に身共の頭の中の整理が追いつかない。
身共が何も言えないでいると、桐生は留めを刺すかの如く改めてもう一度はっきりと言った。
「貴方に、我が王の妃となり、後宮に入る事をここに提案いたします」
「正気か?」
「そう思われるのも無理ないこと。しかしこれは我が君の意向です」
それ即ち大陸の覇者、死神の化身とも謳われる中ツ国歴代最強の王 白 蓮眞の意向。
絶ッ対に、何か裏があることに違いない。大陸の覇者ともあろう人間が、都合が良い条件がなければこんな突拍子な事を言うはずがない。
「どうしますか?」
仮にここで生き延びられたとしても死期が少し延びるだけ。どの道捨てられる命ならば、ここで見切りをつけておいた方が、余計な事に巻き込まれずに成仏できそうな気もするのだが……
「理由は?」
「理由?」
「中ツ国の王が、捕虜を正妃にしようと考えた理由をお聞かせ願いたい」
「そんなの、貴方があの島国の皇女様だからですが?」
「……え…………?」
思わぬ回答に、身共は唇を震わせた。
何故この者達は、身共のことを知っているのか。
真澄鏡は古い歴史とはいえ、ほぼ鎖国状態の国だ。他国との関わりは非常に限定的で、限られた国としか国交は行っていない。中ツ国とは、今回の戦争で初めて関わりを持ったはずだ。
この若輩は愚か、老体でさえも島の歴史は知らない。
まさか属国になる際、皇帝が教えたのか? 何のために?
「ちょちょっと待て! 何故それを? それに私はすでに皇族から抜けています!」
「ですが血筋はあります」
「もう10年前の話です。それに、大陸の覇者ともあろうお方が、属国の捕虜と結婚して何の得があると言うのですか」
「大陸では、真澄鏡は”盗賊の島”と言われる一方で、月が沈む神秘の島、あるいは”神が寝む島”とも言われています。神が育てた娘を妃に迎えたとあれば験担ぎになるのです。それに我が君の威厳にも繋がります」
「威厳?」
「神の手元にも手が届く、と」
それは威厳というより、単に神様の娘にさえも手を出す不調法者という印象を与えるのではないだろうか。
「それなら、何も除籍になった私ではなく、第一皇女の方が良いではありませんか」
「貴方も聞いた事があるはずです。我が君の通り名を」
「!!」
桐生のその一言で、何故第一皇女ではなく身共なのかすぐに分かった。
単純に嫁がせたく無かったのだ。『死神の化身』と呼ばれる男の元に。
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