嫌われ黒領主の旦那様~侯爵家の三男に一途に愛されていました~

めもぐあい

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第2章 黒領主の旦那様

28 お母様とお祖父様

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 私とお母様は十六年振りに再会を果たし、涙にくれながらひとしきりお父様を追慕した。

「二人でこんなに泣いていたら、クライヴに呆れられてしまうわね。そろそろ楽しい思い出話でもしてあげないと」
「そうですね、お母様。私、お父様のことだけではなく、お母様のお話も聞きたいです」

 少しだけ甘えた話し方になって、子どもっぽかったかなと恥ずかしくなりかけた時――
 謁見の間を、凄みを効かせた低い声が貫いた。



「レイラ。なんだ? その娘は?」

 コツリコツリと杖をつきながら不機嫌さを隠そうともせず、もの凄く険しい表情をした老齢の男性が入ってきたのだ。

「コンラッド……。報告していたのね……」
「……これ以上は見過ごせませんので」

 お母様のまとっていた空気が一気にピリついたものに変わる。包んでくれていた母の腕が離れ、私を背に庇うようにした……。

「何のご用でしょうか? 父上」
「その娘は何者だと聞いておる。答えよ、レイラ!」

 お母様がわざとらしく嘆息して返答する。

「私の娘で、父上の孫ですが? 若い頃とそっくりでしょう? ああ、とうとう耄碌なさいましたか」
「耄碌などしとらんわ!!」

 私のお祖父様にあたる方? と、お母様がお互いに牽制し合い、謁見の間の温度が急激に下がったように感じる。

「おか……レイラ様。私が公城に来てしまったせいですよね?  申し訳ございません。ただちにこの場からお暇しますので」
「行かないでちょうだいクローディア。まだ話していないことが沢山あるのよ。もう少し私に時間をちょうだい?」

「なにを抜かす! そこの娘、今すぐウィンドラ公国から出ていけ!」
「本当に分からず屋ですこと! 貴方のたった一人の孫娘なのに!」

 お母様と舌戦を繰り広げるあの御方は、やはり私の祖父で間違いないみたい。確かに白髪混じりの黒髪と私を射貫くような黒目は私たちと一緒だけれど、あまりお母様とは似ていないから、なんだか実感が湧いてこない。

「お前が頑なに婿をとらなかったからこうなったのであろう!?」
「コンラッドのところに男児が生まれたからよいではありませんか?」

「結果論を言うな! わしがお前を甘やかし過ぎたのだな……。甥の血筋とはいえ、直系の跡取りを得られなかったわしの気持ちがお前に分かるか!」

 情報量が多すぎて混乱してきたけれど、コンラッドさんが祖父の甥なら、お母様とコンラッドさんは従姉弟になるのかしら?

「飛竜定期便など作りおって。あんなものは廃止だ、廃止! 飛竜は試練を乗り越えた者の命を聞くことを忘れたか? わしとコンラッドが命を下せば、お前一人が騒いでも奴等は飛び立つまい!」
「クソジジイ……卑怯な……」

 美しいお母様の唇から、聞いてはいけない単語が発せられた。

「早く出て行け! イスティリア王国との外交問題に発展させる火種をこれ以上作らせるな!」
「クローディア。いったんコテージに戻ろうか?」

 目を白黒させていた私にユージーンが耳打ちする。そうだ。お母様は本調子ではない。

「おかあ……レイラ様。どうかお願いですから、まずはお身体を休めてください」
「フンッ。さっさと去れ!」




 私がウィンドラ公国に来たがために祖父と仲違いをさせてしまった。
 ユージーンと私は母の身体のことを考え、後ろ髪を引かれる想いで公城を後にした。

「クローディアが気に病むことはないんだ。年寄りなんてあんなもんさ。みんな頑固になっていく」
「あの方がお祖父様なのよね。どうしましょう。仲良くできる気がしないわ……」

 お母様はもっと話したいと言ってくれたのに、お祖父様は許してくれないだろう。
 私だって、お母様とまだ話したいことが山ほどある。

「本気で飛竜便を止めそうな勢いだったしな」
「そうね。でも、屈したくないわ。飛竜便はお母様の希望だったのよ。父親だからこそ、踏みにじってはいけないところなのに」

 悔しくて眉間に皺が寄る。きっと酷い顔をしているだろうが止められない。

「最愛の娘を目の前にしたレイラ様は、現役騎士も尻込みするお強さだ。気迫が違うんだ。それに、手立てはあるのだろう。俺たちはできる限りの協力をしていこうか」

 皺が寄った場所をグリグリと指先で伸ばされ、状況は不利に思えるのに思わず顔が綻んでしまった。

「うん。私もお母様のように強くなるわ。お祖父様に負けたくない。コンラッドさんにもね」

 私がそう言って拳を掲げると、ちょっとだけユージーンが目を見開いてクスリとした――
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