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番外編
『外泊』その後
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いつもと違う場所での目覚めというのは 何かと新鮮に感じるものだ。
自宅ではないが故の香りや空気感は特別ななにかを含んでいて、いつもなら目が覚めてしばらくすると軽く湯を浴びようとする樫も、今日ばかりは寝台で横になったまま、じっと深呼吸をして朝の穏やかな時間を過ごす。
すこし空気がひんやりとしているのは この宿が木々に囲まれているからだろうか。
部屋中に満ちている木の香りに 浴室からかすかに漂ってくる温泉の香り…どれもが自宅のものとは違う。
同じく隣で目を覚ました蔦も、樫にまとわりつきながら ぼうっとそれらを感じているようだ。
「今日は……この後は?」
樫が蔦の髪を手で梳きながら問いかけると、蔦は「ん…そうだな」と一度深く息を吸って答える。
「ここを出る支度ができたらまた俺の実家に行って、そこで朝ご飯にして…あとはどっか好きなところでも見ながら帰ればいいんじゃないか」
何気なく言う蔦に「朝ご飯って、ご実家は医者で忙しいんだろ?いいのか、お邪魔しても」と心配して訊ねると、「あぁ、大丈夫だよ」と軽い答えが返ってきた。
「俺の家族だけかどうか知らないけど…皆は朝早く起きて軽く食べた後に薬草を採りに行くんだ。で、採ってきた薬草の下処理をしたりしてからちゃんとした朝ご飯を食べるんだけど…色々やってからの朝ご飯だから普通の家庭より少し遅い時間に食べ始めるんだよな。だからゆっくり支度を済ませていっても全然間に合うんだよ」
「それに『朝ご飯こそしっかり摂らなければならない』っていうんで、かなりしっかりした量と品数が出るんだ。昨日、母さん達は樫が来てるからって特に張り切ってたし…むしろ食べていかなきゃがっかりするはず」
それを聞いた樫は蔦の言う通り、朝食を蔦の実家で摂るということに同意する。
なにより、久しぶりに蔦が実家での食事を味わうことのできる機会でもあるのだ。
その機会を奪うようなことはするまい。
浴室で湯浴みをして汚れと疲れをすべて洗い流した2人は、すっきりとした体で帰り支度を進める。
寝具などは予洗いだけを済ませ、共同の洗い場にある水車を利用した洗濯槽に放り込んでおけばいいとのことだった。
適当な時間になったら宿を管理している人々が干して元通りにするらしい。
「ちょうど今はまた数日後に満員になる宿の寝具をすべて洗い直してるんだ。だから一緒にしておいていいんだよ」
詳しい内情を知っている蔦に、樫はつくづく(蔦も宿を管理してる一員のようだな…)と感じて小さく笑った。
昨日の夕陽で紅く染まった風景とはまた違った酪農地域の朝。
すでにいくつかの牛舎や厩舎からは家畜達が放牧されていて、のんびりと牧草を食んでいる。
「また…来ようか。休みを取ってゆっくり」
樫が言うと、宿の戸に鍵をかけていた蔦は「あぁ、そうだな」と晴れやかな笑顔を見せた。
「部屋も泉質の違いとかで色々あるから一通り試してもいい、いくらでも案内するよ。時期的に言うと、次に空いてるのはだいたい…」
「おまえは本当に詳しいな」
あははという愉快な笑い声が辺りに響く。
2人は寄り添って酪農地域の中を歩きだした。
自宅ではないが故の香りや空気感は特別ななにかを含んでいて、いつもなら目が覚めてしばらくすると軽く湯を浴びようとする樫も、今日ばかりは寝台で横になったまま、じっと深呼吸をして朝の穏やかな時間を過ごす。
すこし空気がひんやりとしているのは この宿が木々に囲まれているからだろうか。
部屋中に満ちている木の香りに 浴室からかすかに漂ってくる温泉の香り…どれもが自宅のものとは違う。
同じく隣で目を覚ました蔦も、樫にまとわりつきながら ぼうっとそれらを感じているようだ。
「今日は……この後は?」
樫が蔦の髪を手で梳きながら問いかけると、蔦は「ん…そうだな」と一度深く息を吸って答える。
「ここを出る支度ができたらまた俺の実家に行って、そこで朝ご飯にして…あとはどっか好きなところでも見ながら帰ればいいんじゃないか」
何気なく言う蔦に「朝ご飯って、ご実家は医者で忙しいんだろ?いいのか、お邪魔しても」と心配して訊ねると、「あぁ、大丈夫だよ」と軽い答えが返ってきた。
「俺の家族だけかどうか知らないけど…皆は朝早く起きて軽く食べた後に薬草を採りに行くんだ。で、採ってきた薬草の下処理をしたりしてからちゃんとした朝ご飯を食べるんだけど…色々やってからの朝ご飯だから普通の家庭より少し遅い時間に食べ始めるんだよな。だからゆっくり支度を済ませていっても全然間に合うんだよ」
「それに『朝ご飯こそしっかり摂らなければならない』っていうんで、かなりしっかりした量と品数が出るんだ。昨日、母さん達は樫が来てるからって特に張り切ってたし…むしろ食べていかなきゃがっかりするはず」
それを聞いた樫は蔦の言う通り、朝食を蔦の実家で摂るということに同意する。
なにより、久しぶりに蔦が実家での食事を味わうことのできる機会でもあるのだ。
その機会を奪うようなことはするまい。
浴室で湯浴みをして汚れと疲れをすべて洗い流した2人は、すっきりとした体で帰り支度を進める。
寝具などは予洗いだけを済ませ、共同の洗い場にある水車を利用した洗濯槽に放り込んでおけばいいとのことだった。
適当な時間になったら宿を管理している人々が干して元通りにするらしい。
「ちょうど今はまた数日後に満員になる宿の寝具をすべて洗い直してるんだ。だから一緒にしておいていいんだよ」
詳しい内情を知っている蔦に、樫はつくづく(蔦も宿を管理してる一員のようだな…)と感じて小さく笑った。
昨日の夕陽で紅く染まった風景とはまた違った酪農地域の朝。
すでにいくつかの牛舎や厩舎からは家畜達が放牧されていて、のんびりと牧草を食んでいる。
「また…来ようか。休みを取ってゆっくり」
樫が言うと、宿の戸に鍵をかけていた蔦は「あぁ、そうだな」と晴れやかな笑顔を見せた。
「部屋も泉質の違いとかで色々あるから一通り試してもいい、いくらでも案内するよ。時期的に言うと、次に空いてるのはだいたい…」
「おまえは本当に詳しいな」
あははという愉快な笑い声が辺りに響く。
2人は寄り添って酪農地域の中を歩きだした。
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